俺は普通の家庭に育ち、中学高校と進学校で良い成績を取り、某有名大学も主席で卒業し、某大手商社に就職した。新入社員の中でも順調に成績を上げ、将来を約束されたような人生だった。
趣味もなく、ただひたすら未来のために突き進んでいた俺は、年上の美人な先輩と結婚し、タワーマンションも購入した。まさに「リア充」そのものだった。
だが――その幸せは一瞬にして崩れ去った。足元が崩れ、一気に全てが破壊された。何もなかったかのように真っ暗な闇に落ちたのだ。
残されたのは、不倫した妻が置いていった離婚届と、タワーマンションのローン。折半したものの、まだ返済が残っている。会社も辞め、生活は荒れ果て、俺自身も腐っていった。家族も仕事も未来も失い、朽ち果てていくだけの人生だと思っていた。
バコッ!
突然、頭を叩かれた。イテェ。
「トクさん、いつまで寝てんねん! 奥さんおらんとここまで荒れるか? カーテンまで閉めて」
懐かしい方言が耳に飛び込んでくる。幼なじみのトオルだ。奴は勝手にカーテンを開け、強烈な日差しが目に突き刺さる。
「そこで『目がー、目がー』とか言ったら寒いぞ」
う、うるさい。それに勝手にカーテン開けんなよ。俺の人生は終わったんや。このまま朽ち果てて死にたいんだ。
「ところで、ここケーブルテレビ映る?」
トオルはお構いなしにテレビをつける。ケーブルテレビなんて見たこともない。
「甥っ子がこないだの祭りで踊ってたんだよ。もうすぐ始まる番組に映るかもしれん」
また甥っ子の話かよ。お前もそろそろ結婚して子ども作れよ。……俺は結局、子どもを持つことすら叶わなかった。
番組が始まった。知らないアナウンサーが先日の地域のお祭りを紹介している。……くだらない。トオルは「見てくれ」って顔してるけど、まぁ仕方ないから付き合ってやるか。
「お! これだこれだ。あれ、でも人が多すぎてわからんな!」
幼稚園児が同じ服装で踊りまくっているから、そりゃ見分けがつかない。数秒でシーンが切り替わった。トオルがガックリしているのを横目に、俺はテレビを消そうとした――その瞬間だった。
『私たち、まるっと地域チャンネルでアシスタントを務める……せぇの……
画面に映ったのは、同じコスチュームを着たミニスカート姿の4、5人の女の子たちだった。突然、歌いながら踊り出す。
「あー、あれね。地元の女の子をスカウトして作ったご当地アイドルらしいよ。……まぁ、所詮ご当地アイドルだから、素人みたいなもんだし、顔もそこそこ、歌もダンスも下手くそだなー。ねぇ、トクさん?」
……俺はそのアイドルに心を奪われていた。真ん中で踊っているボブウェーブの女の子。可愛い……。
「清流ガールズ……」
「あ、今度ライブやるって」
「マジか、いつ、どこで、何時に?」
清流ガールズとの出会いが俺の人生の転換点になるなんて、そのときは全く思いもしなかった。