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クソOL白石
ぼくる
現代ファンタジー都市ファンタジー
2024年10月04日
公開日
2,788文字
連載中
新社会人の白石。彼女が世界を支配するまでの軌跡を辿る一大抒情詩。
ステキな世界は素晴らしくて最高なほどクレイジー。
皮肉や風刺なんかじゃないと断りを入れる暇もないほど、生きるのは最高で。

第1話 つり革ロープにうってつけの日

「白石テメゴラァ!」

 福岡部長の声がして、わたしはあえて後ろに首を回す。

 呼ばれてるよ、そう言いたげな感じに振り返るのである。

「お前だよ」コンマ0.2秒の間を空け「なめくさっとんか!」と怒鳴る。

 あぁ、わたしだったわたし。そんな風にバカな振りして、部長のデスクに歩み寄る。

「はい」

「遅れてんのになんもなしか」怒鳴り声とは打って変わって、平坦な口調。

「あ、遅延証明あるんですよ、あっちの財布に――」

「天才キタコレェ!」嫌味たっぷりに大声で言う「多少の遅延は予測して会社こいっての! あァ!?」

「えぇ……そんな、わたし預言者じゃなくて、その――」

「そうだそうだ、お前は預言者じゃない」と、部長は一旦声を落とす。そして怒鳴る「でも社会人だろがァ! 学校じゃねんぞ、ねえんだぞオゥラァ!」

 はい、すいません。仰る通りです。

「なんやこいつ」

 つい逆になった。

「あ?」部長は顔をしかめる。まぁ聞こえたよないまの。「おぉうんわかった。ちょいこっちで話すか」

 かしこまりました。

「かしこまりました」

 ちゃんと言えて、偉いわたし。今日はちゃんと服を着た、ちゃんと電車に乗った、ちゃんと起きた。健やかにのびのび育ってきた。

 それだけで偉いわたし。だから二人っきりで褒められるに違いねェ。

 そう必死に思い込む。


  帰宅途中の電車。つり革が自殺用のロープ染みてて、それをブラックジョークだななんて思う余裕もない、ない、ない。

 こんな発想みんながしてんだろうなと失望して、くっさい溜息ついこぼす。

 誰も行動に移さないのは輪っかの直径が小さすぎるからで、そこで死のうとするのは猫くらい。

 100万回生きた猫が死ぬのに飽きて、面白い死に方を模索した挙句やっと見つかるその方法。

 だけど試しに頭を通してみようと思ってつり革を掴む。

 爪先立ちして、頭の上にあてがうつり革。やっぱり通らない。

 夜のガラス窓に映る自分がバカに見える。でもバカは同時に頭の輪っかで「天使っぽいな」と思いつく。

 水を得たバカはとどまることを知らない。

 帰りの電車を行きの電車にしよう。そう思ってそのまま会社へ引き返す――。


「もしもし、白石です」

「あぁ、なんだこんな時間に」

 不機嫌そうな部長の声。

「誰も会社にいないんですが」

「はぁ?」

「ですから、誰も会社にいないんです」

「いま、会社にいんのか?」

「はい」数秒の沈黙「もしもし――」

「クソかよ」

「恐れ入りますが、今日部長が仰った通りに遅延を考慮し出勤した次第でございます」 

 部長の叱責をわざと真正面から受け止めて、嫌味たっぷりに行動に移したわたしだった。

「お前……っ! バカ、クソっ……! お前なぁ! イカれてんのか?」

「とおっしゃいますと」

「どこから! 言えばいい! クソっお前っ!」

 効いてる効いてる。最高に気分がいい。わたしは追撃の手を緩めない。

「ですが部長に言われた通り来ました。なんです? あぁ待ってください、なんか見えます。部長のデスクでなんか男女がエッチな雰囲気になってて――あぁ、あれ部長のブスな奥さんですわぁ。不倫相手は中村課長ですねぇワオ」

 しばらく無言が返ってくる。

「部長? もしもーし、部長ぉ聞こえますかー?」

「度胸だ」

「なんですか?」

 なんかわけわからんこと言っとる。

「その度胸、そして従順さ、向上心。認めざるを得ない。昇進だ」

 は?

「は?」

「わたしは、君のような人材を待っていたのかもしれない」

「なにいうてんすか」

「明日、書類を渡す。君さえよければ、ぜひよろしく頼む」

「まじかよ」

 翌日、わたしは課長になった。

 世界も社会も素晴らしいほどバカバカしい。

 妙に腑に落ちたわたしは、せっかくなら社長の座を狙おうと思った。


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