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第84話 同居の条件

「よし、決めた! 私もここに住もうっと」


 突然、茶子が爆弾発言をしてくる。


 茶子はなんだかんだ言って未成年だ。

 俺としてはこれ以上問題になりそうなことは避けたい。


 既に見つかれば逮捕不可避な状況のような気がするが、だからと言ってリスクを受け入れるというのは違う。


「ちょっと待て! 勝手に決めるな!」

「家賃は体で払うわ」

「それ以前の話だ!」


 なぜ住む前提で話を進めようとするのか。

 ここはホテルでもシェアハウスでもない。


 ……実質的にはシェアハウスになっているけど。


「なによ? こんだけ女の子を囲ってるくせに。1人くらい増えたっていいじゃない」

「ダメだ。その考えのせいで、いつの間にかこうなったんだからな。これからは厳しくいかせてもらう」

「むむむ……」


 口を尖らせる茶子。


 若干可哀そうな気がしてくるが、俺のその場限りの雰囲気に流されるわけにはいかない。

 大体、茶子にはスタンガンで襲われ、監禁されたばかりだぞ。

 本当はすぐにつまみ出してもいいくらいだ。


 ここは踏ん張りどころで、心を鬼にするべきところ。

 絶対に退くことは許されない。


「んー……」


 茶子も茶子で、ここで引き下がったら終わりだと思っているようで、何か起死回生の一手がないかを考えているようだ。

 しきりに視線を動かし、部屋内を観察している。


 そして。


「あっ!」


 茶子が声を上げたかと思うと、眼鏡を光らせてニヤリ笑みを浮かべた。

 何かを見つけた。

 そんな感じだ。


 俺は直感的になにか嫌な予感というより、敗北の兆しを何となく感じる。


 なんだがわからんが、ヤバい。

 すぐさま茶子をこの部屋から追い出さなくては。


 そう思って、まずは部屋から出ようと言おうとしたときだった。


「私の勝ちよ」


 茶子が高らかに宣言する。


「……何の話だ?」

「もちろん、ここに住むって話よ」

「拒否したはずだぞ」

「ふふん。私の話を聞けば、パパの方からここにいてくださいと言うはずよ」

「はは……。バカな。んなわけねーだろ」


 ドンドンと嫌な予感が膨らんでいく。

 じんわりと背中に嫌な汗が浮かび上がる。


「紙とシャープペン、あるかしら?」


 なんだ? 何をする気だ?

 まさか、魔方陣でも書いて何かを召喚するつもりか?


 いや、それはないな。

 たとえ、茶子が自分自身で魔方陣が書けたとしても、そこに魔力を込められなければ意味がないはずだ。


「ちょっと待ってろ」


 俺は立ち上がって、机から紙とシャープペンを取って、茶子に渡す。


「ふふ。どーも」


 勝ち誇ったような顔をして、茶子は受け取った紙を床に置き、シャープペンで何やら描き始めた。

 何を描いているのかがわからないように、こっちにお尻を向けて紙が見えないようにしている。


 そして、数分後。


「できたわ!」


 茶子が描いたものを俺にビシッと見せてきた。


「こ、これは……」

「どうかしら?」

「う、うう……。そんな馬鹿な」

「少しは考えてくれるかしら?」

「くっ……。わ、わかった」

「え? もう一回言ってないかしら?」

「わかったよ」

「何がわかったのかしら?」

「……ここに住んでください」


 俺は無意識に土下座をしていた。


 茶子が描いたもの。

 それは俺の嫁である――モナ子だった。




「私、同人作家なのよねー。しかも、割と有名な」


 キラリと眼鏡を光らせて、手を腰に当てている茶子。


 その姿のなんて神々しいことか。


 俺は茶子から嫁を受け取り、ジッと愛でる。


 ゲロ上手だ。

 この肉質感はなかなかだせない。

 アニメの絵とは違い、イラストならではの良さが引き立っている。


 くぅ……。

 エロイ。エロ過ぎる!

 こんなモナ子を生み出せる、茶子はまさにゴッド。

 神の右腕といってもいいだろう。


「じゃあ、三食昼寝付きで住ませてもらうわよ」

「ははー!」


 思わずひれ伏してしまう。

 この瞬間、俺と茶子の立場が確定してしまった気がする。


「言っとくけど、もし、私に逆らったら、モナ子をゴブリンに凌辱させるから」


 そ、それはそれで見たい!

 いや、だがしかし!

 そこに堕ちてしまったら、俺はもう二度と這い上がれない気がする。

 モナ子は嫁だと胸を張って言えなくなる。


「わ、わかった……」


 こうして俺はあっさりと陥落し、茶子を家に住まわせることになったのだった。





「……ということで、今日からうちに住むことになった、魚沼茶子先生だ」


 とりあえず、全員を集めて茶子を紹介する。


 考えてみれば俺の独断で決めてしまった。

 みんなの猛反発を食らうだろうか?


 なんて考えていると。


「よろしくね、チャッキー!」


 栞奈が茶子の手を掴んでブンブンと振っている。


 それにしても、また、尖ったあだ名を付けるな。

 確かにナイフとか持って襲ってきそうではあるけど。


「よろしくお願いします、茶子さん」

「魚沼ちゃん。話は聞いてるわ。ドMのド変態らしいわね」

「えへへ。照れますね」

「よくわからんが、よろしくじゃ、茶子よ」


 意外と、みんな好意的に受け入れている。

 なんつーか、順応力が高いな、こいつらは。


 いや、ニートの俺が低いだけか?


 とにかく、あんなド変態を受け入れるなんて、懐が広いという他ない。


「あ、そうだ。真凛さん、これ」

「え? なんですか?」

「一ヶ月分の私の食費と光熱費とかもろもろ」

「え? そんな、受け取れませんよ」

「いいのいいの。同人で儲けてるし、使うことなかったからさ」

「えっと……」


 真凛がチラリと俺の方を見る。

 きっと、受け取っていいものかどうかの判断に困っているのだろう。


「茶子。今は別にみんなから金は貰ってない。お前だけから貰うわけにはいかんだろ」

「んー。けど、食べ物だってタダじゃないわよね? その辺、どうしてるのかしら?」

「あー、えっと、みんなで稼いでるって感じかな」

「じゃあ、それを免除してもらうわ。その代わりのお金ってことで」

「……」


 なるほど。

 つまり、ヒーロー活動には加わらないということか。

 逆に言うと、茶子は茶子で、自分らしく稼ぐと言ったところだろう。


「わかった。ありがたく受け取らせてもらう。けど、無理はするなよ。払える範囲でいいからな」

「ふふん。心配ご無用よ。こう見えても、意外と稼いでるんだから!」


 そう言って、ビッと親指を立てる茶子であった。


 それにしても、一番変態だと思っていた茶子が、一番しっかりしているとは思いもしなかったな。

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