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第14話

「え……ヴィムなの……?」

「はい。このように自在に大きさを変化することができます。これならば、人間の目につきにくいかと」


 見た目に沿ってか、ヴィムの声も若干高くなっているような気がする。

 ジャスティーナがそっと手を伸ばすと、小さいヴィムは手のひらに降り立った。


(な、何これ……か、可愛い~!)

 ジャスティーナは思わず抱きしめたい衝動に駆られたが、ヴィムは翼をはためかせて飛び立つと、少し離れた所の地面へ着地する。


「ジャスティーナ様、ここから私をあなたの手元へ召喚してください」

「召喚……?」

「はい。まず目の前で手のひらを上に向けて、念じてください。私を呼び寄せたい、と」

「わ、わかったわ」


 ジャスティーナは言われた通り、手のひらを上に向けて願った。

(ヴィム、私の元へ来て……!)


 すると、手のひらの上が赤く光り、続いて魔法陣が出現した。その中から、ゆっくりとヴィムが姿を現す。


「す、すごい、本当にできたわ!」

「当然です。あなた様にとっては初歩的な術です」

 ヴィムはなぜか得意げだ。

「これで、いつでもあなたに会えるのね!」

 ジャスティーナは笑顔でぎゅっとヴィムを抱きしめた。


「あ、もしかして、私を見ていた時はこんな風に身体を小さくしていたの?」

「はい、仰る通りです。この方が物陰や木々の隙間に身を隠しやすいので」

「それで、気配を感じて外を見ても見つからなかったのね。……あ」

 大事なことを思い出し、真顔に戻るとヴィムを離す。

「そうだわ、帰る方法をまだ見つけていないんだった……」


 一番確実な方法は、来た時と同じくヴィムに学院まで運んでもらうことだ。しかし、そんなことをすれば目立つどころか、魔法の攻撃を受けて、ヴィム共々墜落してしまう可能性の方が高い。


 歩くにしてもここは北の地で、学院までどのくらいの日数を要するかわからない。その間に、ジャスティーナは行方不明者扱いとなり、周囲に心配と迷惑をかけてしまう。


 ジャスティーナが思い悩んでいると、ヴィムが口を開いた。

「メイザネラ様は、私に乗って移動することもお好きでしたが、お一人でもよく出歩いていらっしゃいました。何でも、記憶に残っている場所なら、すぐに移動できるのだと」

「すぐに……?」

「はい。転移魔法と呼ばれるものだとか」

「えっ⁉」


 その魔法の名なら聞いたことがある。転移魔法は上級者しか扱えない、高度な魔法だ。国の中でも一握りの人間しか習得できていないと言われている。


「そ、それはさすがに無理よ」

「いいえ、あなた様にはできます。とにかくお試しを。さあ、こちらへ」


 ヴィムに促され、躊躇しながらもジャスティーナは岩から降りる。その下の少し開けた地面の真ん中に立った。

「と言っても、私はメイザネラ様の術をそばで見ていただけで、詳しくはわからないのですが。メイザネラ様は広い場所に立って、手をその場についていらっしゃいました」


 ジャスティーナは、しゃがんで地面に両手をつく。

(移動できますように……!)

 すると、彼女を中心に風が起こった。


 それは円を描くように広がり、地面が赤く光り出す。

「え、何……?」

 ジャスティーナは慌てて立ち上がった。

「ジャスティーナ様、意識を集中して行きたい場所を思い浮かべてください……!」


 円の外で、ヴィムの声が響く。

 ジャスティーナは咄嗟に目を閉じて、行きたい光景を思い浮かべる。

 最後にルシアンと別れた学院の森だ。

 あくまで予感だが、彼はそこで待っているような気がする。


(学院の森へ……!)

 ジャスティーナが強く念じると、赤い光は一層輝きを増した。

 目を開けると、視界が徐々に白くなっていく。小さな黒竜の姿も霞んでいる。


「ヴィム、いつか必ず呼ぶから……!」

 その言葉を残し、ジャスティーナの姿は消えた。



 身体が急に軽くなり、自分が別の空間へ飛ばされたことがわかった。

 視界が次第に開けると、広大な緑の森の中に立っていた。

 魔族の森ではなく、人間の森に。


「帰って来れたんだわ……!」

 力を使ったことで身体が急に重くなり、ジャスティーナはその場にぺたんと座り込んだ。

 周囲を見渡すと、遠くで幾人かの声がする。


 どうやら、竜の襲撃で学院の混乱は続いているようだ。

 そういえば、ヒューバートがもうすぐ宮廷魔術師団がやってくると言っていた。


 ジャスティーナは自分の髪を見る。まだ半分が黒く変化したままだ。

(誰かに見つかると厄介だわ)

 早くルシアンに会わなければ。


 その時、近くの茂みから、人が草木を踏み分けて近づいてくる足音が聞こえた。

(誰か来たっ……!)

 ジャスティーナは慌てて立ち上がろうとするが、まだ足に力が入らない。


 顔だけは見られまいと、音のした方に背を向けて体勢を低くする。

 何とか這いつくばってでも進み、少しでも距離を取ろうとしたのだが。


「きゃっ……!」

 突然背後から飛び出してきた人影によって、腕を掴まれる。

 ジャスティーナはパニックになって、腕を思いきり振り回して暴れた。


「ジャスティーナか⁉」

 聞き慣れた声にハッと振り向く。

 目の前には、緊張と不安が入り混じった表情を浮かべたルシアンの顔があった。


「ルシアン……!」

 一番会いたかった人に会えた安心感から、ジャスティーナの目に涙が滲む。


「……良かった、無事で……本当に!」

 ルシアンは安堵したように微笑むと、ジャスティーナを強く抱き寄せた。


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