目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第91話 魔が迫る刻

「ななななな、なんじゃ、こりゃーーー!」


 俺の声が祭り会場に響き渡ったのだった。





 祭りに来てから、大体2時間くらい経ったくらいだろうか。

 射的で禰豆美がぬいぐるみを惨殺した後、ヨーヨー釣りに、型抜きを楽しむ。

 そこで少し腹が減ったので、焼き鳥とかき氷を食べる。


 かき氷はつい、この間の海でのことを思い出す。


 モ十子の抱き枕を水着コンテストの賞品で貰ったっけな。


「……ふざけんなー!」

「うわっ! どうしたの、おじさん!?」

「なんじゃ、急に!?」


 怒りが再燃して思わず叫んでしまい、栞奈と禰豆美を驚かせてしまった。


 いかんいかん。

 あれは過去のものとして、記憶から抹消してたんだった。


「すまん。なんでもない」


 俺は二人に謝った後、記憶の元凶となるかき氷を一気にかっ込む。


「ぐおっ……」


 すると今度は脳髄にキーンと来る。


「……さっきから何をやっとるんじゃ、お主は?」


 禰豆美がため息を吐きつつ呆れた声で言った。


 ……そうだな。

 なにやってんだ、俺は。


 なんてことをやっていると、栞奈が「あっ!」と声を上げた。


「おじさん、みんながいるよ」


 指差した屋台の方向を見ると、黒武者と真凛が目を見開き、口をぽかんと開けた状態で動きが止まっていた。

 そしてその横には茶子が不思議そうな顔をして首を傾げている。


「なにやってるんだ、あいつらは?」


 俺たちが駆け寄ると、茶子がこっちに気づいたようで手を振ってきた。


「なにしてんだ?」


 茶子に尋ねてみる。


「それが、お面屋の前を通ったときに、二人が突然、こうなっちゃって……」

「お面?」


 そこはお面の屋台だった。

 子供向けのキャラクターのお面や、懐かしい漫画のキャラクター、デフォルメされた動物のお面が並んでいる。


「あーーーー!」


 横にいる栞奈が黒武者たちと同じように、目を見開いて口を大きく開けた状態でフリーズした。

 そして、栞奈が指差した方向に俺は視線を向ける。


「ななななな、なんじゃ、こりゃーーー!」


 俺の声が祭り会場に響き渡ったのだった。




 祭り会場から外れた山道を歩く俺たち。

 盆踊りの太鼓の音や音楽が徐々に遠くになっていく。


「いやー、それにしても、まさかこれが売ってるとはねー」

「僕たちの活動も、大分広まったということでしょうか」


 お面を見ながら感心する栞奈に、得意げな顔をする真凛。


 そう。

 お面屋で見つけたのは、俺たち色レンジャーのお面だった。

 見つけたときは買う気にはなれず、その場から立ち去ろうとしたときに、屋台の親父に押し付けられるように渡された。


 売れそうにないからと。


 うるさいよ。

 これをお面にしようとする方が悪い。


 ……にしても、俺たち色レンジャーって名前だったんだよな。

 ほとんど名乗らなかったから忘れてたけど。


「活動と言っても、私たちほとんどこの辺じゃ変身してないわよ?」


 黒武者が頬に手を当てて、不思議そうな顔をしている。


 確かに、それは俺も思った。

 大体、色レンジャーとして活動していたのは海でのことだ。


 帰ってきてから俺は何回か変身したけど、ほとんど一瞬だった。

 それでお面が作られるほど有名になるとは思えないのだが……。


「海でのことは、少しだけSNSで話題になってたわよ」


 茶子がスマホの画面を操作し、話題になっていたときのツイートと写メを見せてくれた。

 それには言われた通り、変身した俺たちが映っている。


「ほう! 儂らは有名人、というわけじゃな!」


 肩車をしている禰豆美が嬉しそうな声を上げる。


 うーん。

 それはそれで、なんか嫌だな……。


「着いたわ、ここみたいね」


 そう言って黒武者が脇道へと入っていく。

 その黒武者について行くと、そこは開けた草原が広がっていた。


「うわー。こんな場所があったんだねー」

「他に誰もいませんし、本当に穴場みたいですね」


 栞奈と真凛がキャッキャとはしゃぎ始める。


 だが、俺は嫌な予感がし、ジワリと背中に汗を掻くのを感じた。


「……ねえ、正博。これって」


 どうやら黒武者も同じように感じたらしい。

 困惑した表情を浮かべている。


 ……なんか変だ。


 さっきまで登っていた山道とは、山とはあまりにも違う雰囲気の場所。

 じんわりとした暑さが、スーッと引いていく感じがする。


「どうしたの、おじさん、クロちゃん? そろそろ花火、始まるよ。座って見ようよ」


 俺たちがここに来た理由。

 それはお面屋の親父から、花火があることと、穴場の場所があると教えてもらったからだった。


 落ち着いて考えてみると、やっぱり変だ。

 花火をやるなんてことは他には誰も言ってなかったし、祭りのお知らせのチラシにも書いてなかった。


 それになぜ、お面屋の親父が俺たちに穴場なんてものを教えてくれたのか。


 俺たちは別にお面屋の常連ではないし、お面屋の親父と話したのだって、あっちがお面を渡してきてくれたときだけだ。


 そこで、俺はさらにあることに気づく。


 どうしてお面屋の親父は『俺たちが』色レンジャーだと知っていたのか?


 海での写メも変身後の俺たちの姿だけで、素顔は晒されていない。

 つまりは俺たちの顔は世間には広まっていないのだ。


 なのに、お面屋の親父は『俺たち』にお面を渡してきた。


 そして、その親父が、『ここが』穴場だと教えてくれたというわけだ。


「……黒武者」

「ええ。早々に立ち去った方がよさそうね」

「栞奈、真凛。こっちに来てくれ。戻るぞ」

「え?」


 栞奈と真凛が不思議そうな顔をしつつも、俺たちの方へとやってくる。

 みんなが一ヶ所に集まった瞬間。


「せっかく招待したんです。もう少しゆっくりされていってはいかがですか?」


 背後から、そんな声が聞こえてきたのだった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?