「聖女様は、
「……ええっと、
「その通りです。私たち魔人族は、戦いを崇高なるものと考える遊牧民族でした」
(戦闘民族じゃなかったのね……)
「しかし数百年ほど前、南の領土を巡って人間と魔人族の間で争いが起こりました。それ以降、我らの存在は帝国中で否定され、悪の代名詞となり──我らは生きる意義を見失ったのです」
「本来魔人族は、魔物と戦う貴重な戦力として、南の守護を頼む形で領土を与えたというのに……。ごめんなさい」
「聖女様が謝られることはありませんよ。もうずっと前のことです」
私はかける言葉が見つからず、声が詰まってしまった。
南の果ては魔物が出現する霧が生じやすい。魔物の侵攻を防ぐためにも、戦闘力が高い魔人族に任せていたのだ。数百年前までは。
「我らは古の契約により、帝国を離れる事はできません。ゆえに霧と共に森を彷徨い、
(え、静かに? 森の中でドンパチしてたけど……。というか出会いを求めているという割に、たいして活動してない気がするような。あ、でもそれは幻術を掛けられていたから? ……って思ったけど、出会った二年前も血気盛んで好戦的な感じだったわ)
当時は正式な挨拶もしておらず、団長とレオンハルトが戦いの中で名乗ったぐらいだ。その時に私は彼の名を聞いたけれど、私は挨拶もしていない。
今後の交渉も考えて、改めて名乗るべきか考えていたのだが、レオンハルトが先に沈黙を破った。
「話をまとめますと、聖女様。貴女は私にとっての片翼なのです」
「え、違いますよ」
目を輝かせている美丈夫に私は即答する。だが、さすがは魔人族の長。全く動じていないどころか、そっと私の頬に彼の手が触れた。いつの間に!?
すでに距離感が可笑しいのだけれど、私の冷めた視線など気にもしていない。いや気にしてください。お願いします。
「私の
「
「私に死ねと……」
(触れられないイコール死なの!?)
私の反応に気づいて、レオンハルトは苦渋に満ちた顔で見つめ返す。
「わかりました……。ならばいっそこれで……私の命を捧げ」
「捧げなくていいから!」
次は十五センチほどの銀の短剣を私に膝の上に置きかけたので、彼に短剣を突き返した。いくつ短剣を持っているのか言及しようとしたが──。
「では触れてもいいのですね! なんとお優しい」
「違う!」
否定するが、もう遅い。
再び頬に触れるレオンハルトの手は壊れ物を扱うように優しい。剣ダコ、皮膚の固さ、ゴツゴツとした手は私とは全然違う。さりげなく出来るのは、こういった扱いに慣れているからなのだろう。それはもう自然でした。これだから美形は……。
彼にとって私はきっと物珍しい感じなのだろうと、彼の告白を私は本気にしなかった。
(あ。そういえば……)
数時間前のことがやけに昔のよう感じ、思い出すのに少し時間がかかった。死に戻りしたからか、記憶がどうにもゴチャゴチャしてしまっている。
(えーっと、過去では私が浄化魔法で解除出来たけれど、攻撃の余波で私は気を失ったはず……。それで気づけば、教会に護送されていたのよね。でも、レオンハルトの話から察するに……)
レオンハルトの手首や足先へ視線を向ける。思った通り、
(意識を失っていた私が早く目覚めたことで、過去と状況が変わってきている?)
「貴女の許可も出たので、ここで婚姻の儀を──」
「しません」
即答してしまったが、レオンハルトは別段目くじらは立てなかった。むしろ「素っ気ないところもいい」と呟いたのが聞こえてしまい、冷や汗が流れた。
(……ええっと、レオンハルトってこんな感じの性格だった? もっと人間を憎んでいて、好戦的で残虐、冷徹なイメージが強かったんだけど……)
私の記憶にある彼と現状の彼が、どうにも一致しない。よくよく考えてみれば、彼と二人でこんなに長く話す事もなかった。
兎にも角にも、今がいつなのか確認が必要だという結論に至る。
「レオンハルト、今は帝国暦何年かわかりますか?」
「答えたら婚姻の儀を──」
「だからしません」
私は自分の笑みが引き
「そうですね。聖女様はまだ成人していないのですから、いきなり婚儀では戸惑っているのでしょう。でしたら添い寝から──」
「わ、私ではなく他の方に頼んでは? その顔ですのでモテるでしょう」
「魔人族は強さこそが全てです。強さこそ愛」
「うん。戦闘大好きさんだものね」と私は心の中で思った。もはや私の笑みが引き