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第94話 ピンチピンチピンチ

 3メートルを超す石で出来た石像、ゴーレム。


 デカくて威力のあるパンチは意外とスピードがある。

 ワンパンチでルシファーの分身3体をまとめて吹き飛ばした。


「うお、なんじゃ?」


 突然の加勢に驚く禰豆美。


 このゴーレムを召喚したのは茶子だ。

 そういえば、浜辺で召喚の魔方陣を拾い集めてたと言っていた。

 騒ぎにならないように、勝手に召喚することを禁じていたが、拾い集めていたこと自体には本当にグッジョブとしか言いようがない。


「よくやった、茶子!」

「お代は強姦で」


 俺の言葉にニヤリと笑う茶子。


 ……嫌なお代だな。


「まだまだ行くよ!」


 茶子は再び、懐から魔方陣を取り出し、次々と召喚を行っていく。


 ミノタウロス、オーガ、グリフォン、リザードマン。


 それぞれが俺たちの四方を守るような形で配置される。


 ……ただ、俺の前に配置されているリザードマンは既に息切れしている。

 なんか辛そうだ。

 というか、あんまりもたなそうだぞ。

 水辺にいるモンスターだからしょうがないけどさ。


「禰豆美! こっちは大丈夫だ! ルシファーに専念してくれ!」

「うむ! 任せておけ!」


 禰豆美がこっちを見て、ニヤッと笑って親指を立てる。

 実に頼りがいのある笑顔だ。

 格好いい。

 禰豆美が2次元なら惚れてただろう。


「ちっ!」


 さすがにこの展開は想定外だったのか、ルシファーが顔をしかめる。

 余裕の笑顔が崩れた。

 これで一気に形勢は逆転した。


「はあああああああ!」


 禰豆美が分身たちの間をすり抜け、一気にルシファーへと詰め寄る。

 そして、回転してからの後ろ回し蹴りが見事にルシファーの腹に突き刺さった。


「ぐはっ!」


 後方へ吹き飛ぶ、ルシファー。


「まだまだじゃ!」


 禰豆美が追撃をするために、さらにルシファーを追う。


「ふん……」


 体勢を整えたルシファーはマントを外して、地面に放った。

 そのマントからはゆっくりだが、分身が生み出されていく。

 本体から離れたことにより、生み出されるスピードが極端に遅くなった。


 つまり、分身を生み出すことに余裕がなくなったということだ。


「図に乗るなよ!」


 目を剥き、怒りを露わにするルシファー。

 禰豆美の攻撃は確実に効いているようだ。


「はああああああ!」

「うおおおおおおお!」


 禰豆美とルシファーの攻防戦が始まった。


 ルシファーはどす黒い弾を撃ち、禰豆美はそれを掻い潜り打撃を繰り出す。

 ルシファーは中長距離型で禰豆美は接近型。


 今のところはどちらも有効打を当てられていない。


 正直、俺は禰豆美が圧倒してくれると思っていた。

 ただ、それはあくまで俺の都合のいい希望だった。


 相手はしょせん四天王。

 元魔王の禰豆美の足元にも及ばない。


 そう思っていた。

 だが、考えてみれば、あくまで禰豆美は『元』魔王なのだ。


 体が変化しているし、魔力自体も本来の姿のときから見ると比べ物にならないほど衰えている可能性だってある。

 一瞬、勝ちを確信していたが、依然、こちらのピンチは続いていると言ってもいいだろう。


「茶子。隙を見て、ここから脱出したい。できそうか?」

「私もそうしたいところなんだけど……。ちょっと難しそうかな」

「え?」


 茶子を見ると、額にうっすらと汗がにじんでいた。

 表情も暗い。

 というより、さっきは虚勢を張って明るくしてただけだろうか。


「分身とはいえさ、相手はルシファーなんだよね」


 茶子がゴーレムの方を見る。

 俺もつられてそっちに視線を向けた。


 ゴーレムは善戦を続けている。

 今も次々と分身を叩き潰していた。


 だが、よく見ると、ところどころ被弾したせいか、ヒビが入っている。


「たぶん、もってあと5分ってところかな。で、私の手札で今のところ最強なのが、あのゴーレムなんだよね」


 そうか。

 だから、ミノタウロスたちを加勢させないのか。


 ゴーレム以外の4体はいわばハッタリ。

 ゴーレムがやられても、まだこっちには4体のモンスターがいる。


 そう思わせるためのポーズだ。

 もし、この4体を分身たちとの戦いに投入すれば、秒殺される可能性もあるかもしれない。


 現に……。


「グガ……」


 リザードマンが苦しそうに片膝を着く。


 まあ、これは戦闘によるものじゃなく、地形的な問題なのだろうけど。


「揺さぶる意味も含めて、外に出ようと走ることも考えたけど、下手をすると足を引っ張っちゃう可能性があるからさ」

「……確かにな」


 俺たちが逃げようとすれば、もちろんルシファーはこっちに気を取られる。

 そこを禰豆美に突いてもらうというのは実にいい作戦ではある。


 だが逆に、走っている途中で分身に突破されて、俺たちの誰かが襲われでもすれば、今度は禰豆美の方がこっちに気を取られてしまう。

 その隙をルシファーが見逃すわけはないだろう。


「ってことは、俺たちにできることは……」

「禰豆美ちゃんが勝つことを祈る、しかないね」

「神頼みか……」


 自分でそう呟いた瞬間、何かが引っかかった感じがした。

 何か重要なことを忘れているような、それを思い出しそうな、そんな感じだ。


 思い出せ!

 この場を切り抜けるためなら、なんだって利用する。

 起死回生の一手をひねり出せ。


 必死に靄のかかった頭の中の何かを手繰り寄せる。


 が、そのときだった。


「ぐはっ!」


 禰豆美が地面に叩きつけられた。


「禰豆美!」

「へ、平気じゃ……」


 ヨロヨロと起き上がる禰豆美。

 明らかにダメージを負ってボロボロだ。


 逆にルシファーの方と言えば、肩で息をしているが、そこまでダメージを負っているようには見えない。


 まさか、ルシファーの方が強いのか?


 そう思った瞬間。


「あっ!」


 茶子が声を上げると同時にガラガラと何かが崩れる音がする。

 見ると、ゴーレムが崩れ落ちたところだった。


 依然、俺たちのピンチは続く。

 いや、確実に追い詰められていくのであった。

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