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第7話

「エルバ、ごきげんね。何かあったの?」


「あ、ママ。あのね、えっ――と。これは、なんの植物かなって? 気になって振っていたの……」


 おう、なんたる苦し紛れの言葉だ。ほんとうはコメを見つけた、喜びの舞を舞っていたのだけど……。


「ああ、それはね。都市に住む、鬼人たちが作るコメ草というめずらしい植物なの」


「鬼人? コメ草?」


 な、なに、この都市には魔女、魔法使いの他にファンタジーに出てくる、頭部に手のを生やして、強力な魔力、力を持つ、鬼人族まで住んでいるの⁉︎


 ママは私が興味を持ったとわかると、コメ草について詳しく教えてくれた。この魔法都市の北に住む、亜人種族の鬼人はコメ草という草を栽培している。鬼人はこのコメ草から採れる白い粒に水と熱を加え、鍋でトロトロに煮込み"コメのり"というノリを作っている。


「のり?」

「ええ、自然の接着剤ね」


 鬼人はほかにも、木の皮から作られる鬼紙(キシ)といわれる紙も作っていて、手帖、障子の紙、電気のかさ、提灯、雨よけのキシ傘など面白い家具を使っている。


 ママたち魔女、魔法使いは高級な羊皮紙よりも、キシの方が書きやすくて、使っている者は多いと教えてくれた。


 ――彼らが使う鬼紙(キシ)は和紙のことだ。


 そして、ママは前からコメ草が気になっていたらしく。傷薬などの薬とコメ草を物々交換してきて、コメ草から薬が作れないかを実験すると話した。


 その実験も面白そうだけど、私は米を炊きたい。

 ママにそのコメを炊いて食べると"美味しいよ"と伝えたいの……だけど「その知識は何処で知ったの?」と聞かれると説明に困る。


 どう説明をしたらいいのか。

 話したら話したで、前世の記憶から話さなくてはならない。


 ママにおかしな子だと思われて嫌われる?

 この世界に生まれ変わって、優しい両親と出会えた……もう1人ぼっちは嫌だ。伝えたくてもいえない私に、ママは優しく私の顔を覗き込み。


「エルバ、言いたいことがあったら、なんでもママに言っていいのよ」


 と微笑んで言われて、私は思い切ってママに「コメを炊きたい」と伝えた。ママは変に思うどころか「コメを炊くの?」「それは面白そうね。さっそく、やってみましょう」と言ってくれた。


 ――ホッ、よかった。変な子だと思われなかったみたい。



 コメを炊こう! だが、ここで問題。

 コメ草から、コメはどうとるのだろう?


 博士は、なにか知らない?


《コメ草の実の取り方は袋に実の方をいれ、振れば実が殻からコメが飛びでてきます》


 へぇ、お米とは違い。もみすり、精米とかいらなくて、振るだけでいいなんて簡単だ。


 ありがとう、博士。


「ママ、使ってもいい袋ない?」


「袋? わかった。コメ草の実を採るのね。待っていて、いま持ってくるわ」


「ありがとう」


 ママが持ってきた袋に、コメ草の実の方をひと束入れて振った。ザラザラと袋の中に殻から飛びでてくる。


「ママ、袋の中にコメがとれて面白い」

「ほんと、楽しいわね。鬼人の人もコメを採りだすとき"楽しいよ!"と、言っていたのはこのことなのね」


 全てのコメが取れたみたいで袋の中を覗いた。

 あ、昔見ていた半透明なお米とは違い、コメ草のコメは真っ白な粒だった。


 その、とれたコメをハカリで測ると全部で450gあった。えーっと、450gということはお米だと三合ぶんかな。二合を炊くときは水が400だから、三合の水は600ml。


