「本日は、豚バラレンチン病院開院おめでとうございます」
黒島は怒った表情で、鹿間を殴る。
「豚バラレンチンじゃねえ。『
黒島という人物は、黒島組・組長の息子で薔薇の紳士病院の院長だ。医師免許を持っている正真正銘の医師。強面でガタイがいい。
「『薔薇の紳士病院』の名前の由来は、なんでしょうか?」
本多が黒島に尋ねる。
黒島は答える。
「薔薇の花言葉が『愛情』だから『薔薇』いう言葉を選んだんだ。『紳士』とは、このオレのことだ」
鹿間はぼやく。
「すぐ殴るし、ヤクザの息子だし紳士だと思えません」
黒島は言い返す。
「オレは女性には紳士的な態度をとるんだ。たとえば、薔薇の紳士病院では女性患者はタダだし、女性しか診ない。病院の設備もいい」
黒島は鹿間と本多に病院の案内をし始めた。
入院患者の個室。高級ホテルの部屋と見間違うほどだ。薔薇の紳士病院には大部屋がなく全て個室だ。
病院食堂。3つ星レストランのシェフと管理栄養士が作ったメニューが食べられる。高級レストランのように、おしゃれなテーブルと椅子がある。
リハビリ用の施設。体を鍛えるためのいろいろな器具がそろった最新スポーツジム。リハビリ用のプールもありリゾートプールのようなプールだ。
ゲームセンター。 パズルゲーム、格闘ゲーム、 シューティングゲーム、麻雀ゲームなど多種多様なゲームがそろっている上に、すべてタダで遊べる。
まるでホテルのような病院だ。
本多は心配そうな顔をして黒島に尋ねる。
「この病院経営は成り立つんですか?」
黒島は言い切る。
「心配ない。黒島組から金を流している」
「俺たちの上納金か……」
鹿間はぼやく。
黒島は仕事の準備をしようとしている。
薔薇の紳士病院が開院してから、ちょうど1年が経つ。
黒島は誰もいない待合室を見ながら、鹿間と本多に怒鳴る。
「誰も患者が来ねーじゃねーか!どうなってるんだ!」
鹿間は理由を説明する。
「病院の立地が悪いからですよ」
「そんなわけねーだろ」
黒島は鹿間を殴る。
「目の前のクリニックは行列ができているじゃねーか」
黒島は池クリックという小さい産婦人科のクリニックを指さす。
黒島は鹿間と本多を睨む。
「ウチの宣伝をちゃんとやったのか?」
「もちろんです。チラシをたくさん作りました」
鹿間は黒島にチラシを渡す。チラシのタイトルは「豚バラレンチン病院」で説明文は「暴力団・黒島組組長の息子である黒島狂介(くろしまきょうすけ)が院長を務める病院です」と書かれていて、チラシの写真には黒島院長が怒った写真が使われていた。
黒島が鹿間の胸ぐらをつかむ。
「ひどい写真を使うんじゃねーよ。暴力団の名前を出すな。あと『薔薇の紳士病院』に直しとけ」
本多が黒島と鹿間に話す。
「池クリニックについて調べてみたんですが、イケメン院長・
黒島は驚く。
「池輝夫だと!」
本多は黒島に聞く。
「お知合いですか?」
「ああ、聞いてくれ」
黒島は高校時代について話し始める。
黒島と池は別の高校に通っていたが、どちらも空手部に所属していた。池は、「空手の王子様」と呼ばれるぐらい女性たちに大人気だ。
黒島と池の試合が予定されていた。池目当てに来る女性たちで大混雑になることを防ぐため、 試合の会場は関係者以外立ち入り禁止になった。
黒島は、同じ学校の面識がない美人の後輩から一時的に空手部のマネージャーにしてほしいと頼まれた。黒島は二つ返事で引き受けた。
黒島と池の試合が始まった。黒島のまわしげりが、池に炸裂した。池が倒れた。
「池君が負けちゃった。フザケンなよ黒島」
池と同じ学校の女子マネージャーがヤジを飛ばした。
「池さん、かわいそうに……。死ね黒島」
