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第41話

 それから日は流れ、魔法実技試験を明日に控えた夜。


「ほう、その試験とやらは明日なのですか」


 召喚魔法でジャスティーナの部屋に呼び出されたヴィムは、主人から出された缶入りのクッキーを口いっぱいに頬張りながら言った。


(小さな魔獣がお菓子を食べてる姿って、何だか可愛らしいわ)


 傍で眺めていたジャスティーナはほっこりした気持ちになる。


「対戦方式ですか。しかし相手方が気の毒ですな。ジャスティーナ様なら瞬殺でしょう。きっとひとたまりもないに違いありません」


「瞬殺って……対戦といっても戦闘じゃないのよ。相手を再起不能にするまで攻撃する試験でもないし。自分と他人の魔力を合わせて、いかに特性を活用、応用できるかが今回の試験の本質でそれを評価されるの。もちろん、私本来が持つ風の魔力のみよ。それに万が一、生み出された強い魔力で相手に致命傷を負わせないように、試験前には先生が生徒全員に防御魔法をかけてくれるのよ」


「ジャスティーナ様にはそのような防御魔法、不要でありましょう」

「そうはいかないわ。今は生身の人間なんだから」

「……そうでしたな。くれぐれもお気をつけて。……組む人間というのはもしやあのルシアンでは……」


 ヴィムは食べるのをやめて、心配そうな面持ちで尋ねる。


「いいえ。ルシアンは同じクラスの男子生徒と組んでるわよ」

 ジャスティーナの答えに、ヴィムはホッとしたように再びクッキーにかじりついた。


「私はロレッタと一緒に出ることになったの」


 その名前を聞いてヴィムは急にせき込むと、本棚の方へ視線を向けた。


「……それは、あの本の持ち主では……」

「ええ、そうよ」


 本棚の一角にはロレッタから預かった例の魔獣関連の本が並んでいる。

 もちろんジャスティーナも読ませてもらったのだが、ヴィム曰く、内容は結構デタラメらしい。 


 例えばヴィムのような竜は、『泥団子が好き』『辛い物を好んで食す』『翼の付け根にツボがあり、押すと気絶する』など。

 ヴィムは泥団子なんて食べないし、今クッキーにかじりついている様子から甘い物も好きなようだ。


 ツボの件だが、ジャスティーナが試しに一度ヴィムの翼の付け根を押してみたことがある。しかし気絶するどころか何も起こらなかったため、何度も押し続けていたらやがてヴィムが暴れ出した。痛かったのかもしれないと謝るジャスティーナが本の内容を説明すると、ヴィムは不満を爆発させた。


『その内容を書いた者を呼び出してください! 抹殺しますゆえ』


 間違ったことが後世に伝わっていることが許せず、魔獣の尊厳を傷つけられたと感じたらしい。それを書いたロレッタの祖先はすでに故人なので、ヴィムの要望が通ることはなかったが。ちなみに痛かったのではなく、くすぐったいのをずっと我慢していたからだそうだ。


「……あのような内容を書く子孫と元魔王様が一緒に戦うなど……」

 ムッとするヴィムをなだめるように、その頭をジャスティーナは優しく撫でる。


「大丈夫。ロレッタもとても頑張ったのよ」


 今日までの約十日間、ジャスティーナとロレッタは互いの能力を合わせて攻撃に転じることができるよう、授業後は二人で特訓を重ねた。といっても、まずはロレッタの魔力コントロールを安定させないと何も始められない。そこで最初の数日間はそこを重点的に特訓することにした。なかなか上手くいかなかったが、ジャスティーナは根気よく付き合い、指導と助言を繰り返すことで、ロレッタは自分の力を使うコツを掴んできた。


 それからは二人で能力を合わせるうちに、ロレッタのレベルも上達してきた。


 そして今日、教師から初めて対戦相手が全員に伝えられた。早い段階で対戦相手を発表しなかったのは、生徒同士が対立したまま当日を迎えることを避ける目的があったからだそうだ。過去には教室の雰囲気が殺伐としてしまい、闇討ちして相手にケガを負わせようとした事件もあったとか。物騒な出来事が起こらないための学院側の配慮ということだろう。


(確かに教室の雰囲気が悪くなるのは嫌だわ。でも、ちょっと驚いた……)


 今日知らされた対戦相手。それは、アデラの友人であるオーレリアとエノーラだったのだ。


(あれからロレッタには何もしてこなかったようだけど)


 アデラたちの嫌がらせからロレッタを助けた日以降、彼女たちはロレッタに近づいていないようだ。それに、三人はそのあと仲違いでもしたのか、あまり一緒にいるところを見かけなくなった。


 あの時アデラに疑いがかかってしまったことが原因だとしたら、若干罪悪感を覚える。しかしアデラたちが一人では何もできないうちは、ロレッタの学院生活が保障されているということになるだろう。


(……もしかしたらこの試験中にロレッタだけを標的にして集中攻撃してくるかも。決して気は抜けないわ)


 絶対にロレッタを守らなければ。そして一緒にこの試験を乗り越えなくては。


 ジャスティーナは改めて決意を新たにした。



 翌日。


 魔法実技試験は教室ではなく、学舎裏手にある屋外の演習場で行われる。


 ジャスティーナとロレッタが出る順番は割と早めの方だ。

 今朝もロレッタと一緒に朝食を摂りながら戦略の最終確認をし、一度部屋に戻って身支度を整えた。女子寮の出口はロレッタの部屋の方が近いので、動線的にジャスティーナが彼女を迎えに行くことになっている。


 自室から廊下に出ると多くの女子生徒がすでに移動を始めていた。ジャスティーナもロレッタの部屋へ向かい、ドアをノックする。


 しかし、返事がない。ドアのカギはかかっていて開かないので、何度かノックを繰り返しては名前を呼んだ。その間にも、女子生徒の波は背後を通過していく。


(おかしいわね……)


 もしかして中で倒れているのではと不安な思いに駆られていると、「あの……」と声をかけられた。


 振り返るといつの間にかオーレリアが立っている。彼女はなぜか眉を曇らせていた。


「もしかして……ロレッタはいないんですか?」

「え、ええ……そうみたいですけど……」


 警戒しながらもジャスティーナが正直に答えると、オーレリアはさらに顔色を変えた。


「じ、実はエノーラもいなくなって……それで探していたら誰かがエノーラとロレッタが一緒にいたのを見たと言ってて……それでここに来たんですけど」


「えっ、二人が一緒に……?」


 ジャスティーナは一気に不安に襲われた。


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