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18.

「夢ちゃん!」

 火曜日の通学路。集合場所に若葉ちゃんが居た。手を振って夢ちゃんを迎えてくれる。俺は彼女に駆け寄って、催眠状態などの後遺症も無い様子を見て心底ほっとした。

「若葉ちゃん。元気そうで良かったあ」

「心配かけてごめんね」

 並んで歩きながら話をする。若葉ちゃんはどこを歩いても車があるのが嫌になって、人のあまり居ない山に逃げ込み、そこにあった空き家で他の家出して来た子と過ごしていた事を話してくれた(彼女の中ではそう云う事になっているらしい)。

「でも、それじゃ生きてけないから。夢ちゃんは元気だし、全然平気そうにしてるし、私もちょっとずつ慣れてこうと思うんだ」

 眉尻を下げて笑い、若葉ちゃんが云う。

 俺はにこっと笑って、

「頑張ろうね」

 と若葉ちゃんの手を握った。

 若葉ちゃんはちょっと驚いた様な顔をしたあと緩く微笑んで、うんと頷いた。

 その日の昼休み。グラウンドの雲梯で遊ぼうとクラスメイトに誘われたが、俺は朱音ちゃんと会う約束があったので断った。昨日も会っていたが、昼休みの僅かな時間ではあまり話が出来なかったので、今日もまた会う事になっていた。

 若葉ちゃんはちょっと不安そうにしていたが、遊んでおいでよと促すと、後ろ髪を引かれながらもグラウンドへ行った。

 俺は中庭の菜園に向かった。各学年用の小さな畑や花壇があり、それぞれが理科の授業で栽培している野菜や花が植わっている場所だ。中央には大きな栗の木があり、時期が来るとイガが沢山落ちていて自由に栗拾いが出来る。

 朱音ちゃんは既に居た。六年生の畑の前でしゃがんでいる。

 俺が側へ行くと、朱音ちゃんは振り向き、俺の姿を確認してから立ち上がった。

「夢。お友達はどうだった?」

「元気そうだったよ。朱音ちゃんのおかげだね」

「あたしは大した事してないよ。ダヒに起こされて、状況聞いて、変身して、ダヒに云われて塔に上って狙撃しただけ」

 朱音ちゃんは軽く笑って答える。俺は緩く首を左右に振った。

「ううん。それが凄く助かったんだよ。あのままプーカと睨み合いが続いていたら……少なくとも、夢が勝てた保障は無いもん」

 そう云うと朱音ちゃんは照れ臭そうに笑って後頭部をかしかしと掻いた。

「普通、喋って浮かぶ猫に、悪い妖精と戦って! ……なんて云われて、信じて、その場で契約なんてしないと思うもん。良く変身したね、朱音ちゃん」

「他の部屋で眠らされている子達もダヒに見せられたしな。やばくて、普通じゃない状況だってのは分かったし……あたし、猫好きだから。猫が悪い奴とは思えなくて……結構、簡単に信じちゃったんだよね」

「……朱音ちゃんが猫好きで、良かったあ」

 云って、笑い合った。

 スマホを持っていれば連絡先の交換でもするところだが、俺も朱音ちゃんもスマホは買い与えられていなかった。朱音ちゃんは「中学生になったら買ってもらえる約束なんだけどね」と悔しそうだった。

 しかし、実は指輪があれば魔法少女同士で通信が可能なのだ。指輪が通信アイテムになっていて、指にはめると指輪を持つ者と会話が出来る。

 指輪をはめて話したい相手を思い浮かべるとその人の指輪が光って教え、相手も指輪をはめると石座の水晶から通信相手の顔が投影され、テレビ電話の様な状態になるらしい。まだ試していないが、今夜試してみようと朱音ちゃんと話して、大体の時間を決めたところでチャイムが鳴り、解散した。

 ダヒが云うには、まだまだ悪性の妖精が居るらしい。ダヒはダヒで日本に居る妖精の類から情報収集をすると云うが、子供同士、人間同士のコミュニティでの噂なども良い情報源になると云う。だから積極的にクラスの内外を問わず子供と交流したり、近所の人と話して、俺や朱音ちゃんも情報を集める様に云われた。

 ……夢ちゃんがこの体を取り戻すのが先か、それとも悪性の妖精を追い払うのが先か。出来れば夢ちゃんには、平和な日常を返してあげたいものだ。

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