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第87話 四天王の再来

 フードコーナーに響き渡る女の声。

 振り向くと、そこにいたのはダークエルフだった。


 ダークエルフは眉間に皺を寄せながら、ツカツカと歩み寄ってくる。

 そして、俺の前に立ち、胸に指を指してきた。


「ホント、いい加減にしてくれないかしら?」

「な、なにがだ?」

「とぼけないで!」


 ギロリと睨まれて、俺は思わずたじろいでしまう。


「召喚した私の手下の件に決まってるでしょ!」

「あ、ああ……。ケルベロスのことか?」

「それだけじゃないわ! サハギン、コカトリス、スライム、ガーゴイル、マンドラゴラ、ミミックもよ!」


 あ、やっぱり、あれ、スライムだったんだ。

 ゼリーで服が溶けるっておかしいもんな。


「あんたたち、まともに戦ってないじゃない! 切り札のケルベロスも手懐けちゃうし!」

「いや、まあ……」

「大体、ちゃんと戦ったのなんて、サハギンくらいじゃないの!? 戦ったの、見てないけど」


 ああ、すまない……。

 サハギンは勝手に干からびて昇天しちゃってたんだよ。

 俺たちが発見したときには既に。

 だから、実際は戦ってないんだよね。


「ホント、いい加減にしてほしいわ! 今度からはちゃんと戦うこと! いい!?」

「え?」

「返事は!?」

「わ、わかった……」


 ていうかさー。

 それ、俺のせいか?

 ケルベロスは置いておいて、大体は召喚モンスターの選択ミスじゃね?


「ったく! 呼び出すネタを考えるこっちの身にもなってよね!」


 そこにスススーっと茶子が忍び寄る。


「ねえねえ、ゴブリンとかいいんじゃない?」


 ……いや、それ、お前が希望してるだけだろ。


「魔方陣1枚に対して、呼び出せるモンスターは1体って縛りがあるのよ。ゴブリン1体だけだと弱いし、かといってたくさん魔方陣を作るのは大変でしょ。費用対効果が悪いじゃない」


 まさか、ダークエルフから費用対効果なんて言葉が出てくるとは思わなかった。

 意外と俗っぽい言葉を知ってるんだな。


「じゃあ、クラーケンとかイカロスとかは?」

「それ、海の中のモンスターじゃない。地上に召喚したらすぐ死んじゃうわよ」


 ……わかってるなら、なんでサハギンを呼んだ?


「あ、なら、植物系のモンスターはどう? ツタがあるやつ」


 茶子。

 お前、さっきから触手があるモンスターを挙げてるだろ。


「植物系ね……。最近育ててないのよ。植物系はこの前のマンドラゴラが最後だったの」

「んー。とにかく、性欲が強いモンスターがいいんだけど」

「性欲が強い?」


 ダークエルフが首を傾げて俺を見てくる。


「……そっち系?」

「違うわ!」


 だから、なんで俺を襲わせようとするんだよ!

 誰得だよ!


「まあ、いいわ。とにかく、どんなモンスターがいいか、じっくり考えておくから、楽しみにしておきなさい。今度はすっごいの呼んで、あ、げ、る」


 ダークエルフが、ふふっと笑い、右手を振って立ち去ろうとした時だった。


 これまたいつの間にか接近していた禰豆美がガシッとダークエルフの左手を掴む。


「な、なによ? 今日は帰ってお風呂入るんだから、放しなさい」

「敵地にむざむざ将が乗り込むのはどうかと思うがのう」

「え? ……あっ!」


 こうしてダークエルフは俺たちにクレームを付けにやって来て、あっさりとお縄になったのだった。




 三階の浴衣コーナー。


「あ、これ可愛い―!」

「栞奈さんはこういう花柄の大人っぽいのも、ギャップが出ていいと思いますよ」

「栞奈ちゃんはこっちの生地が薄いやつのもいいと思うけど」

「……相手が脱がしやすいってなると、こっちかこっち……かなぁ」


 各々が浴衣を見ながらワイワイと盛り上がっているようだ。


 ダークエルフは後ろ手にロープで縛られ、俺の横に立っている。

 そして、逆サイドにはダークエルフが逃げないように禰豆美が立つ。


「……ふん。これで勝ったと思わないで欲しいわね」


 口を尖らせてハーフエルフが言う。


 捕まっている時点で、どう見てもハーフエルフの負けだと思うんだが。

 そういうのは負け惜しみって言うんだぞ。


「正博は浴衣を選ばんのか?」

「無視されたっ!?」

「ああ、俺は適当なのでいいよ。お前こそ、選んで来たらどうだ?」

「……もういいわ」


 がっくりと項垂れるダークエルフ。


「正直、どういうのがいいのか、わからん」

「なら、栞奈たちに選んでもらえよ。可愛いやつがいいんじゃないか?」

「ふむ。そうかのう」


 なんて話をしていたら、栞奈たちがこっちにやってきた。


「ねえねえ、ねずっちとダッチも一緒に選ぼうよ」

「うむ。今、正博とその話をしてたんじゃよ」

「ちょっと待ちなさい! なによ、ダッチって!」


 ダークエルフの抗議に首を傾げる栞奈。


「え? ダッチエルフのダッチだけど」

「ダークエルフよっ!」


 ……ダッチエルフって。

 なんか大人のエロいグッズみたいな響きだな。


「まあまあ、細かいことは置いておいてさ。私がいいやつ選んであげるよ」

「こ、細かいことって……大事なところよ! って、ちょ、ちょっと放しなさい!」


 ダークエルフの腕と、禰豆美の手を引いて更衣室の方へ向かっていく栞奈。


「ダークエルフさんはプロポーションがいいですからね。こういうのがいいと思います」

「よし、じゃあ、試着してみよー」


 ダークエルフと一緒に栞奈と真凛が更衣室に入っていく。


「ちょ、待って! 脱がさないで! あんっ!」


 更衣室の中からダークエルフの声がする。


「変なところ触らないで! ちょ、んっ! ダメ……ああっ!」


 …………。


「さてと。俺も自分のを選ぶか」


 その場から逃げるように、俺は男性用の浴衣のコーナーへ向かったのだった。

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