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第98話 いつもの日常へ

 ルシファーが完全に動かなくなってから、数秒後、空間にヒビが入っていく。

 そして、ガラスが割れるような音がすると同時に、草原だった風景も砕け散る。


 俺たちがいる場所は元の山道だった。

 おそらく、ルシファーが言っていた結界ってやつが解けたのだろう。


「ふう……」


 俺は思わず、その場に座り込む。

 ほとんど何もしていない俺だが、ドッと疲れが出た感じだ。


「おじさん!」

「正博」

「お兄さん!」

「パパ」


 栞奈、黒武者、真凛、茶子が俺の方へ駆け寄ってくる。


「……みんな、無事だな?」


 俺が見上げると4人ともコクリと頷いた。


「やはり、変身したお主は格が違うのう」


 やや遅れて禰豆美がやってくる。

 禰豆美は既に立っているのがやっとの状態で、かなりボロボロだ。


「すまん、禰豆美。今回はお前にかなり負担をかけたな」

「いや、謝るのは儂の方じゃ。不甲斐ない姿を見せてしまった」


 暗い顔をして俯く禰豆美。

 そんな禰豆美に俺はなんて声をかけていいかわからない。


 少しの沈黙。

 だが、そんな沈黙を破ったのは栞奈だった。


「ブブー! 今は落ち込むのなーし! 今回はみんな頑張ったってことでオッケーでしょ?」


 正直、栞奈のこの明るさにはいつも助けられる。


「そうだな。今は、みんなが無事だったことを喜ぼう」

「……じゃな」


 禰豆美がニコリと笑う。

 なんだか、久しぶりに見た、満面の笑みだ。


「……さてと」


 俺は重い体に鞭を打ち、立ち上がる。


 そして、ルシファーを見下ろす。


「さて、どうするかな」


 一番いいのは、無理やり使役関係を結ぶことだろう。

 そうすれば、もう悪さはできないはずだ。


 とはいえ、今回、ルシファーがやったことは正直、許せそうにない。

 俺はともかく、栞奈や黒武者、真凛、茶子の命を危険に晒し、禰豆美に至っては随分と傷つけられた。

 そんな奴を使役するというのは腑に落ちない。

 かといって、殺すというのも違う気がする。


「なあ、禰豆美。封印とかって出来たりしないか?」

「ふむ……。魔王という存在は封印されるのは慣れておるが、封印する方には長けてないからのう」


 あー。確かに。

 魔王ってどちらかというと封印される方だもんな。


 となると、本当にどうしようかな。


 そう思っていると、また間の抜けた声が聞こえてくる。


「私がもらってもいいですかー?」


 女神だ。

 肝心なところで通信を切ったくせに、いけしゃあしゃあと話に割って入ってくる。


「もらうってどういうことだ?」

「えっとですねー。世界の秩序を乱した存在を捕まえると、報酬が貰えるんですよー」


 報酬目当てか。

 何とも、俗っぽい理由だ。


 だが、こっちとしては引き取ってくれるなら願ったり叶ったりだ。


「いいぜ。持ってってくれ」

「えへへへ。じゃあ、遠慮なく~」


 女神がそう言うと、ルシファーの体が光り始め、その光が収まるとルシファーの体は消えていた。


「……さてと。最大の懸念は解決したな。あとは……」


 俺がチラリとレティの方を見る。

 すると、レティはビクッと体を震わせた。


「あ、その……私は……」


 目を泳がせながら何か言い作ろうとしているようだが、言葉が出て来ない。


「待って、おじさん。ダッチは……」

「わかってるって」


 袖を引っ張ってくる栞奈を落ち着かせる。


「あのとき、レティに腹を殴られてなかったら、今頃、俺はルシファーに殺されてたはずだ」


 ルシファーに飛びついて、数秒の時間を稼ぐことはできたかもしれないが、そのあとは確実に殺されていただろう。


「なにより、レティが来てくれなかったら、俺は変身できなかった」

「え? じゃあ、今回、おじさんが変身できたのって、ダッチが『困って』いたから?」

「ああ。そうだ。ルシファーに殺されそうになっていただろ? あれに反応したんだ」


 だから、ルシファーを倒した瞬間に変身が解けたのだ。


「第一、浴衣で来てくれたってことは、仲間って証だろ?」


 俺がそう言うと、レティはさらに焦り始める。


「ああ、いや、その……お前の腹を殴ったのは純粋に仕返ししたかったからだし、この格好は、ちょっと着てみたくなっただけなのよ」

「……」


 どうやらレティは普通に敵として現れただけだったようだ。





 次の日の昼の1時。

 あの後、俺はレティと使役関係を結んだ。


 その時は特に抵抗することなく、素直に受け入れてくれた。

 使役さえ結べれば特に害になることはない。


 これからは自由にすればいいと言ったら、あっさりどこかに行ってしまった。

 それを見て、栞奈だけがどこか寂しそうな顔をしていた。


 その後のことはあまり覚えていない。

 足取りが重い中、全員で何とか家にたどり着き、泥のように眠った。


 人生の中で一番疲れたのではないだろうか。

 布団に入ると同時に眠りに落ちた。


 寝たのは夜の10時くらいだったが、まだまだ眠い。

 というより、今日一日はもうずっと寝ていたいところだ。


 しかし――。


「ふふっ!」


 何者かに乗っかられ、俺は重い瞼を開いた。

 乗っていたのは藍斗だ。


「起きたかい? 子猫ちゃん」

「……なにしてんだ?」

「言ったはずだよ。……ケ〇穴確定って」


 見ると、スーツの上からでもわかるくらい股間が盛り上がっている。


「ぎゃああああああああああ!」


 一気に目が覚めた。

 俺は素早く体を回転させて、這うようにして布団から抜け出す。


「へえ。犯られる気、満々なんだ?」


 後ろから藍斗にパジャマのズボンを引っ張られる。


「うおおおおお! やめろー!」


 この後、俺は何とか3分間逃げ切って、貞操を守り切った。




「ごめんなさい」


 栞奈、真凛、黒武者が正座した状態で並んでいる。


「……変身のリストバンドを出せ」


 俺がそう言うと3人はおずおずとリストバンドを出してくる。


「没収だ」


 俺はサッとそのリストバンドを取る。


「ええー! そんなー」


 栞奈が抗議の声を上げる。

 だが、没収はマストだ。

 次は逃げ切れる自信はない。


「ねえ、一回だけ! 一回だけでいいから犯らせてよ」

「黙れ!」


 そのとき、眠そうな目をこすりながら、禰豆美と茶子がやってくる。


「……昼間っからなにやってるの?」

「腹減ったぞ」


 確かに言われてみると、物凄く腹が減っている。


「よし、昼飯でも食うか」

「儂は納豆とパンいいぞ!」


 禰豆美が目を輝かせて走り寄ってくる。


「はあ、面倒くさいけど用意してあげるわよ」

「あ、私も手伝うよ」


 黒武者と茶子がキッチンの方へ向かっていく。


「あ、俺も手伝うよ。栞奈と真凛はコカトリスの卵を取ってきてくれ」

「はーい!」

「わかりました」


 こうして、俺たちの何気ない日常が戻ってきたのだった。

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