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16.

「……ぎゃ?」

 黄色い目をくりくりとさせて、黒鷲は首を傾げた。

「……ダヒ?」

 プーカから目を離さずに声をかける。

「プーカから悪性が消え去ったのにゃ。もう大丈夫だにゃ」

 ふーっと息を吐きながら短剣を握った腕を下ろす。朱音ちゃんも構えていたライフルを下ろした。

「うーん、何か良く分からんが、迷惑をかけた様だな人間の娘達」

 黒鷲から人間の男性の様な声が聞こえて、思わず目を瞬いた。それから朱音ちゃんを見ると、朱音ちゃんも驚いた様な顔をして俺を見ていた。またプーカを見る。プーカはかかと笑って翼をばさりと鳴らした。

「俺は人語を介するタイプの妖精なんでな。さっきまでの記憶は靄がかかった様で良く覚えとらんが、悪い事をしてしまった事は何となく覚えている。すまなかった」

 鷲の姿で頭を下げるプーカに、俺は漸く表情を緩めた。

「ううん。もう良いよ。これからは悪い事しちゃ駄目だからね」

「ああ……まあ、多少の悪さは俺の性質さ。勘弁してくれ」

 プーカは気まずげに顔を逸らしながらぼそぼそ云う。そう云えば妖精には人間に悪戯したり、人間にとって悪い事をする奴らも居るんだっけ。性質じゃあしょうがないなあ。

「俺は故郷に帰るとするよ。頑張れよ、人間の娘達」

 ばさり、プーカは地面から飛び上がると、遠くの空へと消えて行った。

「さあ、二人共指輪を外して変身を解くにゃ。まだ眠っている子供達を起こして、俺の魔法でちょちょいと記憶を操作して、親元に返すのにゃ」

 それを聞いて朱音ちゃんはライフルを地面に置き、指輪を外して変身を解いた。そして、俺に変身を解かないのかと視線で問うてくる。

「……ダヒ。記憶を操作って?」

「家出して、山の空き家で過ごしていた事にするのにゃ。あとは大人の方に魔法をかけてそれを信じ込ませるにゃ」

「……それしか無いか」

 云ってから、短剣を地面に突き刺して、握っていた指を開……こうとして、強く握り過ぎて固まってしまった指が、上手く開かない事に愕然とした。思った以上に緊張状態にあった様だ。

「大丈夫か?」

 朱音ちゃんが心配そうに俺の顔を覗き込んで来る。俺は力無く笑って、それから短剣を握り締めたまま座り込んだ。

「ちょっと、疲れちゃった。他の子達を起こすの、朱音ちゃんとダヒに頼んでいーい?」

「ああ、任せてよ。夢はちょっと休んでな」

 朱音ちゃんとダヒは洋館の中へ戻って行く。俺はすっかり固まってしまった指を何とかかんとか開いて、震える指で指輪を外して変身を解いた。そのまま仰向けに倒れる。空は青く高く、雲がゆっくりと流れている。

「……終わったんだ」

 呟くと実感が湧いて来る。

 目を閉じて深呼吸をすると、土の匂いがした。

 暫くして、ちょっとうとうとして来た所で複数の足音が聞こえて来た。ぱっと起き上がり立ち上がり、服に着いた土埃を手で払う。

 洋館の玄関扉が開いて、朱音ちゃんとダヒ、そして眠っていた女の子達と、若葉ちゃんが出て来た。

「若葉ちゃん!」

 駆け寄る。目が虚ろだ。説明を求めてダヒを見ると、

「これから一人ずつ親の近くに魔法で送って、親に魔法をかけて家出していた事を信じ込ませるにゃ。順番にやるからちょっと時間がかかるのにゃ。ここの事が記憶に残ってると困るから、親に会うまで魔法で催眠状態にしてあるのにゃ」

 と返ってくる。仕方が無いので納得して、行方不明になった順に親元に返して行き、朱音ちゃんも家出だった事にして一度親元に返し(同じ学校の子だったので月曜日に会う約束をした)、最後にダヒは若葉ちゃんと俺を街へ魔法で送ってくれた。

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