 私はお米(450グラム)三合を炊く準備を始めた、コメをザルで軽く洗い、鍋に入れて水600mlいれてお母さんに渡した。


「それにしても、コメ草を炊いて食べよだなんて、エルバは面白いことを思いついたわね」


 ……きた、この説明が難しい。


「あのね。ママとパパに買ってもらった図鑑に載っていて、気になっていて……テーブル上に見つけて、かじったの」


 なんとも。

 ベタで、ヘタな説明だ。


「まあ、コメ草をかじったの? ……エルバはパパと同じ食いしん坊さんね。今回はエルバの手の届くところに置いておいた、ママが悪いわね。だけど、次から。知らない植物だったら勝手に触らず、ママに聞いてからにして欲しいわね」


 大丈夫、私には教えてくれる博士がいて、コメ草が食べられる植物と知っていた。だけど、普通なら知らないことだ。このコメ草が、危険な植物だったら……大変なことになっていたと、ママは言いたいんだ。


「わかった、次からはちゃんとママに聞く」

「いい子ね、エルバ」


 優しい瞳、優しい手で撫でてくれた。



 コンロにママが魔法で火をつけて、コメが入った鍋をかけた。しばらくして水が沸騰したら、コンロの火を調節して弱火にする。――弱火で九分加熱して火を止め、コンロから下ろして、タオルに包んでコメを十五分蒸す。


 ――そろそろ、十五分かな?


「ママ、十五分たったよ」


 食卓の上でママと、炊けたコメが入ったお鍋を見つめる。


「いい、エルバ、鍋の蓋を開けるわよ」

「うん」


 ドキドキする――匂いはいい、後は味だ。


 ママがミトンをはめた手でタオルを外し、お鍋の蓋を開けると炊き立てのお米に似た甘い香りがした。みためは……あ、真っ白だったコメの色が半透明になっていた。


(いい香り――炊き立てのお米と同じでふっくら、ツヤツヤ、お米がたってる……これは絶対においしい!)


 ゴクっと喉がなる。


「なんとも言えない、いい香りね。炊く前のコメ草の粒は真っ白だけど……炊くと半透明になって艶が出るのね。エルバ、コレはどうやって食べるの?」


「……えっ、どうやって」


 はっ! コメを炊くことばかりに気を取られていて、食べ方を考えていなかった。


「フフ。まずは味見からね」

「うん!」


 炊けた白いコメをスプーンて一口とり食べる。

 お、おお! 味はもちもちしていて、米に似ていた。


「美味しい!」 

「ほんと、甘くて美味しいわ」


 ママにも好評。コメ草をエルバの畑一ページ分に増やせば。いつでもコメが食べられるなんて幸せ!


《エルバ様。コメ草について内容が更新されました》


 内容の更新?

 博士、それは何?


《コメ草の実は腹持ちがよい。エルバの畑で採取したコメのおにぎり一つで1日中、空腹を感じません》


 ほぉ。エルバの畑から採れたコメのおにぎりを食べると、一日中は空腹を感じない⁉︎ 普通のコメでも腹持ちがいいのか。


「エルバ。コメが美味しいから、パパにも食べてもらいたいわね」


「うん。ママ、そうしよう」


 あ、でも。この異世界に保温が出来る炊飯器とか、冷やす冷蔵庫はない。ここでの食べ物は保存魔法がかかる保存箱にしまっている。その箱に炊けたコメを入れると、そのまま保存されるのかな?


「ねぇママ、炊きたてのコメをこのまま保存箱に入れると、どうなるの?」


「いまの状態で、箱の中に保存されるわ」


 ほぉすごい。


「だったらパパも、炊き立てのコメを食べれるね」


 仕事から帰ったらパパの好きなお肉を焼いて、ステーキ丼にするのもありかな? この夜の夕食は焼き野菜と、塩コショウで味付けしたステーキを乗せた丼。はじめは不思議がっていたパパも、コメを一口食べて気に入ってくれた。


「美味い! コメというのは肉との相性がいいな! これから何杯も食べられる!」


「ほんとうね。お肉も野菜も美味しいわ」

「コメとお肉、最高!」


 家族で大満足の夕食だった。

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