ゴーレムを破壊しつくしたルシファーの分身はジリジリと俺たちの方へ詰め寄ってくる。
ミノタウロスは分身の一体を薙ぎ払うが、すぐさま2体目に頭部を攻撃されて倒れた。
同様にオーガやグリフォンも1、2体の分身を倒すことには成功するが、すぐに他の分身によって倒されてしまう。
ちなみにリザードマンは攻撃する間もなく倒れ、動かなくなった。
すぐに俺たちは大量の分身たちによって囲まれる。
「くそっ!」
俺は咄嗟に石を拾い上げ、分身に向かって投げる。
が、石は分身に当たるどころか、あらぬ方向へと飛んでいく。
「……おじさん」
後ろにいる栞奈がピッタリと寄り添ってくる。
震えているのがわかる。
すぐにでも泣き出したいくらいだろう。
悲鳴を上げたいはずだ。
だけど、それを必死に堪えている。
「パパ……ごめん」
今度は横にいる茶子が俺の腕にくっつきながら謝ってきた。
「なんでお前が謝るんだよ」
取り囲んでいる分身は今にもこっちに襲い掛かろうとしている。
すぐに襲ってこないのは、ルシファーが俺たちの絶体絶命の状況を見て楽しんでいるのかもしれない。
しかし、その状態はあっさりと崩れる。
分身の1体がこちらに向かって飛び掛かってきた。
「みんな、下がれ!」
俺は前に出て、せめて数秒でも時間を稼ごうとする。
だが、分身は俺の目の前で砕け散った。
助けてくれたのは禰豆美だ。
「……すまぬ。倒せなかった……」
悔しそうな声。
肩も震えている。
「禰豆美……。頼むから謝らないでくれ」
俺の言葉に振り返った禰豆美は下唇を噛み、悲痛な表情で顔をしかめた。
そして、今にも泣きそうな顔をする。
「……すまぬ」
もう一度、謝ってから禰豆美は周りにいる分身を倒し始める。
これでまた元の状況に戻ってしまった。
禰豆美が力尽きれば、俺たちの命運も尽きる。
俺はただ、ひたすら応援することしかできない。
……いや、禰豆美を応援すると言うことは、それだけ禰豆美を苦しめることになる。
終わりのない戦いを強いているのだから。
となれば、できることはなんだ?
神に祈るだけ。
そんなことは無駄だとわかっている。
今まで神に祈って、助けてもらったことなど……。
ん?
待てよ?
神?
「おい! 女神! 聞いてるか!?」
俺は思い切り叫んだ。
「きゃあ! あああはいはいはい。もちろん、聞いてますよ~! ずっと見てましたよ~!」
その間延びした女神の声は、いつもならイラっとするところだが、今回ばかりは少しだけ心強く聞こえる。
「あれ~? みなさん、何やってるんですか?」
「見てなかったんじゃねーかよ! って、今はそんなことはどうでもいい。ピンチなんだ」
「そうみたいですね~」
「俺を強制的に変身させてくれ」
「あ~、それは無理です~」
前言撤回。
やっぱり少しイラっとした。
「なんでだよ?」
「だって、周りに人がいないじゃないですか。そのスーツは困った人がいたら変身するって仕様なので、どうしようもないですよ~」
「……」
やはり使えない。
本当に、この女神は使えないな。
せっかく、この場を切り抜けられると思ったのに。
正直、強制的に変身させてもらえるなら、茶子にも俺と同じスーツを付けてもらって援護してもらうなんてことも考えていた。
だが、その計画もあっさりと崩れてしまう。
たとえ、茶子にスーツを授けてもらっても、変身するトリガーがなければ、意味がない。
「……なんとか、できないか?」
「そう言われましても~」
「俺は死んでもいい。どうせ、一回死んだ身だからな。けど、こいつらはなんとか助けてほしいんだ」
俺が叫ぶと、後ろからつぶやくような声が聞こえる。
「おじさん……」
「お兄さん……」
「パパ……」
「クソオタク……」
なんか一人だけ罵倒が混じっているが、そんなことを気にしてる場合じゃない。
「頼む! 助けてくれ! この通りだ!」
「いえ、そんなことを言われても……あら? 後ろの3人はどうして変身してないんですか~?」
いきなり女神が変なことを言い出した。
「栞奈たちのことを言ってるのか? あいつらの変身は別に力が得られるわけじゃないだろ」
そう。
禰豆美を含めた4人のスーツは一瞬にして装着できるだけの、ただのコスプレするだけのものでしかない。
この状況では何の役にも立たないはずだ。
「合体して戦えばいいじゃないですか~」
「……合体?」
「戦隊ヒーローと言えば合体するじゃないですか~。そんなことも知らないんですか~?」
いや、それはロボの話だろ?
戦隊ヒーロー同士が合体するのなんて見たことねーよ!
「合体すれば、戦えるのね!?」
黒武者が緊迫した声で女神に問いかける。
そうだった。
突っ込みなんてしている場合じゃない。
「はい~。もちろんですよ~。すごいですよ~」
間の抜けた声とは裏腹に、黒武者は栞奈と真凛に向かって真剣な表情をする。
「栞奈ちゃん、真凛さん、緊急事態よ。……合体してくれる?」
「うん、もちろんだよ!」
「はい、よろこんで」
「ということで、合体の方法を教えてくれるかしら?」
「はい~。まずは3人とも、変身してください~」
女神に言われた通り、3人が「変身」と叫んで変身をする。
「次に~それぞれが右手を出してください~。はいはい。そうです。そうやって重ねてください」
黒武者、栞奈、真凛が円陣を組んで、気合を入れるようなポーズを取る。
「そして、合体と叫んでください~」
女神の言葉と同時に、3人が「合体!」と叫んだ。
すると3人の体が光り始める。
目の前が真っ白になるほどの強い光。
「くっ! な、なんだ!?」
遠くでルシファーの声も聞こえてくる。
光が収束する。
するとそこには1つの人影が。
「ふっ。待たせてごめんよ。でも、許してほしい。なぜなら、ヒーローは遅れてやってくるものだからね」
そこには緑の全身タイツのようなスーツを着た、さわやか長身イケメンが立っていたのだった。