黒髪で短髪。
長身で細マッチョ。
さわやかでイケメン。
そこにはまさしく、俺と真逆の男が立っていた。
格好は俺と同じデザインのスーツなのに、妙にしっくりくるというか着こなしているというか、とにかくキモくない。
これはあれだろうか。
イケメンは何を着ても似合うとかそういうやつか?
「それにしても……」
ペタペタと両手で自分の体を触りながら見下ろしている。
そして、その手は股間へと伸びる。
「すげえ! チ〇ポ付いてる!」
おっと……。
さわやかな顔して何言ってんだ、こいつ。
初登場でチ〇ポって……。
最高に下品でクレイジーなやつだな。
「これで栞奈を犯せる!」
黒武者が入っていると一発でわかる発言。
イケメンの中に黒武者の性格が入ってるってカオスだろ。
「いや……合体してるから無理じゃないか?」
「っ!?」
俺の突っ込みに絶句する緑。
そして、すぐにさわやかなイケメンスマイルで、ビッと俺を指差す。
「お前、ケ〇穴確定な」
「理不尽っ!」
なんでだよ!
俺は当たり前のこと言っただけじゃん!
てかネタが微妙に古い!
「さてと。それはさておき、さっさとやりますか」
グッグッと伸びをしてから、緑は禰豆美の方へ向かって走る。
「はああああああああ!」
回し蹴りで8体もの分身を一気に一掃する。
「なっ!」
目を丸くして驚く禰豆美に、さわやかな笑顔を向けている。
「お待たせ。助けに来たぜ」
「何者じゃ?」
「俺は藍斗。君を助けに来た、ナイトだ」
緑……いや、藍斗はキザっぽく髪をかき上げてほほ笑む。
そんな藍斗に思わず、俺はつぶやいてしまう。
「合体なのに、名前は普通なんだな」
「合体したからって、名前まで合体させるなんて、ナンセンスだろ?」
くっ!
なんて危ないセリフを。
色々な方面に喧嘩を売るんじゃない!
「禰豆美、サンキューな。あとは俺に任せて、休んでてくれ」
ビッと親指を立てて笑う藍斗。
いや、格好いいよ。マジで。
なんていうかヒーローっぽいし、主人公っぽい。
けど、信じられるか?
そんなんでも、中身は変態なんだぜ?
「はああああ!」
藍斗は残りの分身を倒してから、ルシファーのマントの方へ走る。
「しまった!」
ルシファーが慌ててマントに駆け寄ろうとするが遅い。
藍斗はマントを拾い上げると、ビリビリと破りさった。
「これでもう分身は生み出せない」
勝ち誇ったような笑みをルシファーに向ける藍斗。
ルシファーの方は苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべている。
「儂としたことが、盲点じゃった」
禰豆美の方も若干、悔しそうだ。
「禰豆美、大丈夫か?」
茶子と一緒に、禰豆美の方へ駆け寄る。
「ふむ。平気じゃ。……にしても、あやつは何者なんじゃ?」
「黒武者と栞奈と真凛が合体した姿だよ」
「なんと! 合体か!? この世界の人間は凄いことができるんじゃのう」
合体と聞いてか、目をキラキラとさせる禰豆美。
「いや、普通はできない。たぶん、女神がくれたスーツのおかげ……」
そう自分でつぶやきながら、気になったことを思い出す。
「そういえば、女神」
「なんですか~?」
「2つほど質問がある」
「はいはい~」
「合体後はなんで男なんだ? 3人とも女だったろ?」
「えっと~……。あっ、あれですよ! マイナスとマイナスをかけたらプラスになるやつです~」
「……3回かけてるからマイナスだろ」
「……」
黙っちゃった。
たぶん、本人もよくわかってないんだろうな。
この件はもう追求しないでおこう。
「それと、スーツの色なんだが、どうして緑なんだ?」
「ふふふふ~。よく聞いてくれました~!」
なにやら自信ありげな声を出す女神。
「元々の色は、栞奈さんは青、萌乃さんは赤、真凛さんは黄色です~」
「それが?」
「混ぜたら、緑になるじゃないですか~! ふふん!」
「……茶色だよ」
「え?」
「緑は青と黄色の2つだよ。赤が入ると茶色になるぞ」
「……」
再び沈黙する女神。
そして――。
「ぎゃあああああああああ!」
いきなり俺の腹のリングが締まる。
同時に、ブツっと音がする。
どうやら通信を切ったらしい。
くそ。
旗色が悪くなったら、リングを締めるのやめて欲しい。
「……何とかなりそうじゃな」
禰豆美が藍斗とルシファーの方を見ながらつぶやく。
見ると、禰豆美の言うように藍斗はルシファーと互角だった。
戦いの構図は禰豆美のときと同じ。
ルシファーは闇の弾を撃ち、藍斗はそれを潜り抜けて、打撃で応戦している。
「互角か……」
「いや、藍斗が押しておる」
確かにルシファーの攻撃は当たっていないのに、藍斗の打撃はルシファーに入っている。
「おのれー!」
登場したときの冷静で丁寧な口調は消え去り、感情を剥き出しにしている。
頭に血が上っているのか、攻撃が雑になっていく。
そして、それを見逃す藍斗ではなかった。
藍斗のパンチがルシファーの腹部にめり込む。
「がはっ!」
ルシファーは体をくの字に曲げながらも、大きく後ろに下がる。
「くそっ! 人間の分際で!」
おそらく、元々、藍斗とルシファーは互角くらいの強さだったのだと思う。
だけど、禰豆美と戦って体力とダメージを受けたこともあり、その分の差が出たのだろう。
そう考えると禰豆美は本当に頑張ってくれていたことがわかる。
これは、向こう1年は納豆祭りを開催してもいいくらいだ。
「さあ、幕引きだぜ」
藍斗が拳に力を込めている。
「くっ!」
ルシファーは両腕で防御をするような体勢になる。
「いくぞ! はああ……え?」
突然、藍斗の体が光り始める。
あ、まさか……。
光が収まると、栞奈、黒武者、真凛の3人に戻っていた。