私はその場で足を止め、状況をじっくりと見つめた。
目の前で繰り広げられるのは、一人の少女が恐怖に震え、盗賊が彼女にナイフを突きつけている光景だ。
普通なら、すぐに少女を助けるべきだろう。しかし、これはゲームだ。そして私はこのゲームの中で、交渉を使って面白い展開を作り出す役割を持っている。
ここで、ひとつ考えた。
選択肢は三つだが、私は第四の選択を試みることにした。つまり、両者の意見を聞き、それをもとに、どちらがより面白い展開を作れるか判断する。
私の言葉一つで、このシーンの結末が変わる。それを意識すると、思わず口元に笑みが浮かんだ。
「おい、ちょっと待ってくれないか」
「なんだテメェ!」
「落ち着いてくれ。俺は交渉人だ。二人の言い分を聞いて、取りまとめたいと思ってな」
盗賊と少女の間に歩み寄り、手を挙げて静止の合図を送る。盗賊がこちらを警戒しているのがわかる。だが、私は構わず、まずは少女に声をかけた。
「さて、お嬢さん。君はこの状況をどうしたい?」
「えっ? それはもちろん。何事もなく家に帰りたいと思っています」
「ふむ。ただ助けを求めるだけじゃなくて、もっと具体的に言ってみてくれないか。どうすれば満足なんだ?」
少女は驚きながらも、恐怖の表情を崩さずに答えた。
「わ、私は……この盗賊に殺されたくありません! それに、持っているお金はありません。このバケットに入っているのも薬草なので、奪われたら生活ができなくなります……」
なるほど、彼女は薬草摘みにきて、盗賊に襲われたわけですね。
彼女の選択は生き延びて無事に家に帰ることですね。まぁ普通ですね。面白みも何もありません。
それだけではこのゲームは面白くない。助けたら何かしらの報酬などもあるかもしれませんがそれ以上の成果はないですかね? そこで、私は盗賊に視線を向けた。
「それで君は? どうして少女を脅しているんだ? 彼女は金銭も食料も持っていない。それに年端もいかぬ少女だ。性的な意味だとしたら、なかなかに面倒だが」
「そんな趣味ねぇわ!」
「そうか、よかった。それで? 何が目的だ?」
盗賊は私の質問に戸惑いながらも、渋々口を開いた。
「俺はただ、食料か金目の物が欲しいんだ。盗賊は始まったばかりで、飢えて仕方なく……俺だって、好きでこんなことしてるわけじゃない。けど、生き延びるためには誰かを犠牲にするしかないだろ!」
二人の立場は明確だった。少女は盗賊に殺されたくない、盗賊は生きるために奪うしかない。単純な善悪の構図だが、これをどう面白い展開に持っていけるだろうか?
「ふむ……」
私はしばし考えた。そして、一つの面白い案が頭に浮かぶ。この盗賊と少女の間に「取引」を成立させることで、双方が望む結果に近づけるのではないか?
「よし、二人とも少し落ち着こうか。これから提案することがある。どうだい、取引って言葉を聞いたことがあるか?」
二人が私を怪訝そうに見つめるが、次第に興味を持ち始めた様子だ。
「盗賊君、君が求めているのは食料と金目の物ということだが、少女を襲うだけじゃ得られるものは限られていると思うぞ。それどころか、もっと大きなリスクがあるだろう。捕まるか、最悪の場合は殺されるかもしれない。それで満足か?」
盗賊は無言で頷く。彼にとって、そのリスクはわかっているようだが、それ以外の選択肢を思いつかない様子だ。
「そこでだ、私は提案する。君が少女から奪うのではなく、何か彼女を手伝うことで対価をもらう交渉をするというのはどうだろうか? 例えば、少女は薬草を取りに来ている。それを手伝うことで一食だけ恵んでもらうというのはどうだ?」
少女は驚いた顔で私を見た。だが、私はすぐに続ける。
「お嬢さん、君もただ逃げるのではなく、取引に応じることで安全を得ることができる。盗賊に食料を渡すことで、君も無事に家に帰れる。どうだろう? 彼はまだ犯罪者ではないようだ」
二人はしばらく黙っていたが、私の提案に少しずつ納得しているようだった。
「……なるほど、確かにそうすれば俺も無駄な血を流さなくて済むな。分かった、取引する。どうだ?」
盗賊はそう言って、ナイフを下ろした。少女も安堵の表情を見せながら頷き、手配を約束した。
「わかったわ。一食だけでいいなら」
これで取引が成立した。ただ、この程度で終わっては面白くない。
「ねぇ少しいいかい?」
「なんですか?」
私は盗賊君に待っていてもらって、少女に問いかけた。
「君は薬草を取りに来たと言っていたよね?」
「はい」
「つまり、薬草の知識があるのかな?」
「えっと、私はお使いなんです。私の母と父が村で薬師をしています」
「なるほど、薬師。つまりは、様々な薬を取り扱うプロということだね」
「はい! お父さんとお母さんは凄いんです!」
「うんうん。ねぇちょっと君にお願いがあるんだけど」
私は少女に耳打ちして、ある提案をしてみた。
彼と彼女の関係がさらにより良いものになるために、少しだけ面白い趣向を用意してあげよう。