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第四十四話 ハナ…私たちの過ち

「ねぇ、見た? トクさんがハナ一本でいきますって」

 悠里ちゃんがラジオ収録の出番の前にそう声をかけてきた。今日は週に一回のラジオ収録。今回は生放送でなくて事前収録。久しぶりにメンバー全員でラジオに出る。


「一本だなんて……嬉しいけど、美玲ちゃんまた拗ねちゃった」

 隅っこで美玲ちゃんがスマホ見ている。カーくんとメールかな。

「たく、美玲ちゃんも子供ねぇー」

 悠里ちゃん声でかいよ……。ほら、またプクーって顔を膨らます美玲ちゃん。


「でも、トクさんの一本宣言で、他のファンの人たちも一本で! とかSNSで宣言始まって……兼任してたファンが次々と選ぶようになってしまって大変よ」

 ……にしてもなんでトクさんは私一本で、って選んだのか。美玲ちゃんのほうが可愛くって、なんでもできる……のに。


「私のファンでも兼任ファンいたけど、私単推ししてくれる人がそこそこいたからほっとしたけどね。ハナも見た感じ結構ファン、増えたよ」

 ……そうだけども。

「ハナおねえちゃんが人気になるのは嬉しい」

 由美香さんはココアを飲んでまったりしてる。でも机の上にはラジオ収録後のドラマ撮影するために台本が置いてある。二冊も?! てか……どっちのドラマの相手役の俳優さんと関係持ったのか……雰囲気も少し変わった気もする。


「……由美香さん、ちょっといいですか?」

 悠里が立ち上がる。そして勝手に由美香さんのポーチを取り上げて中身を出す。


「何するの!! 悠里ちゃん!!」

 由美香さんは慌てて散らばったポーチの中身を拾う。が、悠里ちゃんがとあるものを手にしている……。



 !!!

「やっぱり噂は本当だったのね」

 手にしていたのは……避妊具……。何枚も連なっている。由美香さんは必死に取ろうとするがダメだった。

「返してっ、それは……!!」

「それは、なあに? これはなあに?」

「うわぁああああん!!!」

 由美香さんは私に抱きついて泣いてしまった。……タッキーの言ってたことは本当だったのね。


「相手は今のドラマの主演、そんタケル……既婚者、子持ち……」

 え? たしか若手俳優じゃなかった? 尊タケルって最近人気のおじさま俳優……!!! あ、二冊目の台本の主役の人!!! ふと由美香さん見るとさらに泣き出した。


「あの若手俳優にヤリ捨てられて、尊タケルに優しい言葉掛けられて……ズブズブハマったやつね。おっさんだし、甘えんぼの由美香さんの心に漬け込んで若いエキス吸ってる奴に騙されるなんて。このネタは潰してやったけど……もう会わないって誓えますか?」

「騙されてないもんっ!!!」

「尊タケルも他の女優を食ってるんだよ? 噂だと避妊しないらしいし……変な病気もらったらどうするの?」

 な、な、なんてことぉっ!!!

「うわぁあああああああん! 彼は僕は妊娠しないからゴムしない、っていうけど……うえええええんんん!!」

 はぁあああああ?

「ちょっと悠里、そんなこと言ったって騙した男の方が悪いわよ。由美香さんは何も知らなくて……」

 悠里は机をバーン!! と叩いた。


「プロ意識甘いの!!! 美玲さんだって男がいるの知ってる! ……ハナは阿笠っていう産婦人科の先生と噂になってて……見た感じ関係はないって分かるけど噂になるようにしてるのがダメなの!」

 ……何にもないし……阿笠先生とは。


「……大野ちやんだって……東京進出とかいって大船切ったけど……こんなにうまく行きすぎてて……なんかおかしい。私長いとここの業界にいるけど絶対裏がある!!」

 悠里ちゃんも泣き出した。


「そんなことないよ。みんなで頑張った結果じゃない!」

「ハナ……ズブのど素人に言われたくないわよ。子役だった大野ちゃんが今の今まで仕事を切らさずにやってこれた理由、わかる? 彼女の同期の子役は不遇の時代と言われて残ったものはわずか。残っていてもブラックなAVに回されて自殺した人もいる……」

 ……どういうこと? でも悠里ちゃんだって水着とかで撮影させられてたって、子供の頃から。


「私だって、私だって……水着の写真出回ってる。許せない。てかもしもっと人気だったらこんなご当地アイドルにいなかったわよ」

「こんなって何よ!」

 美玲ちゃんが立ち上がり悠里ちゃんに掴みかかった! 私は間に入るけど……。


「こんなって、なによ!!! これでも私たちは頑張ってきたの! だったら悠里は男いないというの?」

「いないわよ、したこともないっ! 芸能界で上を目指したいからずっと我慢してきた!!」

 顔を真っ赤にして言う悠里ちゃん。


「まだよかったわね、私のママのお兄さんが大手の記者だから私たちの噂をもみ消してくれてるの。他のスクープと差し替えて。それがなかったら、東京進出前に……清流ガールズも解散よ!」

 ……。


 部屋の中が静まり返る。

 由美香さんはまだ泣いている。美玲ちゃんはうずくまる。悠里ちゃんは立ち尽くして涙を流したいる。


「声が外まで聞こえているわよ……」

 大野ちゃんが部屋に入ってきた。タッキーも一緒だった。


「……確かに私が子役からここまで生き残るのは大変だったし、嫌な思いもしてきた。でもそこまでしないとこの業界で生きていけなかった……なんて……そんなこともしなくてよかったのに、大人たちに利用されていただけだったのよ」

 大野ちゃんは泣きじゃくる由美香さんを抱きしめる。

「いい思いさせて、その気にさせてその心にズブズブ入ってかき乱して心壊されて……心麻痺して、大人のいいおもちゃになっていた。もうそう言う思いを他の子たちにさせたくなかったのに。ごめんね、由美香さん。あなたを守れなかった」

「大野ちゃん……」

「タッキーにお願いして手を回しておいたからもう大丈夫。あのおっさんには会わなくていいよ。ドラマも発表前だから適当な理由つけて断ったから今日はラジオ終わったらすぐ病院に行くのよ」

「……はい……」


 ……私はなんかこの場にいるのが怖くなった。この後どんな思いをして収録すればいいの。


「悠里ちゃん、美玲とはしっかり話をしてあるわ。彼女も寂しいけど我慢してもらっているわ……。あなたの出回ってる写真も地道に削除、世間一般でも少女の水着写真は非難されているしね。ハナと阿笠先生に関してはガセ情報だけど、他の噂を消すための目眩しにするわ……」

 ……何かと私、損な役割だけど……まぁいいか。でもあのことがバレたら……。大野ちゃんには話をしたけど。


 他のメンバーにも言ったほうがいいかな……。

「大野ちゃん……あのこと、言ったほうがいい?」

「……ハナさん、なにか隠してることあるの?」

 私は頷いた。


「……ハナ、いいの?」

「うん……」

「なら……でもラジオ収録の時間までに、手短にね」


 えええ、手短に??? 

「あなたは今までなにを学んできたの? トークの仕方を! 今度からメインパーソナリティになるのに……」


 そうだけどもぉ……。



 案の定、ラジオ収録の時間をかなり押したけど……私は大野ちゃん以外のメンバーに話していなかった過去を話すことで少しスッキリしたし、美玲ちゃんも悠里ちゃんも、由美香さんも私のことを抱きしめてくれた。



 ……。



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