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第三十七話 トクさん……裏側潜入

 アガサは常に持ち歩いてた、ややでかい鞄を持っていたが、あれはなんだ? 貴重品にしてはでかいが肌身離さず持っていた。

 マネージャーに誘導されるがまま、ステージ裏に近い個室に入って行く。


 すげぇ、俺一回も気付かれていないぞ。さすが潜入ゲームやり込んでいたからな、学生の頃。足音、息遣いは気をつけた。扉は和室だったから隙間から聞こえる。


「大野ちゃん、何度言ったらわかるんだ!」

 アガサが声を荒立ててる。性に合わないぞ。


「何度も病院に来なさいって言ったのに来ない、記録もつけていない、薬も飲んでない、生活はどう見ても不規則。だからこんな大事な日に倒れるんだろ」

 大野ちゃん、倒れたのか? え、病気? まじかよ……。大丈夫か。アガサは大野ちゃんの担当医? ハナもだったよな? 確か産婦人科……アガサっ!! 2人の秘めた部分をっ。くそっ。俺も頭よかったら……て、何考えてるんだっ。


「しょうがないじゃない、今清流ガールズ大事な時期なの。……でも倒れる、ていうかめまいよ、ただの」

「ただの目眩で済んだけど……大野ちゃん、ファンが心配してざわついていたぞ」

「……」

「これは長く付き合わなきゃダメなんだよ。いくら完治したからって油断しちゃダメだ」

 完治? なんだ、なんなんだよ。



「あの、トクさん……」

「うわっ!!!」

 俺は誰かに声をかけられて襖を思いっきり開けてしまった。


「トクさん、だったか」

「……いつから聞いてたの?!」

 アガサは意外とすんなりしてたが、大野ちゃんとマネージャーはあたふたしている。


 そして俺に声をかけてきたのは……ハナ?! おい、今トークコーナー始まってんぞ?

「ご、ごめんなさい……声かけちゃって……あ、大野ちゃん!」


 ハナはアガサと大野ちゃんとマネージャーが部屋にいるのにびっくりしている。


「阿笠先生……」

「ハナちゃん……」


 二人は見つめあったまま。


「ハナ、なんでここにきたの? トークコーナー始まってるでしょ?」

「大野ちゃんいないと……まとまらないんです」

「わたしいなくてもがんばりなさい」

「でも……」

 おい、ハナ。何消極的になってんだよ。俺いつも手紙でアドバイスしてるだろ?

 少しずつお前のトークに磨きかかってる。もう少し自信を持て!


「それよりも大野ちゃん、大丈夫?」

 ハナはすごく心配してる。俺も心配だよ。

「……貧血で倒れたの」

 貧血……あっ……。あの日っていうのは!!

「大野ちゃん、とりあえず今は休むんだ」

「でも……」

「マネージャーさん、そろそろあのぐだぐだトークショー終わらせてください。体調管理も社会人としては基本中の基本だ」

「……」

 大野ちゃんが俯いている間にマネージャーは舞台の方に向かった。


「アガサ、大野ちゃん体調悪いしそっとしてあげたら」

 俺はアガサにそう声をかけた。しかし彼は首を横に振る。

「……トクさん、悪いがこれは大野ちゃんが悪い。子役から持ち上げられて育ってきた彼女は時に自分に甘い。彼女次第では清流ガールズは潰れる」

 うわ、キッツイ。あのにやけ顔とは違っていつものクールなアガサだ。

 あ、大野ちゃん……泣いてるし。よくドラマで彼女が演技で泣いてるのを何度か見てたがこれはガチだな。


 ハナは大野ちゃんに駆け寄って抱きしめた。

「大野ちゃんに色々負担をかけていた私たちがいけないの。もっと私たちが動けばここまで大野ちゃんに負担はなかった!! ごめんなさい」


 ……いや、ハナたちも十分に頑張ってるぞ!!


「行こう、トクさん。大野ちゃん、今日はとにかく寝てなさい。体を冷やさないように」

アガサがそういうから俺も

「そうだよ、無理しないで。俺ら盛り上げてくるんで」

と声をかけた。


 大野ちゃんは泣きながらうなずいた。トークを切り上げて一旦休憩のためにステージから戻ってきた他のメンバーたちが大野ちゃんに駆け寄る。

「なんとかトーク盛り上げてきたよ。大野ちゃんいなくても私たち、頑張る!!」

 美玲ちゃん……。

「ガッタガタになりそうだったけどなんとかなったわ。でもやっぱり大野ちゃんいないと……って頼りすぎてたわ、ごめんなさい」

 少し色気のない由美香さん……。


「今日はゆっくり休んでください……私たちでなんとかします!」

 悠里ちゃん……。


「大野ちゃん、絶対このままで清流ガールズ終わらせない! 私たち頑張ります!」

 よし、いい心意気だ! ハナ!


 彼女たちを見届けた後、俺らは部屋の外に出た。

「トクさん、さっき言いましたよね」

 じろっとアガサから睨まれたかのよう。しかも奴は背が高い。見下ろされると尚更怖い。

「あ、言いませんから……さっきのは」 

「いや、俺らで盛り上げるって」

「あ、ああーっ」


 そして俺らは宴会場に戻り、俺と親衛隊のメンバーが先陣を切ってその場を盛り上げて、大野ちゃんを除くメンバーが戻ってきて一体となりその日の宴会ライブは無事終え1日目は終了した。


 次の日、大野ちゃんは無事復帰した。まだ顔色は悪そうだったがそれを見せない笑顔でみんなの前に現れた。


 これこそ、プロ……なのか。なぜかわからないが、大野ちゃんが俺のことを何度かチラチラ見ていた気がするが気のせい、だと思う。


 こうして第一回ファンミーティングは終わったのであった。

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