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第96話 グリーン藍斗

 黒髪で短髪。

 長身で細マッチョ。

 さわやかでイケメン。


 そこにはまさしく、俺と真逆の男が立っていた。


 格好は俺と同じデザインのスーツなのに、妙にしっくりくるというか着こなしているというか、とにかくキモくない。


 これはあれだろうか。

 イケメンは何を着ても似合うとかそういうやつか?


「それにしても……」


 ペタペタと両手で自分の体を触りながら見下ろしている。

 そして、その手は股間へと伸びる。


「すげえ! チ〇ポ付いてる!」


 おっと……。

 さわやかな顔して何言ってんだ、こいつ。

 初登場でチ〇ポって……。

 最高に下品でクレイジーなやつだな。


「これで栞奈を犯せる!」


 黒武者が入っていると一発でわかる発言。

 イケメンの中に黒武者の性格が入ってるってカオスだろ。


「いや……合体してるから無理じゃないか?」

「っ!?」


 俺の突っ込みに絶句する緑。

 そして、すぐにさわやかなイケメンスマイルで、ビッと俺を指差す。


「お前、ケ〇穴確定な」

「理不尽っ!」


 なんでだよ!

 俺は当たり前のこと言っただけじゃん! 

 てかネタが微妙に古い!


「さてと。それはさておき、さっさとやりますか」


 グッグッと伸びをしてから、緑は禰豆美の方へ向かって走る。


「はああああああああ!」


 回し蹴りで8体もの分身を一気に一掃する。


「なっ!」


 目を丸くして驚く禰豆美に、さわやかな笑顔を向けている。


「お待たせ。助けに来たぜ」

「何者じゃ?」

「俺は藍斗。君を助けに来た、ナイトだ」


 緑……いや、藍斗はキザっぽく髪をかき上げてほほ笑む。

 そんな藍斗に思わず、俺はつぶやいてしまう。


「合体なのに、名前は普通なんだな」

「合体したからって、名前まで合体させるなんて、ナンセンスだろ?」


 くっ!

 なんて危ないセリフを。

 色々な方面に喧嘩を売るんじゃない!


「禰豆美、サンキューな。あとは俺に任せて、休んでてくれ」


 ビッと親指を立てて笑う藍斗。


 いや、格好いいよ。マジで。

 なんていうかヒーローっぽいし、主人公っぽい。


 けど、信じられるか?

 そんなんでも、中身は変態なんだぜ?


「はああああ!」


 藍斗は残りの分身を倒してから、ルシファーのマントの方へ走る。


「しまった!」


 ルシファーが慌ててマントに駆け寄ろうとするが遅い。

 藍斗はマントを拾い上げると、ビリビリと破りさった。


「これでもう分身は生み出せない」


 勝ち誇ったような笑みをルシファーに向ける藍斗。

 ルシファーの方は苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべている。


「儂としたことが、盲点じゃった」


 禰豆美の方も若干、悔しそうだ。


「禰豆美、大丈夫か?」


 茶子と一緒に、禰豆美の方へ駆け寄る。


「ふむ。平気じゃ。……にしても、あやつは何者なんじゃ?」

「黒武者と栞奈と真凛が合体した姿だよ」

「なんと! 合体か!? この世界の人間は凄いことができるんじゃのう」


 合体と聞いてか、目をキラキラとさせる禰豆美。


「いや、普通はできない。たぶん、女神がくれたスーツのおかげ……」


 そう自分でつぶやきながら、気になったことを思い出す。


「そういえば、女神」

「なんですか~?」

「2つほど質問がある」

「はいはい~」

「合体後はなんで男なんだ? 3人とも女だったろ?」

「えっと~……。あっ、あれですよ! マイナスとマイナスをかけたらプラスになるやつです~」

「……3回かけてるからマイナスだろ」

「……」


 黙っちゃった。

 たぶん、本人もよくわかってないんだろうな。

 この件はもう追求しないでおこう。


「それと、スーツの色なんだが、どうして緑なんだ?」

「ふふふふ~。よく聞いてくれました~!」


 なにやら自信ありげな声を出す女神。


「元々の色は、栞奈さんは青、萌乃さんは赤、真凛さんは黄色です~」

「それが?」

「混ぜたら、緑になるじゃないですか~! ふふん!」

「……茶色だよ」

「え?」

「緑は青と黄色の2つだよ。赤が入ると茶色になるぞ」

「……」


 再び沈黙する女神。


 そして――。


「ぎゃあああああああああ!」


 いきなり俺の腹のリングが締まる。

 同時に、ブツっと音がする。

 どうやら通信を切ったらしい。


 くそ。

 旗色が悪くなったら、リングを締めるのやめて欲しい。


「……何とかなりそうじゃな」


 禰豆美が藍斗とルシファーの方を見ながらつぶやく。


 見ると、禰豆美の言うように藍斗はルシファーと互角だった。


 戦いの構図は禰豆美のときと同じ。

 ルシファーは闇の弾を撃ち、藍斗はそれを潜り抜けて、打撃で応戦している。


「互角か……」

「いや、藍斗が押しておる」


 確かにルシファーの攻撃は当たっていないのに、藍斗の打撃はルシファーに入っている。


「おのれー!」


 登場したときの冷静で丁寧な口調は消え去り、感情を剥き出しにしている。

 頭に血が上っているのか、攻撃が雑になっていく。

 そして、それを見逃す藍斗ではなかった。


 藍斗のパンチがルシファーの腹部にめり込む。


「がはっ!」


 ルシファーは体をくの字に曲げながらも、大きく後ろに下がる。


「くそっ! 人間の分際で!」


 おそらく、元々、藍斗とルシファーは互角くらいの強さだったのだと思う。

 だけど、禰豆美と戦って体力とダメージを受けたこともあり、その分の差が出たのだろう。

 そう考えると禰豆美は本当に頑張ってくれていたことがわかる。

 これは、向こう1年は納豆祭りを開催してもいいくらいだ。


「さあ、幕引きだぜ」


 藍斗が拳に力を込めている。


「くっ!」


 ルシファーは両腕で防御をするような体勢になる。


「いくぞ! はああ……え?」


 突然、藍斗の体が光り始める。


 あ、まさか……。


 光が収まると、栞奈、黒武者、真凛の3人に戻っていた。

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