ルシファーが完全に動かなくなってから、数秒後、空間にヒビが入っていく。
そして、ガラスが割れるような音がすると同時に、草原だった風景も砕け散る。
俺たちがいる場所は元の山道だった。
おそらく、ルシファーが言っていた結界ってやつが解けたのだろう。
「ふう……」
俺は思わず、その場に座り込む。
ほとんど何もしていない俺だが、ドッと疲れが出た感じだ。
「おじさん!」
「正博」
「お兄さん!」
「パパ」
栞奈、黒武者、真凛、茶子が俺の方へ駆け寄ってくる。
「……みんな、無事だな?」
俺が見上げると4人ともコクリと頷いた。
「やはり、変身したお主は格が違うのう」
やや遅れて禰豆美がやってくる。
禰豆美は既に立っているのがやっとの状態で、かなりボロボロだ。
「すまん、禰豆美。今回はお前にかなり負担をかけたな」
「いや、謝るのは儂の方じゃ。不甲斐ない姿を見せてしまった」
暗い顔をして俯く禰豆美。
そんな禰豆美に俺はなんて声をかけていいかわからない。
少しの沈黙。
だが、そんな沈黙を破ったのは栞奈だった。
「ブブー! 今は落ち込むのなーし! 今回はみんな頑張ったってことでオッケーでしょ?」
正直、栞奈のこの明るさにはいつも助けられる。
「そうだな。今は、みんなが無事だったことを喜ぼう」
「……じゃな」
禰豆美がニコリと笑う。
なんだか、久しぶりに見た、満面の笑みだ。
「……さてと」
俺は重い体に鞭を打ち、立ち上がる。
そして、ルシファーを見下ろす。
「さて、どうするかな」
一番いいのは、無理やり使役関係を結ぶことだろう。
そうすれば、もう悪さはできないはずだ。
とはいえ、今回、ルシファーがやったことは正直、許せそうにない。
俺はともかく、栞奈や黒武者、真凛、茶子の命を危険に晒し、禰豆美に至っては随分と傷つけられた。
そんな奴を使役するというのは腑に落ちない。
かといって、殺すというのも違う気がする。
「なあ、禰豆美。封印とかって出来たりしないか?」
「ふむ……。魔王という存在は封印されるのは慣れておるが、封印する方には長けてないからのう」
あー。確かに。
魔王ってどちらかというと封印される方だもんな。
となると、本当にどうしようかな。
そう思っていると、また間の抜けた声が聞こえてくる。
「私がもらってもいいですかー?」
女神だ。
肝心なところで通信を切ったくせに、いけしゃあしゃあと話に割って入ってくる。
「もらうってどういうことだ?」
「えっとですねー。世界の秩序を乱した存在を捕まえると、報酬が貰えるんですよー」
報酬目当てか。
何とも、俗っぽい理由だ。
だが、こっちとしては引き取ってくれるなら願ったり叶ったりだ。
「いいぜ。持ってってくれ」
「えへへへ。じゃあ、遠慮なく~」
女神がそう言うと、ルシファーの体が光り始め、その光が収まるとルシファーの体は消えていた。
「……さてと。最大の懸念は解決したな。あとは……」
俺がチラリとレティの方を見る。
すると、レティはビクッと体を震わせた。
「あ、その……私は……」
目を泳がせながら何か言い作ろうとしているようだが、言葉が出て来ない。
「待って、おじさん。ダッチは……」
「わかってるって」
袖を引っ張ってくる栞奈を落ち着かせる。
「あのとき、レティに腹を殴られてなかったら、今頃、俺はルシファーに殺されてたはずだ」
ルシファーに飛びついて、数秒の時間を稼ぐことはできたかもしれないが、そのあとは確実に殺されていただろう。
「なにより、レティが来てくれなかったら、俺は変身できなかった」
「え? じゃあ、今回、おじさんが変身できたのって、ダッチが『困って』いたから?」
「ああ。そうだ。ルシファーに殺されそうになっていただろ? あれに反応したんだ」
だから、ルシファーを倒した瞬間に変身が解けたのだ。
「第一、浴衣で来てくれたってことは、仲間って証だろ?」
俺がそう言うと、レティはさらに焦り始める。
「ああ、いや、その……お前の腹を殴ったのは純粋に仕返ししたかったからだし、この格好は、ちょっと着てみたくなっただけなのよ」
「……」
どうやらレティは普通に敵として現れただけだったようだ。
次の日の昼の1時。
あの後、俺はレティと使役関係を結んだ。
その時は特に抵抗することなく、素直に受け入れてくれた。
使役さえ結べれば特に害になることはない。
これからは自由にすればいいと言ったら、あっさりどこかに行ってしまった。
それを見て、栞奈だけがどこか寂しそうな顔をしていた。
その後のことはあまり覚えていない。
足取りが重い中、全員で何とか家にたどり着き、泥のように眠った。
人生の中で一番疲れたのではないだろうか。
布団に入ると同時に眠りに落ちた。
寝たのは夜の10時くらいだったが、まだまだ眠い。
というより、今日一日はもうずっと寝ていたいところだ。
しかし――。
「ふふっ!」
何者かに乗っかられ、俺は重い瞼を開いた。
乗っていたのは藍斗だ。
「起きたかい? 子猫ちゃん」
「……なにしてんだ?」
「言ったはずだよ。……ケ〇穴確定って」
見ると、スーツの上からでもわかるくらい股間が盛り上がっている。
「ぎゃああああああああああ!」
一気に目が覚めた。
俺は素早く体を回転させて、這うようにして布団から抜け出す。
「へえ。犯られる気、満々なんだ?」
後ろから藍斗にパジャマのズボンを引っ張られる。
「うおおおおお! やめろー!」
この後、俺は何とか3分間逃げ切って、貞操を守り切った。
「ごめんなさい」
栞奈、真凛、黒武者が正座した状態で並んでいる。
「……変身のリストバンドを出せ」
俺がそう言うと3人はおずおずとリストバンドを出してくる。
「没収だ」
俺はサッとそのリストバンドを取る。
「ええー! そんなー」
栞奈が抗議の声を上げる。
だが、没収はマストだ。
次は逃げ切れる自信はない。
「ねえ、一回だけ! 一回だけでいいから犯らせてよ」
「黙れ!」
そのとき、眠そうな目をこすりながら、禰豆美と茶子がやってくる。
「……昼間っからなにやってるの?」
「腹減ったぞ」
確かに言われてみると、物凄く腹が減っている。
「よし、昼飯でも食うか」
「儂は納豆とパンいいぞ!」
禰豆美が目を輝かせて走り寄ってくる。
「はあ、面倒くさいけど用意してあげるわよ」
「あ、私も手伝うよ」
黒武者と茶子がキッチンの方へ向かっていく。
「あ、俺も手伝うよ。栞奈と真凛はコカトリスの卵を取ってきてくれ」
「はーい!」
「わかりました」
こうして、俺たちの何気ない日常が戻ってきたのだった。