「ただいま、おとうさん」
私は久しぶりに喫茶モリスに立ち寄った。お店は夜なのでBARモリスになっている。少し照明も暗めでレコードでしっとりとした音楽が流れているのだがおとうさんの趣味である。
「おかえり」
おとうさんはニコッと笑って出迎えてくれた。店の中は私のグッズや写真をたくさん飾ってくれている。ライブ会場の近くだから清流ガールズのファンもちらほら来てくれるようになったらしい。
「今日も阿笠先生来てましたよ」
……阿笠先生……。先生もその中の1人なのね。
「あと最近、一人……ランニング中の若者がコーヒーを飲みに来てはハナのことを教えて欲しいって聞いてくる」
「えっ……私のこと?」
「最初ストーカーかと思ったけどな、コーヒー苦手なのバレバレなのに足繁く毎日通ってくれるし、結構話の合う若者でな」
私はおとうさんがなにを言いたいか分かってる。
「阿笠先生、いいと思うんだが……実直で真面目で……」
「だから今はそんなこと考えてないから」
「アイドルも長く続けられないだろう。本当の君じゃないからな」
……。
「そうそう、あの若者。モーニングチケットを作っててな」
と探しているようだけど……。
「ちょっと部屋に入るね」
私は店と繋がる家に入った。
アイドル、長く続かない……だから結婚しろって? 阿笠先生からは長い間アプローチされている。けども私は踏み切れなかった。
アイドル頑張っていこうと思ったのに。おとうさん……心配なのはわかるよ。でもなんでそんなに簡単に阿笠先生と結婚したらって言うの?
よくそんなこと平気で言えるよね。
和室の大きな仏壇。私は持ってきたお花を花瓶に入れる。そしていつものチョコチップクッキーをお皿に置いて供える。マルクスコーヒー缶も添えて。
「アイドル……大変だけど、頑張るよ」
……。
「……でも本当は辛いよ。胸出して、キャラ作って偽って、楽しくもないのに笑って……」
涙が出てくる。……私は結局胸しかないし、好きな歌なかなか歌わせてもらえないし。
「だったらやめればいいじゃないか」
おとうさん……いつからいたの。お店はまだやってるんじゃ……。ハンカチを差し出してくれた。
「かと言って阿笠先生とは結婚しませんから」
「いや、そういうことじゃなくてね……さっきは長く続かないだろうって言ったけど、続けてみれば何か見えてくるかもしれないかなーとか思ったんだよね」
……。
「わたしもこの喫茶店とBARはよく続けられたと思うよ。妻が亡くなってからだから二十年、料理ができなった私でも今じゃ朝から晩まで何かを料理して誰かに食べさせている。
あ、よかったら食べるか、豚の角煮」
「うん、おとうさんの角煮好き」
「じゃあ持ってくる」
私は仏壇に飾ってある写真を見つめる。……今の私の姿見てどう思うのかな。胸強調してフリフリしたドレス着て踊ってるところ見たら笑うかしら。
「ねえ、