いきなり変身が解け、3人に戻った黒武者、栞奈、真凛。
「ほえ?」
栞奈が不思議そうな顔をして2人を見渡している。
黒武者と真凛も同様に目を丸くしていた。
「……時間制限があるんでしょうか?」
「時間的に3分ってところかしらね」
3分。
待つ時間にしては長いが、戦う時間としてはかなり短い。
ウル〇ラマンは、よくそんな短い時間で怪人を倒せるものだ。
って、そんな場合じゃない。
「3人ともこっちに来い!」
俺の言葉にハッとして、3人が俺たち方へと駆け寄ってくる。
「ごめんなさい……」
栞奈だけではなく、黒武者や真凛もバツの悪そうな顔をしている。
「何言ってるんだ。よくやってくれたよ」
少なくとも、3人のおかげで分身の脅威は無くなった。
これはかなり大きな前進だろう。
俺たちがそんなことを話していると、ルシファーは肩を震わせて笑い始めた。
「ふふふふ……あはははは……はーっはっはっはっはっはっは」
どう見ても機嫌がよく笑っているようには見えない。
これはどう考えても……。
「貴様ら、絶対に許さんぞ!」
やっぱりか。
怒りを通り過ぎて笑っていたというやつだ。
「お主ら、下がっておれ。あとは儂が何とかする」
禰豆美が俺たちを庇うようにして前に出る。
しかし、その足取りはおぼつかない。
「禰豆美、無理するな」
「とはいえ、儂以外、どうすることもできまい」
禰豆美の言葉に絶句する。
茶子の召喚の魔方陣は尽きた。
栞奈、黒武者、真凛の変身は解けた。
そして、役立たずな俺。
確かに、ボロボロとはいえ、一番の戦力は禰豆美に違いない。
だが、その禰豆美だって立っているのがやっとの状態だ。
ルシファーはダメージを受けているとは言え、それでもかなり有利だろう。
くそ! くそ! くそ!
一番偉そうなことを言ってる俺が何もできないことに腹が立つ。
いっそ、この場に爆弾でもあれば体に巻いて特攻したいところだ。
それで倒せるかはわからないが、みんなをこの場から逃がすことくらいはできるはず。
……いや、待てよ。
「お前ら。俺が突っ込んだら一斉に、出口に駆け込め」
「……何をする気じゃ?」
「大丈夫。俺に考えがある。いいか、チャンスは一回きりだ。みんな全力で駆け抜けろ」
俺の言葉に5人が頷く。
よし。
これでいい。
俺は禰豆美よりもさらに前に出て、ルシファーに向かって親指を立ててグッと下に下げる。
「よお、ルシファーさんよぉ」
「ああ?」
ルシファーはもはや怒りのせいか、口調が汚くなっている。
ここは一旦、冷静にさせなくては。
「お前の負けだよ」
「……なんだと?」
怒りの形相に少しだけ困惑の色が混じる。
「そこまでダメージを負えば、さすがにもう俺には勝てないだろ?」
「……貴様が俺に? ふん、馬鹿なことを」
「海でのこと、見てたんだろ? なら、俺の強さはわかってるはずだ」
「……貴様が力を発揮するには変身しなければならないだろ?」
「そうだな」
「変身していない貴様が、俺に勝てるわけがない」
「変身してないなら、な」
「……」
さらに困惑の方が色濃くなっていく。
よし。
もう少しだ。
「変身できるのであれば、既にしているはずだろう?」
「そうかな? ぶっちゃけていうと、俺の変身にも時間制限がある。変身してお前に逃げられでもすれば終わりだ」
「……」
「けど、お前はもう俺の攻撃から逃げる体力もなくなった。俺はこれを待ってたんだよ」
「……ふん。ハッタリだ」
そう。ハッタリだ。
ルシファーの言う通り、変身できるならとっくに変身している。
だが、ここの肝は変身できるかも、と思わせることだ。
「どうかな? まあ、ハッタリだと思いたければ、思ってればいい」
「……ちっ!」
俺は後ろに向かって手でゴーサインを出す。
そして、ルシファーに向かって走り出す。
「うおおおおおおおおお!」
ルシファーも思わず身構えている。
よし、これならそのまま抱き着いて、数秒くらいは時間を稼げる。
そうすれば、みんなはこの結界から出られるはずだ。
「はああああああああ!」
くそ。
こういうとき、足が遅いと格好悪いな。
ドスドスドスという音が聞こえてきそうなくらい、鈍重な走りだ。
「くっ! 舐めるなよ!」
逆にルシファーにはそれが策にでも見えたのか、警戒を解かない。
「おらああ!」
ルシファーの目の前。
俺がルシファーに飛び掛かろうとした瞬間だった。
「おぐぅ!」
俺は腹部に衝撃が走ったことで、動きを止め、膝から崩れ落ちてしまう。
……なんだ?
ルシファーは動かなかったはずだぞ?
そう思って見上げると、そこにはレティが立っていた。
――浴衣姿で。
「遅くなったわね、ルシファー。この結界を探すのに少し手間取ったわ」
「……ダークエルフか」
「ダッチ!」
栞奈が叫ぶ。
そんな栞奈に対して、殺気を込めた視線を向けるレティ。
「その名で呼ばないでくれるかしら? 殺すわよ?」
「レティ……。な、なぜだ……。ロープで手を縛っていたはずだぞ」
「あのねぇ。あんなもの、ダークエルフの私が外せないとでも思った?」
言われてみれば確かにそうだ。
あの程度のロープなんてレティならいとも簡単に引きちぎれるだろう。
くそ。
完璧に油断した。
仲良くなったつもりでいたが、考えてみれば使役を断っている相手だ。
気を許す方がどうかしている。
「で? ダークエルフよ。何しに来た?」
「もちろん、こいつらを殺しによ。屈辱を味わった分、自分の手で返さないと」
「そうか……」
すると突然、ルシファーはレティの顔を裏拳で殴りつけた。
「ああっ!」
レティが吹っ飛ばされる。
そして、ルシファーはレティに向かって、手のひらを向けた。
手のひらの先からは闇の弾が出現している。
「な、なにを?」
「人間ごときに捕まるような奴はいらん。魔族の面汚しめ」
闇の弾がドンドンと大きくなっていく。
一撃で消し去るつもりだ。
「ひっ!」
レティの顔が恐怖で引きつる。
「死ね!」
その瞬間。
俺の体が光り始める。
「むっ!?」
ルシファーは慌てて俺の方に闇の弾を向けて放った。
しかし――。
俺は無傷の状態でルシファーの前に立つ。
変身した姿で。
「なぜだ!? なぜ、変身できる?」
「ナイスだ、レティ」
俺は一度、レティの方を見る。
レティはポカンとした顔をしていた。
「今度こそ、終わりだぜ?」
「くそっ!」
ルシファーは身構えるが、俺は思い切り顔面を殴り下ろした。
「があああああああああっ!」
ルシファーは地面に叩きつけられ、その衝撃で地面にクレーターができる。
「あ……ああっ……うっ」
ピクピクと痙攣したルシファーはやがてピクリとも動かなくなった。
同時に俺の変身が解けたのだった。