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5.

 必死に頼み込む猫……ダヒ。

 俺の答えは決まっていた。

「だが断るッ!」

「どうしてにゃ!?」

 ダヒが心底吃驚した、と云う様な顔で悲痛な声を上げる。

「いや、だって、この体は夢ちゃんのものなのに、俺の一存でこの身を危険に晒す訳にはいかないし。それにこの体で契約したらふりふりの可愛い服を着る事になるんだろう? 俺今着てる服ですら凄い抵抗あるのに、そんな可愛い服できらきら戦うなんて無理だから」

 ちなみに今着ているのは赤と黒のチェック模様をした膝丈のプリーツスカートに白のハイソックス、セーラー服風のシャツに胸元はスカートと同柄の大きなリボン。髪は普段の夢ちゃんは高い位置で二つ結びにしているらしいが、今は後頭部の傷跡が目立つ為おろしている。

 ダヒは、ぐぬぬぬ、と酷く悔しそうな顔をして歯を食いしばった。

「でも、君が戦わないとこの辺りの治安がとても悪くにゃっちゃうにゃ。悪性の妖精は君の事情にゃんて加味してくれにゃいにゃ!」

「でも他の魔法少女候補も居るんだろう?」

「君は大人の男のクセに、女児に戦わせて自分は高みの見物をするのかにゃ?」

 痛い所を突かれて俺は黙り込んだ。実際戦う事になり、仲間が出来た場合、そしてその仲間が危機に晒されれば恐らく俺は咄嗟にその子を庇うだろう。それはつまり、夢ちゃんの体を危険に晒すと云う事だ。果たしてそれは、俺に許されるんだろうか。

 それに……。

「……なあ、結論を出す前に一つ訊きたいんだが」

「にゃんにゃ?」

 首を傾げるダヒ。くっ、可愛い。猫好きには堪らない。

「夢ちゃんが……この子の魂が目を覚ます時。俺はどうなる?」

「それは……」

 今度はダヒが黙り込む。俯いて、云い難そうに逡巡したのち、ダヒは意を決した様子で口を開いた。

「その肉体から追い出されるにゃ。そしてこの世界で転生するか、元の世界に戻って転生するかのどちらかだと思うのにゃ」

 存在が消える訳ではないらしいと知って、俺は少し安堵した。

「それならもう一つ質問」

 俺のリアクションが意外だったのかダヒはぽかんとして俺を見た。

「もし怪我をした場合……魔法で治せたりするのか?」

 ダヒは一瞬何を云われたのか分からないと云う様な顔をした。それからぱあっと顔を明るくして、勢い良く頷いた。

「うん……うん! 死にさえしなければどんな傷でも俺が治してみせるにゃ! にゃんにゃらそのおでこの傷だって……」

「いやそれは夢ちゃんのご両親に怪しまれるから良いや。でも、そうか、死にさえしなければ……」

 それなら一考の余地はある。夢ちゃんの魂は仮死状態の様なものだって云うから、怪我をして痛いのは俺だけだし、その傷だってダヒが治してくれるから痛いのは一時だけだ。俺が魔法少女になる事で悪性の妖精との戦闘と云う危険から少なくとも一人は遠ざけられるし、一緒に戦ってくれる子は俺が守れば良い。

「……契約の条件が三つある」

「にゃんにゃ!?」

「一つ、お前は決して夢ちゃんの両親の前に姿を見せない。二つ、俺を含む魔法少女が戦闘で怪我を負ったら必ず治す。三つ、……あんまり可愛らしい戦闘服にしないでくれると嬉しい」

 指を一本ずつ立てて見せながら云うと、ダヒはとん、と右の前足で己の胸を叩き、

「まっかされようにゃ!」

 と自信満々に云った。

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