俺はダヒに若葉ちゃんを任せ、こっそり家に帰った。そして部屋で過ごしていた風を装って、帰って来た夢ちゃんの母親に呼ばれて玄関へ向かった。
「どうしたの、ママ」
夢ちゃんの母親が目に涙を溜めて夢ちゃんを見る。そして床に膝をついて、俺――夢ちゃんを抱き締めた。
「……ママ?」
「若葉ちゃん、見付かったよ」
震える声で伝えられ、驚いた様な顔を作る。
「ほんとに?」
「ええ……ええ。それに、他の居なくなってた子達も見付かったのよ」
夢ちゃんが居なくなってしまう事を考えてしまったのか、夢ちゃんの体を抱き締める母親の腕に力がこもる。
「ママ……苦しいよ、ママ」
「ああ……ごめんなさい。若葉ちゃんね、念の為一日病院に泊まるんですって。だから明日は学校をお休みするけど、火曜日にはいつもの場所で会って、一緒に学校に行けるって」
母親は慌てて腕を離すと今度は夢ちゃんの両頬を掌で包む様にして云った。俺は心底安堵した様に、
「良かったあ」
と微笑んだ。
「……パパは?」
「もうじき帰って来るよ。若葉ちゃんのパパとママ、動転しちゃって……ええと、いっぱい若葉ちゃんの事心配してたから、二人と若葉ちゃんを病院に送ってあげててね。若葉ちゃんのママは病院に泊まるんだけど、パパは明日のお仕事もあるしおうちに帰るから、今頃うちのパパが連れて帰ってる頃ね」
夢ちゃんのママはそう云うと靴を脱いで、俺を連れてリビングへと向かう。
「お腹空いたでしょ。遅くなってごめんね。すぐご飯作るからね」
「晩ご飯なあに?」
一緒にリビングに入りながら訊く。夢ちゃんのママは思案気に首を傾げてから、俺を見た。
「レトルトのチキンドリアでも良い? それならお皿に盛って焼くだけだから、十分もあれば出来るんだけど」
一日若葉ちゃんを探し回って彼女も疲れているだろう。手を抜けるところは抜くべきだと思うから、俺は満面の笑みを浮かべて頷いた。
「うん。夢、ママの作るドリアも好きだけど、レトルトのドリアも好きだよ」
「ありがとう、夢」
ほっとした顔で夢ちゃんの母親が云う。
夢ちゃんの母親がキッチンへ向かったので、俺はリビングのソファかダイニングの椅子のどちらに座ろうかちょっと迷ったあと、ぽんと手を打った。
「ママ。お風呂沸かして来るね」
「あら、ありがとう」
「……洗い物も、今日は夢がしようか」
そう云うと夢ちゃんの母親は驚いた顔でこちらを振り返り、少し迷う様な素振りのあと、嬉しそうな笑みを浮かべた。
「じゃあ、お願いしようかな」
「うん! 任せて!」
暫くして出来上がったドリアを食べていると夢ちゃんの父親が帰ってきて、夢ちゃんと一緒に風呂に入ってくれて、俺は明日の学校の準備をして部屋に戻った。すると丁度ダヒが戻って来て、朝網戸にして行った窓から入って来た。
「あ、夢ちゃんだにゃ」
「……俺達だけの時くらい、夢ちゃんって呼ぶのやめないか」
「ボロが出たら困るにゃ。夢ちゃんも、常に夢ちゃんらしさを忘れないで欲しいのにゃ」
「誰も居ない時くらい忘れさせてくれ……」
がっくり、肩を落としたあと窓を閉めて、俺はベッドに潜り込んだ。
色々あって随分疲れていたからか、次の瞬間には月曜の朝を迎えていた。