ゲームを教えてくれた取引先の友人から新たな情報を手に入れた。
初心者向けの金策についてだ。
どんなゲームでもある程度の金策は必要になる。ゲームの世界であろうとお金が大事なのは変わらない。
週末に予定していたミーティングで、その友人にその件について尋ねることにした。
オフィスの会議室で商談が終わった後、私は彼に軽く雑談を切り出した。
「そういえば、あのゲームの金策ってどうするんですか? 交渉人だから戦闘もできないし、物も作れないしで、どこから手をつけたらいいか悩んでたんですよ」
彼は笑って、気楽に答えた。
「お、それならいい金策の話がありますよ。初心者向けのミッションなんですけど、簡単に稼げる方法があるんです」
「へぇ、それはありがたい。詳しく教えてください」
彼は席を少し前に移し、声を低めて説明し始めた。
「実はね、特定のレア素材の情報が回ってきてるんです」
「特定のレア素材?」
「ええ、ゲームの仕様として、鍛治師や薬師がいるので、そういう素材をアイテムの取引は結構貴重なんですよ」
「なるほど」
確かに支援職となれば、素材は大事になる。しかもレアということは、貴重性も高いということだ。
「しかも初心者の間しか入手できないエリアに生息しているので、掲示板などでは、初心者の方にお願いしている人もいるぐらいです」
「おお! それはかなりの価値がありそうですね」
「まぁ、運営としても初心者への救済処置なんだと思います」
ゲーム専用の掲示板の存在、初心者としてログインした7回目までしかエリアの利用できない情報が聞けたのは大きい。
現在は、まだ一日目だが、残りの六日間はそれに当ててもいい。
「あとは、それを、ある特定のNPCに売れば結構な額が手に入りますよ」
「NPCにも?」
「はい。NPCにも薬師は存在するので、レアアイテムを欲しいと考えるNPCはたくさんいるんです。こちらは売れるのは確実ですが、交渉次第なんですよね」
交渉と言われて胸がときめいてしまう。
現実でぼったくりのような値段で売れば犯罪紛いに言われてしまう。
実際、教えてもらった掲示板を見れば、そのレア素材は一定の相場で取引されていた。多分、買える量も限られているし、初心者として、何度もキャラを作り直せば、入手できないことはないのだろう。
もしかしたら、交渉人と職業でNPCにぼったくり価格で販売した方が儲かるかもしれない。
「ちなみに、NPCに販売するなら、どんなNPCが興味を持っているんですか?」
「アイテムは『クリムゾンフラワー』っていう特殊な薬草ですよ。初心者エリアの森の奥に少しだけ生えてるんですけど、知らないと見落としやすいです。これを、近くの街にいる薬師の夫婦がいるんですけど、その夫婦に売ると、相場よりも高く買ってくれるんですよ」
初心者エリアの森と、初心者エリアの近くにある村の薬師夫婦? 私はマーサの顔が浮かんでは消えていく。
もしかして、私はすでにミッションに足を踏み入れているのではないだろうか?
「そのNPCは、霊薬を作り出せる凄い夫婦なんですよ。最初は知らなくてスルーしていたんですけど、その霊薬の素材になるんです」
霊薬を作れる夫婦。
「ゲームを始める初心者は、それを知ってるプレイヤーが少ないから、早めに手を打てば確実に儲かるってわけです。交渉人なら、売るときにさらに交渉して価格を上げることもできるかもしれませんね」
交渉力を活かすチャンスってわけですね。なるほど、ありがたい。それにマーサを助けたことも大きいのではないだろうか? 交渉の材料として使えないだろうか?
「ゲームの中では誰よりも早く行動することが大事です。特に交渉人のようなジョブは情報を使ってこそ生きるから、情報収集を怠らないことですよ」
「ご忠告ありがとうございます! さっそく今週末に試してみます」
友人は軽く笑いながら、私の背中を叩いた。
「成功を祈っています。まぁ、初心者ミッションだからそんなにハードルは高くないはずです。私はのんびり鍛治師として過ごしているので、エリアに近づけば、その時は交流もしましょう」
「ええ、色々と教えていただきありがとうございます」
「はは、やっぱり面白いゲームは共有したいですから、それに仲間が増えるのは喜ばしいことです」
ゲーム仲間という響きに、なんだか口元がニヤけてしまう自分がいる。
同じ趣味を共有するのは嬉しいことだ。
その夜早速、私は家に帰ってすぐにVRヘッドセットを装着した。
週末まで待とうと思ったが、ゲームの世界にダイブしたくなったのだ。
アバター「テツ」として再び現実を離れ、今度は金策のための冒険に向かう。
まずは、教えてもらった『クリムゾンフラワー』を手に入れるために、初心者エリアの森へと向かおう。
どこにその花が生えているのか、地形やNPCの動向を確認しながら、慎重に進めていくつもりだ。
「まずは、情報を活かして行動に移すことが大事だな。やるぞ、テツ!」
これから始まる金策の第一歩が、私にとってどんな成果をもたらすか。楽しみながら、じっくりと進めていくことにした。