黒島の後輩の美人マネージャーがキレる。この美人は池のファンということに気づいた黒島はショックを受けた。黒島は誓う。
「もう2度と空手はやらねぇ」
「この人を助けてください」
池は
「腹が痛い」
模手内は叫んだ。
黒島は宣言する。
「ウチは男は診ない」
本多は黒島に耳打ちする。
「この男を治療できたら口コミで豚じゃなくて薔薇の紳士病院に患者が来ると思います」
黒島は言う。
「今回は特別だ」
池はお礼をした。
黒島が模手内をベッドに寝かせた。模手内の腹部を押して痛みの場所と程度や圧痛の有無を確認した。模手内の腹部を聴診器で聴いた。模手内に注射を打った。模手内の表情が安らいだ。
受付係がアナウンスする。
「模手内様、会計窓口までお越し下さい」
模手内が会計窓口まで来る。
受付係が話す。
「お支払いは5億円になります」
模手内が驚く。
「なんで高いんだ!?」
黒島が答える。
「ウチは自由診療のみで、男からぼったくる方針だからだ」
自由診療とは医療保険制度を用いない診療のことだ。
模手内は叫ぶ。
「5億なんて払えるか!」
「払えないなら、女性患者を紹介しろ」
「なんとかなりそう」
模手内は安堵する。
1ヶ月後、模手内は薔薇の紳士病院にやってきた。
「黒島先生に紹介したい人がいるんだけど」
「初めまして、医療コンサルタントの
矢部は自己紹介をした。
「ちっ、女性患者じゃねーじゃん」
「医療コンサルタントなら患者を集めるノウハウを持っていそうだから、連れて来たんだよ」
黒島は矢部に質問する。
「俺が暴力団組長の息子と知ったら、お前は逃げるのか?」
「そんなことはありません。黒島先生はラッキーなお方です」
「どうしてラッキーなんだ」
「黒島先生は私の1番目のお客様だからです」
「実績ゼロじゃねーか」
「私と契約を結ぶ場合は顧問料月額100万円をいただきます」
「相場より高すぎますね」
本多は驚いた。本多は矢部に尋ねる。
「何が100万の価値があるのでしょうか?」
「私は彼女も友達もいませんし、趣味もないのでいつでも仕事ができます」
「それだけですか?」
「受付から掃除など全自動やってくれるロボットを導入できます」
黒島が割り込む。
「ウチはいらん。黒島組の連中がタダで働いてくれる」
本多がまた矢部に尋ねる。
「他に強みでもあるのでしょうか?」
「薔薇の紳士病院以外とは契約しません」
「他の医療機関と契約する自信がないだけですよね」
矢部は本多に図星をつかれた。
黒島は提案する。
「顧問料なしで触診できた女性人数×1万円払うという契約でどうだ?」
つまり触診できた女性が1ヶ月に100人を超えれば 、黒島が出した案の方が矢部が最初に出した顧問料月額100万円の案よりも矢部にとって有利になる。矢部は黒島の案を喜んで受け入れた。
矢部は話題を変える。
「黒島先生は、当病院をどんな病院にしたいですか?」
「女性患者に長く過ごしてもらえる病院」
病院の目的としておかしいと本多は思ったが、口には出さなかった。
「それでしたら、病院名を『薔薇の紳士病院』から『豚バラレンチン病院』に変えましょう」
矢部は提案した。
「なぜだ?」
黒島は矢部を睨みつけた。
「黒島先生の怖いイメージをなくすには良い病院名だと思います」
黒島は矢部と鹿間と本多に話す。
「とりあえず『豚バラレンチン病院』を採用する。女性患者の評判が悪ければ、すぐに『薔薇の紳士病院』に戻し……お前ら3人に責任を取らせる」
矢部と鹿間と本多は、びくびくしている。
「オレは薔薇じゃなくて『豚バラレンチン病院』に反対です。患者が豚バラで、電子レンジで治療している病院みたいじゃないですか」
鹿間が訴えた。黒島が鹿間のほうを向いてキレる。
「お前が最初に『豚バラレンチン病院』って言ったんだろうが!」