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第95話 合体!

 ゴーレムを破壊しつくしたルシファーの分身はジリジリと俺たちの方へ詰め寄ってくる。


 ミノタウロスは分身の一体を薙ぎ払うが、すぐさま2体目に頭部を攻撃されて倒れた。

 同様にオーガやグリフォンも1、2体の分身を倒すことには成功するが、すぐに他の分身によって倒されてしまう。


 ちなみにリザードマンは攻撃する間もなく倒れ、動かなくなった。


 すぐに俺たちは大量の分身たちによって囲まれる。


「くそっ!」


 俺は咄嗟に石を拾い上げ、分身に向かって投げる。

 が、石は分身に当たるどころか、あらぬ方向へと飛んでいく。


「……おじさん」


 後ろにいる栞奈がピッタリと寄り添ってくる。

 震えているのがわかる。

 すぐにでも泣き出したいくらいだろう。

 悲鳴を上げたいはずだ。


 だけど、それを必死に堪えている。


「パパ……ごめん」


 今度は横にいる茶子が俺の腕にくっつきながら謝ってきた。


「なんでお前が謝るんだよ」


 取り囲んでいる分身は今にもこっちに襲い掛かろうとしている。

 すぐに襲ってこないのは、ルシファーが俺たちの絶体絶命の状況を見て楽しんでいるのかもしれない。


 しかし、その状態はあっさりと崩れる。

 分身の1体がこちらに向かって飛び掛かってきた。


「みんな、下がれ!」


 俺は前に出て、せめて数秒でも時間を稼ごうとする。


 だが、分身は俺の目の前で砕け散った。

 助けてくれたのは禰豆美だ。


「……すまぬ。倒せなかった……」


 悔しそうな声。

 肩も震えている。


「禰豆美……。頼むから謝らないでくれ」


 俺の言葉に振り返った禰豆美は下唇を噛み、悲痛な表情で顔をしかめた。

 そして、今にも泣きそうな顔をする。


「……すまぬ」


 もう一度、謝ってから禰豆美は周りにいる分身を倒し始める。


 これでまた元の状況に戻ってしまった。


 禰豆美が力尽きれば、俺たちの命運も尽きる。

 俺はただ、ひたすら応援することしかできない。


 ……いや、禰豆美を応援すると言うことは、それだけ禰豆美を苦しめることになる。

 終わりのない戦いを強いているのだから。


 となれば、できることはなんだ?


 神に祈るだけ。


 そんなことは無駄だとわかっている。

 今まで神に祈って、助けてもらったことなど……。


 ん?

 待てよ?

 神?


「おい! 女神! 聞いてるか!?」


 俺は思い切り叫んだ。


「きゃあ! あああはいはいはい。もちろん、聞いてますよ~! ずっと見てましたよ~!」


 その間延びした女神の声は、いつもならイラっとするところだが、今回ばかりは少しだけ心強く聞こえる。


「あれ~? みなさん、何やってるんですか?」

「見てなかったんじゃねーかよ! って、今はそんなことはどうでもいい。ピンチなんだ」

「そうみたいですね~」

「俺を強制的に変身させてくれ」

「あ~、それは無理です~」


 前言撤回。

 やっぱり少しイラっとした。


「なんでだよ?」

「だって、周りに人がいないじゃないですか。そのスーツは困った人がいたら変身するって仕様なので、どうしようもないですよ~」

「……」


 やはり使えない。

 本当に、この女神は使えないな。

 せっかく、この場を切り抜けられると思ったのに。


 正直、強制的に変身させてもらえるなら、茶子にも俺と同じスーツを付けてもらって援護してもらうなんてことも考えていた。

 だが、その計画もあっさりと崩れてしまう。

 たとえ、茶子にスーツを授けてもらっても、変身するトリガーがなければ、意味がない。


「……なんとか、できないか?」

「そう言われましても~」

「俺は死んでもいい。どうせ、一回死んだ身だからな。けど、こいつらはなんとか助けてほしいんだ」


 俺が叫ぶと、後ろからつぶやくような声が聞こえる。


「おじさん……」

「お兄さん……」

「パパ……」

「クソオタク……」


 なんか一人だけ罵倒が混じっているが、そんなことを気にしてる場合じゃない。


「頼む! 助けてくれ! この通りだ!」

「いえ、そんなことを言われても……あら? 後ろの3人はどうして変身してないんですか~?」


 いきなり女神が変なことを言い出した。


「栞奈たちのことを言ってるのか? あいつらの変身は別に力が得られるわけじゃないだろ」


 そう。

 禰豆美を含めた4人のスーツは一瞬にして装着できるだけの、ただのコスプレするだけのものでしかない。

 この状況では何の役にも立たないはずだ。


「合体して戦えばいいじゃないですか~」

「……合体?」

「戦隊ヒーローと言えば合体するじゃないですか~。そんなことも知らないんですか~?」


 いや、それはロボの話だろ?

 戦隊ヒーロー同士が合体するのなんて見たことねーよ!


「合体すれば、戦えるのね!?」


 黒武者が緊迫した声で女神に問いかける。


 そうだった。

 突っ込みなんてしている場合じゃない。


「はい~。もちろんですよ~。すごいですよ~」


 間の抜けた声とは裏腹に、黒武者は栞奈と真凛に向かって真剣な表情をする。


「栞奈ちゃん、真凛さん、緊急事態よ。……合体してくれる?」

「うん、もちろんだよ!」

「はい、よろこんで」

「ということで、合体の方法を教えてくれるかしら?」

「はい~。まずは3人とも、変身してください~」


 女神に言われた通り、3人が「変身」と叫んで変身をする。


「次に~それぞれが右手を出してください~。はいはい。そうです。そうやって重ねてください」


 黒武者、栞奈、真凛が円陣を組んで、気合を入れるようなポーズを取る。


「そして、合体と叫んでください~」


 女神の言葉と同時に、3人が「合体!」と叫んだ。


 すると3人の体が光り始める。

 目の前が真っ白になるほどの強い光。


「くっ! な、なんだ!?」


 遠くでルシファーの声も聞こえてくる。


 光が収束する。

 するとそこには1つの人影が。


「ふっ。待たせてごめんよ。でも、許してほしい。なぜなら、ヒーローは遅れてやってくるものだからね」


 そこには緑の全身タイツのようなスーツを着た、さわやか長身イケメンが立っていたのだった。

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