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第83話 新たな同居者

 俺のチョップが茶子の頭にクリーンヒットする。


「きゃあああああ!」


 頭を抑えながら崩れ落ちる茶子。


 ふう。

 危なかったぜ。


 俺は汗を拭いつつ、何かあったら逃げられるように、回り込んで倉庫のドア側を確保する。

 そして、茶子から一定の距離を保つ。


「ちょっと! 騙したわね!」


 茶子が立ち上がり、ギラリとメガネを光らせる。


「お互い様だろ!」


 そもそも不意打ちして、ここに連れ込んだのは茶子の方だ。

 隙を突くくらいしても罰は当たらないだろう。


「とにかく、帰らせてもらうぞ」


 俺はそう言って茶子に背を向けた時だった。


「隙ありーー!」


 茶子はポケットからスタンガンを出して襲い掛かってくる。


 やっぱりか!


 俺はすぐに振り返り、スタンガンに備える。


 が。


「あっ!」


 茶子は足を縺れさせて、勝手にその間で転んでしまう。


 バチチチチチッ!


「あばばばばばばばばばばば!」


 転んだ拍子に自分にスタンガンを当ててしまった茶子。


「む、無念……」


 ガクリと気絶してしまったのだった。


 ……なにやってんだ、こいつは?




「うふふふふ。もっとよ。もっと乱暴に……」


 さすがにあの場に放置しておくのはマズかったので、俺は茶子を背負って家へと戻ってきた。

 今、茶子は俺の部屋で寝かせている。


 幸せそうな顔をして寝ていた茶子だったが、次第に表情を曇らせていく。

 なにやら苦しそうに寝言を吐き始めた。


「……ダメよ。それじゃダメ。和姦になっちゃう……」


 なんつー夢を見てるんだ、こいつは?


「ダメだってば―!」


 ガバっと起き上がる茶子。

 額から汗をにじませ、肩で大きく息をしている。


「え? あ、よかった……。夢か。久しぶりに悪夢を見たわ」


 どんな夢だったのか、少しだけ興味があるが、知ったら絶対に後悔しそうな気がする。


「む? 起きたようじゃな」


 ちょうどその時、禰豆美がお盆に飲み物をのせて部屋に入ってきた。


「あれ? ここは?」


 そこでようやく茶子は周りをキョロキョロし始めた。


「俺の部屋だよ」

「ちょ、ちょっと! JKを家に連れ込んで、一体、何をする気なの!?」

「……期待を込めた目で、こっちを見るな」

「喉が渇いたじゃろ。ほれ」


 禰豆美が俺と茶子に飲み物を渡してくれる。


「あ、ありがとう」


 茶子は喉が渇いていたようで、飲み物を受け取ると一気に飲み干してしまった。


 俺も禰豆美から受け取り、一口飲む。


「ふう。生き返ったわ……」


 満足そうに一息つく茶子。


「体に痺れとかないか?」

「へ? ……あー。そっか」


 どうやらここまでの経緯を思い出し、茶子は手をフリフリと動かし始める。


「うん。大丈夫みたい」

「ならいいけど。スタンガンは念のため、帰るときまで預かっておくからな」

「それはいいんだけど……」


 茶子が改めて、俺の部屋を見渡す。


「なんか、妙に広い部屋ね」

「ああー、まあ、ちょっと経緯があってな」


 禰豆美が元々あった俺の部屋と母親の部屋の壁を取っ払ってしまったのだ。

 なので、パッと見たときに、変な違和感がするのはそういうだろう。

 元々1つの部屋として作られていないから、バランスが悪い部屋に感じる。


「……ここって、ヤリ部屋?」


 部屋の端に積み重ねられている布団を見て問いかけてくる茶子。


「俺の部屋だって言ってんだろーが」

「自分の部屋をヤリ部屋にするなんてぶっ飛んでるわね」

「お前の頭の中ほどじゃねーよ」


 そんなやり取りをしていると、禰豆美が俺の横に座り、すっと俺が持っていた飲み物を取る。

 そして、そのままゴクゴクと飲み始める。


 あ……。俺の。

 自分も飲むなら、自分の分も持ってこいよ……。


「そんな小さい子まで……」


 はあはあと興奮した顔でジッと禰豆美と俺を見てくる茶子。


 なんつーか、このまま話してても平行線だな。

 強引に話題を切り替えるか。


「念のために聞いておくけど、あれから召喚はしてないよな?」

「え? あー、うん。もちろん。約束したからね。いいのなかったし」

「その口ぶりじゃと、あれから魔方陣を拾ったということか?」


 禰豆美が会話に入ってくる。


「うん。浜辺に結構、落ちてたよ。大体、回収できたと思う」

「ふむ……」

「ちょっと待て。浜辺にもまだ魔方陣が落ちてるかもしれないってことか? 回収しねーと」

「だから、回収したってば」

「いや、新しいのが落ちてくるかもしれないだろ?」

「それはないわね」

「どうしてわかるんだ?」

「たぶんだけど、ある日を境に、魔方陣が落ちてくるのがピタリと止んだからよ」

「ある日って、いつだ?」

「えっとね、水着コンテストの前の日、かな」


 ということはサキュバスと戦った日から、魔方陣が落ちてこなくなったということか。


 ……どういうことだ?


「おそらく、無差別だったところを、ターゲットを絞ったということじゃろうな」

「ターゲットを絞るって……もしかして俺たちか?」

「それしか考えられんじゃろ」

「え? なになに? やっぱり、パパたちのところに新しい魔方陣が落ちてくるの?」


 今度は茶子が俺たちの会話に食いついてくるという構図になる。


「ああ。いや、まあ、な」

「ふーん……。そりゃそっか。サハギンにデュラハンにダークエルフだもんね」


 プラスして、スライムにコカトリスにガーゴイルもあるけどな。


「正確に言うと、サハギンは召喚された者じゃが、デュラハンとダークエルフは違うぞ」

「……どういうことだ?」

「デュラハンとダークエルフは、転生者じゃな」

「ああ。なるほど……」


 そっか。

 ってなると、『あっちの世界に戻す』ことができないってというわけか。

 強制送還ができれば、一番楽だったんだけどな。


 そんな俺と禰豆美の会話を聞いて、茶子がニコリと、何かを企んでいるような笑顔を浮かべた。


「よし、決めた! 私もここに住もうっと」


 ここは俺の家なのに、俺に許可なく勝手に決められてしまったのだった。

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