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第86話 ガチバトルと結着

 ケルベロスは禰豆美と対峙するとニヤリと嬉しそうに笑った。


「じゃあ、いくぜ!」


 2人が地面を蹴ったのはほぼ同時だった、と思う。


 バチバチの肉弾戦。

 というより、決められた殺陣を見ているような感じだった。


 お互い攻撃が当たらない。


 禰豆美が振り回すパンチも当たらないし、ケルベロスのパンチとキックも当たらない。

 そして、俺たちはそれを呆然と見ることしかできない。

 目で追うので精一杯というより、手や足なんかは速すぎて見えない。


 拮抗したバトル。


 これは正直、想定外だった。

 まさか、禰豆美が苦戦するなんて。

 なんだかんだ言って、元魔王である禰豆美はこちらのジョーカー、つまりは最強だと思っていた。

 今回も秒殺してくれると期待していた。

 そんなのは勝手な話なんだが。


 などと考えていると。


「む?」


 ついにケルベロスの蹴りが禰豆美の腹にヒットした。

 そのことで、禰豆美は後方に吹っ飛ぶ。


 禰豆美は空中で器用に回り、スタッと着地する。


 そこを見逃すケルベロスではなく、一気に距離を詰めて再び連打を禰豆美に対して繰り広げる。

 禰豆美も応戦するが、やはり攻撃が当たらない。

 逆に、数発、ケルベロスの攻撃を被弾するほどだ。


 ヤバい。

 完全に押されている。


 ケルベロスからの被弾が増えていく。


「むむ?」


 その状態にイラついたのか、禰豆美の攻撃がドンドンと大振りになる。

 もちろん、そんな雑な攻撃がケルベロスに当たることはなく、避けられ、カウンター気味にケルベロスの攻撃が禰豆美にヒットしていく。


「禰豆美、落ち着け!」


 俺が叫ぶと、ケルベロスは突然、後ろに大きく飛び、禰豆美から距離を取った。


「ふむ……。やはり、この体は肉弾戦には合わん。というより力タイプの儂と合わんな」


 ブンブンとその場で拳を振り回す禰豆美。

 俺はケルベロスの様子を伺いながら、禰豆美のところへ駆け寄る。


「禰豆美、大丈夫なのか?」

「ん? ああ、ダメージはないぞ。あの程度の攻撃力ならな」


 さすが元魔王と言ったところだろうか。

 防御力はかなり高いようだ。


「じゃが、攻撃が当たらないのは若干、イラつくのう」

「頭に血が上ってると、当たるもんも当たらんぞ」

「ふむ。わかってはおるんじゃが」

「……で、どうする?」


 この俺の「どうする?」は、「逃げるか?」という意味だった。

 だが、禰豆美は違う意味で受け取ったようだ。


「相変わらず、お主は優しいのう」

「え?」

「一方的に喧嘩を売ってきた相手に、情けをかけるなんてな」

「ど、どういうことだ?」


 俺の質問に答えず、禰豆美はケルベロスに声をかける。


「どうする? 今、退くなら、儂は追わんぞ?」


 いやいや。

 それはどうなんだ、禰豆美。

 完璧、圧勝してる側のセリフだぞ。

 そんなの受け入れるわけ……。


 そう思ってケルベロスを見る。

 すると、ケルベロスは汗がびっしょりで肩で息をしていた。


「ちっ!」


 悔しそうに歯ぎしりしている。


「お、おい、禰豆美、どういうことだ? なんで、ケルベロスの方が疲弊してる?」

「ん? さっきのお主のどうする? は見逃してやるかって意味じゃなかったのか?」

「いや……違うけど」

「ふむ。お主ならわかってるかと思ったんじゃがな」

「どういうことだよ?」

「構図的には、儂は変身したお主と同じということじゃよ」


 ……何を言ってるんだ?


 そう思いながら考えてみる。

 するとすぐに正解へと行き着く。


 俺が変身している状態と同じ。

 つまり防御と攻撃がチート級というわけだ。

 だが、スピードは遅い、というより変わらない。

 そのせいで、チート級の攻撃力を持っていても当たらないこともある。

 まあ、俺の場合のスピード面は体をうまく使えてないからだけど。


 そう考えると、まさに今の禰豆美はそんな状態だということだ。


 禰豆美には全くダメージはない。

 だが、ケルベロスの方は一発でももらえば終わる。


 傍から見れば、ケルベロスが有利に見えるが、実際は、ケルベロスは詰んでいる状態だ。

 ケルベロスの状態を見れば、体力が尽きて、禰豆美の一撃をくらうのは時間の問題だということがわかる。


「……お前、凄いんだな」

「カッカッカ! まあ、元、魔王じゃからのう」


 ケルベロスがこっちを睨んでいる。

 だが、その表情はさっきと違って余裕がなさそうだ。


「まさか、あたしが、歯が立たないなんてな」

「勝負は見えておる。これ以上、続ける意味はなかろう?」

「……そうだな。けど、諦めるわけにはいかないんだ!」

「なぜじゃ?」

「お前らを倒して、ソップをもらうんだ!」

「……ソップ?」


 俺が禰豆美を見ると、禰豆美は「えーとじゃな」と言いながら、顎に手を当てる。


「確か、甘いお菓子だったと思うぞ」

「食べ物だったのか。じゃあ、俺たちを倒した報酬が甘いお菓子ってことなんだな?」

「そうだ」


 俺がケルベロスに聞くと、コクリと頷いた。


「じゃあさ、手を引いてくれたら、俺が甘いお菓子を奢ってやるぞ」

「……へ?」




 デパートのお菓子コーナーでケーキやクッキー、和菓子を買う。

そして、フードコートのところでケルベロスと一緒に食べる。


「うめーーー!」


 目を輝かせてケーキをガツガツと食べていくケルベロス。


「甘さ、控えめなのがいいですね」

「私はもう少し甘い方がいいかなー」

「栞奈ちゃんにクリーム塗って舐めたい」

「自分にクリーム塗って、舐められたい」

「納豆と一緒に食べたいのう」


 テーブルを囲んで、女性陣もワイワイと盛り上がりながらケーキを食べている。


 ……3人ほど、変なことを言ってるけど、聞かなかったことにしよう。


「どうだ? 満足したか?」

「ああ! お前、良い奴だな」


 ニッコリと人懐っこい顔で笑うケルベロス。

 こう見ると、犬のような感じで普通の女の子に見えるんだがな。


「もし、困ったことがあったら言ってくれ。すぐに駆け付けるからよ」


 そう言って、ケルベロスは行ってしまった。


 いや、どうやって連絡取るんだよ。


 なんて心で突っ込みを入れるが、別に呼ぶことはないだろう。


「さてと。ちょっと時間くっちまったが、三階の浴衣コーナーに行くか」


 俺が女性陣に向かってそう言った瞬間だった。


「ちょっと! そんなの反則よ!」


 そんな声がフードコーナー内に響いたのだった。

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