1年後。
今日はテレジアお姉様たちの、結婚式だった。
もうレイブンお兄様に恋心は残ってはいなかったけれど、正直結婚式は出たいものではなかった。
でも跡取り娘として行かない訳はにはいかないし、頑張って出席した。
でも、式に出席したことによって、意外にも――心の中で区切りがついた気がした。
出てよかったかもしれない。
しかし、結婚式といえば、水面下で行われる婚活がめんどくさかった。
特に私はまだ15歳。婚約適齢期で、伯爵家の跡取り……ともなると、代わる代わるその伴侶の座を狙う令息が寄ってくるのだ。
ジョエルが傍にいるから、一応平気だったけど、やはり苦手感は拭えない。
もったいないなあ、とも思う。せっかくモテモテなのに。
結婚式から帰ってきたらどっと疲れが出て、私はソファに座り込んだ。
「あー……疲れた。今日はこのあとはゆっくりするわ。それにしても跡取り娘になったらこんなに令息が寄ってくるものなのね……」
「おつかれさまでした。大変でしたね。跡取り娘ってだけじゃないですよ」
「他になにかある?」
「あなたはこの1年でとても綺麗になりました」
「……。あなたからリップサービスをもらえるとはね、ありがとう」
自分ではそんな変わった風に思えないぶん、素直には受け取れない。
「リップサービスじゃないですよ。以前、テレジア様のようにはなれない、と仰ってましたが、同レベル以上のレディに成長されたかと。美しさの種類は違いますが」
「そうかなー……。ちょっと、照れくさいからやめてちょうだい。そ、そういえばお姉様のウェディングドレス姿、美しかったわ。触れてはいけない女神様のように」
「テレジア様は性格に反して儚げなイメージでしたが、あなたは見た人が癒やされるような優しい容姿です。男性からするとちょっと小動物系で可愛らしいですし……いやはや、今日も良からぬ令息がいっぱいよってきて、追い払うのに苦労しました」
「ちょ……ほんとやめて!?」
どうしたの今日は!
ちょっとしつこいし……追い払おう。
「えっと、ジョエル。お風呂入りたいし、侍女呼ぶから悪いけど――」
「その前にオレから、すこしお話があります。いいですか?」
私はすこし溜息をついた。
「いいですかって、どうせ駄目っていっても話すのでしょう? なにかしら?」
「実は、オレ。2年ほど前からジョエル=ラングレイではないんです」
はい?
いきなり突拍子のない話がはじまったわよ?
「え、どういうこと」
「実は、ファルストン辺境伯の養子になってました。つまり、オレはジョエル=ファルストン辺境伯令息なんですよ」
「はい!?」
どういうことなの……でも、そういえばファルストン辺境伯もうちのお父さまも妙にジョエルに甘いというか厳しさが他の使用人と違う……とは思っていたけど……。
「どういう経緯で!? レイブンお兄様は知ってたの!?」
「レイブンも最近知ってびっくりしてましたね」
「呼び捨て!? 彼は年上でしょ? 兄上とか言いなさいよ!?」
「まあ、そんなことより、お嬢様。これ、受け取ってくれませんかね」
そして、後手になにか持ってるかと思ったら、花束をバサ、と無造作に渡された。
「そんなこと!? 大事なことだよ!? ……って、なにこれ」
「好きです。結婚してください」
「はい……!? また唐突な!? ……え、好き!? 私を!? は? 結婚!?」
「はいって言った」
「ガッツポーズしないで!? イエスの意味での、返答じゃないから!?」
「え、まさか振られるんですか? オレ」
「断られることを考えてなかったの!?」
「……」
無言の肯定……!
考えてなかったわね!?
おかしい。
告白されるって、ロマンチックな場面だと思うのよ。
私の頭には混乱しかない。
私のただただ混乱するだけの表情を見てジョエルは言った。
「……段取りをまちがえましたね。こういうの、苦手です。すいません。……えっと説明するとですね」
それから、私に順を追って説明しだした。