「ななななな、なんじゃ、こりゃーーー!」
俺の声が祭り会場に響き渡ったのだった。
祭りに来てから、大体2時間くらい経ったくらいだろうか。
射的で禰豆美がぬいぐるみを惨殺した後、ヨーヨー釣りに、型抜きを楽しむ。
そこで少し腹が減ったので、焼き鳥とかき氷を食べる。
かき氷はつい、この間の海でのことを思い出す。
モ十子の抱き枕を水着コンテストの賞品で貰ったっけな。
「……ふざけんなー!」
「うわっ! どうしたの、おじさん!?」
「なんじゃ、急に!?」
怒りが再燃して思わず叫んでしまい、栞奈と禰豆美を驚かせてしまった。
いかんいかん。
あれは過去のものとして、記憶から抹消してたんだった。
「すまん。なんでもない」
俺は二人に謝った後、記憶の元凶となるかき氷を一気にかっ込む。
「ぐおっ……」
すると今度は脳髄にキーンと来る。
「……さっきから何をやっとるんじゃ、お主は?」
禰豆美がため息を吐きつつ呆れた声で言った。
……そうだな。
なにやってんだ、俺は。
なんてことをやっていると、栞奈が「あっ!」と声を上げた。
「おじさん、みんながいるよ」
指差した屋台の方向を見ると、黒武者と真凛が目を見開き、口をぽかんと開けた状態で動きが止まっていた。
そしてその横には茶子が不思議そうな顔をして首を傾げている。
「なにやってるんだ、あいつらは?」
俺たちが駆け寄ると、茶子がこっちに気づいたようで手を振ってきた。
「なにしてんだ?」
茶子に尋ねてみる。
「それが、お面屋の前を通ったときに、二人が突然、こうなっちゃって……」
「お面?」
そこはお面の屋台だった。
子供向けのキャラクターのお面や、懐かしい漫画のキャラクター、デフォルメされた動物のお面が並んでいる。
「あーーーー!」
横にいる栞奈が黒武者たちと同じように、目を見開いて口を大きく開けた状態でフリーズした。
そして、栞奈が指差した方向に俺は視線を向ける。
「ななななな、なんじゃ、こりゃーーー!」
俺の声が祭り会場に響き渡ったのだった。
祭り会場から外れた山道を歩く俺たち。
盆踊りの太鼓の音や音楽が徐々に遠くになっていく。
「いやー、それにしても、まさかこれが売ってるとはねー」
「僕たちの活動も、大分広まったということでしょうか」
お面を見ながら感心する栞奈に、得意げな顔をする真凛。
そう。
お面屋で見つけたのは、俺たち色レンジャーのお面だった。
見つけたときは買う気にはなれず、その場から立ち去ろうとしたときに、屋台の親父に押し付けられるように渡された。
売れそうにないからと。
うるさいよ。
これをお面にしようとする方が悪い。
……にしても、俺たち色レンジャーって名前だったんだよな。
ほとんど名乗らなかったから忘れてたけど。
「活動と言っても、私たちほとんどこの辺じゃ変身してないわよ?」
黒武者が頬に手を当てて、不思議そうな顔をしている。
確かに、それは俺も思った。
大体、色レンジャーとして活動していたのは海でのことだ。
帰ってきてから俺は何回か変身したけど、ほとんど一瞬だった。
それでお面が作られるほど有名になるとは思えないのだが……。
「海でのことは、少しだけSNSで話題になってたわよ」
茶子がスマホの画面を操作し、話題になっていたときのツイートと写メを見せてくれた。
それには言われた通り、変身した俺たちが映っている。
「ほう! 儂らは有名人、というわけじゃな!」
肩車をしている禰豆美が嬉しそうな声を上げる。
うーん。
それはそれで、なんか嫌だな……。
「着いたわ、ここみたいね」
そう言って黒武者が脇道へと入っていく。
その黒武者について行くと、そこは開けた草原が広がっていた。
「うわー。こんな場所があったんだねー」
「他に誰もいませんし、本当に穴場みたいですね」
栞奈と真凛がキャッキャとはしゃぎ始める。
だが、俺は嫌な予感がし、ジワリと背中に汗を掻くのを感じた。
「……ねえ、正博。これって」
どうやら黒武者も同じように感じたらしい。
困惑した表情を浮かべている。
……なんか変だ。
さっきまで登っていた山道とは、山とはあまりにも違う雰囲気の場所。
じんわりとした暑さが、スーッと引いていく感じがする。
「どうしたの、おじさん、クロちゃん? そろそろ花火、始まるよ。座って見ようよ」
俺たちがここに来た理由。
それはお面屋の親父から、花火があることと、穴場の場所があると教えてもらったからだった。
落ち着いて考えてみると、やっぱり変だ。
花火をやるなんてことは他には誰も言ってなかったし、祭りのお知らせのチラシにも書いてなかった。
それになぜ、お面屋の親父が俺たちに穴場なんてものを教えてくれたのか。
俺たちは別にお面屋の常連ではないし、お面屋の親父と話したのだって、あっちがお面を渡してきてくれたときだけだ。
そこで、俺はさらにあることに気づく。
どうしてお面屋の親父は『俺たちが』色レンジャーだと知っていたのか?
海での写メも変身後の俺たちの姿だけで、素顔は晒されていない。
つまりは俺たちの顔は世間には広まっていないのだ。
なのに、お面屋の親父は『俺たち』にお面を渡してきた。
そして、その親父が、『ここが』穴場だと教えてくれたというわけだ。
「……黒武者」
「ええ。早々に立ち去った方がよさそうね」
「栞奈、真凛。こっちに来てくれ。戻るぞ」
「え?」
栞奈と真凛が不思議そうな顔をしつつも、俺たちの方へとやってくる。
みんなが一ヶ所に集まった瞬間。
「せっかく招待したんです。もう少しゆっくりされていってはいかがですか?」
背後から、そんな声が聞こえてきたのだった。