《side勇者》
魔王が用意したという空飛ぶ馬車に乗って、魔王城へやってきた。
魔王城は荒れ地にそびえ立っていると思っていたが、綺麗な花に囲まれた美しい場所だった。街並みも綺麗に整備されていて、魔族たちの顔には笑顔が溢れている。
人類の生活が貧困と飢餓に悩まされて暮らしているのに、どうしてこんなにも違うんだ。やっぱり魔王はヒドイ奴じゃないか。
「おいおい、人類が贅沢な暮らしをしていたときは、魔族が今の人類みたいな生活をしてたんだぞ。お互い様だろ?」
オッサンは何を言っているんだ。人類側の交渉人のくせに魔族側ばかりを庇って、本当に交渉する気はあるのか?なんだか騙されているような気がしてきた。
「よくぞ来たな、勇者よ」
ボクが気付かない間に、目の前に真っ赤な瞳に真っ白な髪をした魔王が鎮座していた。ただ、その美貌はボクが思っていた以上に美しくて見とれてしまう。
「貴様が、女神に力を授けられた勇者であることはわかっている。忌々しいことだ。我がやっと世界を統べようとしているのに、天界の神が邪魔をしようとするなど。これでは神々の不可侵条約をおかしているではないか!」
愚痴を溢している姿も美しい。露出の多い服なので、怒って腕を振る度におっぱいがバインバインしている。怒ると腕を椅子に叩きつけるのが癖のようだ。
そのたびにバインバインして、バインバインだ。
「改めて、我々に交渉の場を用意していただきありがとうございます」
「ふん、あれだけ我の配下を倒しておいてよく言う。あれでは落ち着いて眠ることもできんわ!」
「はは、それでは交渉に入らせて頂きます」
オッサンの目が交渉をするときの瞳になり、魔王が椅子へ深々と座って肩肘をついた。不遜な態度をしているようだが、美しくてバインバインだ。
「我々は勇者の命を所望する。勇者が命を捧げるのであれば、人類を滅ぼすのを止めて家畜として生かしてやろう」
なっ! 何を言っているんだこのバインバインは! 人類を家畜にするなんて許せない!!! バインバインだからって何でも許されると思うなよ。
「はは、これは手厳しい。確かに現在は魔族が優勢。ですが、このまま魔族を勇者が倒して行けばどうなるでしょうな? 知性を持たない魔物ばかりを統治して、魔族側の勝利がありますかな?」
「ぐっ! 舐めるなよ人間!!!」
バインバインが立ち上がった! 揺れが物凄くて揺れている!!
「こちらの条件は一つだけです。魔族と人類の不可侵条約。世界の半分を魔族が、もう半分を我々に頂きたい」
「調子に乗るなよ人間!!! 貴様らにそれだけの価値があると思っているのか?!勇者!!! そうか、ぐっ!」
オッサンが俺の背中を叩いた。俺はチャームの魔法をかけられていたのかも知れない。魔王の美しさと一部分に魅力されていた。
「そっ、そうだ! 魔王、殺されたくなければ世界の半分をボクに寄越せ!」
「クソっ! ここまで我が築いてきた物を力と欲望だけのバカに…………」
「分かります、魔王様。この勇者は脳筋クソガキです。だが、だからこそ強い」
「わかっておる! ここからは、どれだけの領地を分け合うか交渉だ」
「はは、望むところです魔王様」
オッサンはやっぱり優秀だ。交渉が始まると、魔王は何度も怒りを表してバインバインさせていた。
バインバインするたびに、人類の領地が広がっていく。
最初は半分と言っていたのに、今では6割程度まで切り取ってしまっていた。しかも人類にとっては必要な水や山々、海の貿易ルートなど重要なところから抑えていく。
「魔物は空も飛べて凄い種族です。人類は弱者ばかりで、陸路がないと生きてはいけないのです」
「豊かな土地ばかり取ろうとするな、卑しい人間め!」
バイン。
「それでは土地ではなく海路はいかがでしょうか? 魔物たちは海でも生息している者がいます。人は船を使って網を使わねば漁が出来ませぬ」
「海の魔族たちに住処が必要なのだ」
バインバイン。
「わかります。それでは野山にしましょう。人は木を切って火を熾べ、家を建てます。ここなら魔族さんたちに迷惑はかかりませんよね」
バインバインバインバイン。
どんどん人類の土地が増えて、魔王は苦しそうな顔をする。
「オッサン、それぐらいでいいではないか?」
「えっ?」
バインバインがボクを見た。
「勇者ユーリ殿。しかし、これは人類のための交渉なのですよ?」
「何を言っている。魔族たちも生きているのだ。生活するためには、食料も木々もいるだろ。取り過ぎて苦しくなれば、互いの物がほしくなって争いになる。取り過ぎはよくないぞ!」
全てオッサンが言っていたことだ。何故、交渉の場ではそれを口にしないんだ?
「勇者は、我々のことまで考えてくれるのか? どうやら我は勇者のことを誤解していたようだ」
「これはこれは、勇者様に一本取られましたな。ふむ、ではこちらの領地と山はお返しします」
「いいのか?」
「もちろんです。これで丁度五分五分ですな」
いや、六割は人類のままだぞ。
「ありがとう! これだけの土地があれば魔族は生きていける」
おい、バインバイン! オッサンに騙されているぞ。
「それでは今後は良き隣人として」
「ああ、良き隣人として友でいよう」
オッサンとバインバインが握手をして、バインバインがボクにも手を伸ばす。
「勇者よ。これからは互いに力を取り合おう」
「ああ。よろしくな。バインバイン!」
「バインバイン? 貴様!!! どこを見て! 無しだ無し。このような勇者と約束など」
自らの胸を隠して恥ずかしがるバインバイン。
「魔王様、これは交渉です。先ほどの約束はすでに決まった交渉です。ですから、ここから新たな交渉として、この勇者と夫婦になる気はありませんか?」
「めっ、夫婦だと? こんなアホと?」
「アホです。アホではありますが、力は本物です。何よりも若くてイケメンです」
「む~確かにそれは認めるが、わっ私の身体が目当てなのでは?」
「それの何がイケナイのですか? 男女など最初は見た目しか判断できません。互いに好意を抱ける見た目をしていた。それだけで幸せではありませんか!」
オッサンナイスだ! 俺はバインバインを好きになった。美しい容姿もバインバインのバインバインにも夢中だ。
「ふぅ~わかった。わっ、私はバインバインではない。フルルだ。フルルと呼べ」
「ああ。フルル。ボクはユーリだ」
こうして、ボクはオッサンに導かれて魔王フルルとの交渉によって平和的解決によって大陸を制覇した。それにしてもオッサンは何者だったのか………?
「おや、これは勇者ユーリ。今回はお手柄でしたね」
「なぁ、オッサンは何者なんだ?」
「私? 私は交渉人ですよ。まぁジョブですけど。今回のミッションは魔王城の無血開城だったのでなかなかハードでしたよ。必ず魔王は戦闘をしようとするので、その配下を無力化して、魔王自身を丸裸にして勇者と付き合わせる。まさか、こんなルートがあったとは、勇者ユーリ。魔王のバインバインは最高でしたか?」
オッサン何を聞いてんだよ。
「当たり前だろ! フルルのバインバインは最高だ!」
「ええ。あなたが脳筋クソガキで本当に助かりましたよ。やりやすかったです。それでは、またいつかどこかで………私は現実に戻ります」
「現実?」
「こちらの話です」
そう言ってオッサンは姿を消した。ボクはフルルと共に世界を守ろうと思う。