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14.

「おいおい、短剣で戦闘なんてそんな経験無いぞ。魔法のステッキとかそう云うもんじゃないのかよ」

「その子に合った武器になるって云ったのにゃ。夢ちゃんにはそれが合ってるって事だにゃ」

「マジかよ……」

 がっくりと肩を落とす。

 イライラとした様子でハッグが口を開いた。

「お喋りはもう良いかい? よくも騙してくれたね魔法少女! そこのケット・シーと一緒にシチューにして食ってやる!」

 酷い嗄れ声だった。思わず顔を顰める。正直云って何て云ってるか良く聞き取れなかったが、まあ多分悪態を吐いたのだろう。俺は適当に短刀を構えて、覚悟を決めた。

「待っててくれてありがとお。ついでに、夢に黙って攻撃されてくれると嬉しいなっ」

「お黙り!」

 可愛子ぶってお願いしてみたが却下された。ハッグが長く伸びた爪を立てようと飛びかかって来る。狭い廊下、左右には避けられない。俺は姿勢を低くしてラグビーのタックルの様に飛び出し、ハッグの下腹部に肩をぶつけた。

「ぐえっ」

 潰れたヒキガエルの様な声が上から聞こえた。怯んだハッグに俺は短刀で斬り付けようとして、一瞬躊躇ってしまった。覚悟を決めたつもりだったが、刃物で人の形をしたモノを攻撃する事に、迷いが生じてしまったのだ。ハッグがその隙を狙って爪で引っ掻いて来る。咄嗟に腕でガードしながら飛び退くと、魔法の衣装のおかげでちょっとちくっとしただけで終わった。

「く……っ」

「どうして攻撃しにゃいのにゃ!」

「だって短剣だぞ! 血がどばっと出たらどうすんだ。嫌だぞ夢ちゃんの手を血で汚すのは」

「大丈夫だにゃ。相手は妖精だし、その剣は魔法の剣だにゃ」

「ほんとにぃ?」

「俺を信じて!」

 信じきれないと云うのが正直な感想だが、背に腹は代えられない。改めて覚悟をして、俺はハッグに向き直った。

「あんたまだひよっこだね? この辺り一帯で指揮を取るワシに勝てる気で居るのかい。悪い事は云わないよ、諦めな」

 ひっひと笑ってハッグは云う。少し曲がった腰、ひしゃげ尖った長っ鼻、皺くちゃの顔はどう見ても悪い魔女だ。

「って事は、お婆ちゃんをやっつけたらこの辺りで悪い事してる妖精達の統率は瓦解するんだね。よーし夢張り切っちゃうぞ」

 ファイティングポーズの様な形でナイフを構える。

「生意気だねえ。大人しくすれば他の子達と同じ様に眠らせて、その力を搾り取ってやるだけで済ませてやったのに」

「生かさず殺さずってやつだね。やなこった!」

 床を強く蹴る。拳を振るう様にして、短剣でハッグを切り付けた。

「ぐっ……」

 ハッグの腕が切れる。切り口からはどす黒いもろもろした何かが零れ落ちた。

「うへ、きたねえ」

 思わず素が零れ落ちる。

 ハッグは顔を顰めて飛び退いた。

「ワシはな、この街で魔法少女の素質のある子に魔法をかけて、ここへと呼び寄せた。それにお前が反応しなかったから、お前の素質は大した事無いと思ったんだが……」

 おや、と片眉を上げる。ダヒが云うには、夢ちゃんの素質はかなりのもので、それは中身が俺でも遜色無いとの事だった筈だ。ダヒを見遣ると、

「そんなの、俺の保護下に入った時点で守護の魔法をかけてるに決まってるのにゃ」

 胸を張って云う。そう云う事は教えといてくれ。そう思いながらハッグに視線を戻した。

「……想定と違う様だ。悪いが引かせてもらうよ」

 そう云うとハッグは身を翻して廊下を駆け出した。

『ダヒ! 最初に見付けたあの赤毛の子を起こして契約しろ! プーカと合流されたらマズい』

 頭の中でダヒに指示を出しながら、走ってハッグを追いかけた。ババアのクセに足が速いな。

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