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【04】テレジアお姉様とレイブンお兄様と私


 「テレジアお姉様、ごきげんよう! レイブンお兄様! 来てたのね!」


 ピアノのお稽古が終わり、中庭へと散歩に出たら、大好きな幼馴染の姿が見えて、私は駆け寄った。

 テレジアお姉様とお茶していらっしゃる!

 私はドレスをたくし上げて駆け寄った。


「やあ、こんにちは。ミルティア。転ばないでよ?」

「あら、ミルティア。ごきげんよう。まあまあ走っては危ないわよ」


「だって、テレジアお姉様! 早く輪に加わりたかったのだもの! 今日お茶するなら教えて頂きたかったわ!」

「ごめんね、ミルティア。近くまで来たものだから急に。君はピアノレッスンだと聞いたから……あとでちゃんと呼ぶつもりだったよ」


 中庭でお茶をしていたのは、私の姉であるテレジア=アシュリード、そして私の片思いの相手であるレイブン=ファルストン辺境伯令息。


 ファルストン辺境伯爵家と我が家門アシュリード伯爵家は、父同士が懇意にしており、レイブンお兄様は幼い頃からよく我が家に遊びにいらっしゃっていた。


 テレジアお姉様とレイブンお兄様と私の3人での幼馴染だ。


 テレジア姉様とレイブン兄様は、落ち着いていらっしゃるように見えるけれど、これでも、子供の頃はよく喧嘩していたのよ?

 ここ数年ではめっきり二人共すっかりステキな大人になられた。


 ちなみにテレジアお姉様は18歳、レイブンお兄様も同じ年だ。

 そして私は14歳ですこし年が離れている。


 でもそのせいか、2人にはとても可愛がってもらっている。

 2人が喧嘩しても、私がやめてよって言ったらいっつも笑顔になって仲直りしてくれる。


 でもさっきも言った通り、2人も大人になられて、私もすこし背伸びしているので、最近は一緒にいても穏やかな空気が流れる。


 私も輪に加わり、3人でのお茶会が再会する。


 しかし――。



「……くしゅん」


「お姉様、大丈夫?」

「テレジア――」


 レイブンお兄様がテレジアお姉さまの肩に自分の上着をかけた。


 そういえば、テレジアお姉さまは、最近風邪をひいていらっしゃった。

 病み上がりなのに、多分、レイ兄様がふらっと来たから無理してお茶してたのね。


 領地が近く、さらにその領地のなかでも、屋敷が近い場所に立ってるので、レイお兄様はたまに前触れ無くいらっしゃる。

 そういうことができるほど、私達は仲が良い幼馴染だ。


「レイ、ありがとう。ちょっと風に当たりすぎたみたい」

「だから室内でやろうと言っただろう。まったく君はすぐに熱を出すのだから」


「やあね、おせっかい。太陽の光を浴びることだって必要なのよ。吸血鬼になっちゃうわ」

「君はいつも飛ばしすぎだからなあ……。領地の仕事も始めて忙しいのもわかるが、もう少し自分の身体を考えたほうがいい」

「レイブンお兄様の言う通りよ。お姉様、ティーセットを応接室に移してそっちで続きしましょ?」


「――いいえ。私はもう部屋に戻るわ」

「そうか。なら、送ろう」


 レイお兄様が姉の手をとり、立ち上がらせた。


 残念、お茶会に加わったばかりだったのに。

 でも、仕方ないよね。


「ミルティア、来たばかりなのに、ごめんよ」


 私のそんな心のうちに気がついたのか、レイ兄様が気遣ってくださった。


「あ、いえ、そんな! お茶会はまたいつでもできるもの! お姉様をよろしくお願いします!」


「ミルティア、ごめんね。今日はレイもいきなり来たから……。今度はあなたのお稽古がない日に時間を合わせましょうね」


「はい!」


 お姉様が優しい微笑みで約束してくださった。


 レイブンお兄様の後ろ姿を見てちょっと切なくなる。 

 アーモンド色のサラサラとした髪に、優しげなグリーンの瞳。


 昔はテレジアお姉様とよく喧嘩して、私のことは良くかわいがってくれた。


 いつしか私は、そんなレイブンお兄様に恋をしていた。

 優しい年上の幼馴染。


「あのお二人お似合いですね」


 気づけば背後にジョエルがいた。


「はっ。またいつの間に! ……っていうか、お二人は幼馴染よ? 滅多なこと言わないで! 2人に変な噂でもたったらどうするの!」


 私はキョロキョロしながら続けた。


「お姉様は跡取り娘で、レイブンお兄様は跡取り息子。二人共婚約者を探されてる状態よ? 変なこと口にしないでよ!」


 ジョエルは頭をポリ……とかいて


「変なこと……ですかねえ」


 お姉様は、跡取り娘。

 お姉様は領地にとってふさわしい男性を選びたいから……と厳選していてなかなかお相手が決まらないようだ。


 なので、18歳になりそろそろ結婚したほうが良い年齢にもかかわらず婚約もされてない。

 釣書はたくさん来ているのだけれど。


 レイブンお兄様は、これから大学院に通われるおつもりで、勉学に集中したいために婚約者をまだお決めになりたくないそうだ。


 ――婚約者につかう時間を勉学に使いたいんだ。


 学院で高成績を収めていらっしゃるので、自分のために時間をお使いになりたいのだろう。


 私は冷たくなった紅茶を手に取った。

 冷えた紅茶も嫌いじゃない。


 私はもう少し、1人でお茶することにした。






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