魚沼茶子。
海で出会った、女子高生の眼鏡の変態だ。
召喚したオークに自分を襲わせようとしていたところを、俺たちがオークを助けてあげたことで、茶子の野望を阻止した。
そのことで逆恨みをされ、粘着されていたのだ。
水着コンテストにも乱入してきて、盛大に自爆していった。
そんな茶子がなぜ、俺を襲うんだ?
……まあ、逆恨みだよな。
「やってくれたわね」
茶子は海にいた時とは違い、学校の制服を着ていた。
栞奈とは違い、セーラー服ではなくおそらくブレザータイプの制服だ。
半袖のワイシャツにチェック柄のスカートという格好で、これが夏服なんだろう。
「やってくれたって、何の話だ?」
今、俺は椅子に座らされた状態で、上半身をロープで縛られている。
絶対的に不利な状況だ。
相手を興奮させないように注意しながら隙を伺う。
「なに、勝手に帰ってるのよ!」
「……え?」
帰るという表現をしたということは、海から自分の家に帰った話をしているのだろう。
「おかげで、2日間も浜辺をウロウロする羽目になったんだから!」
「……ああー、えっと……すまん」
正直、俺たちが帰ることをわざわざ茶子に知らせる義務はない。
それにそもそも茶子に連絡する手段がなかったから、もし知らせるにしても、俺たちの方が、今度は茶子を探して浜辺を捜索し続けなくてはならない。
ぶっちゃけ面倒だし、なにより、できればもう遭遇したくなかったのだ。
「大変だったわよ。パパを探し当てるの」
パパ?
……ああ、そういえば、そんなふうに俺を呼んでたな。
事案にしか見えないからやめてほしいんだけど。
「なんでバレた……いや、どうやって探し当てたんだ?」
茶子には、俺たちがどの辺に住んでるかなんて教えていない。
もちろん、海にいるときも、その辺りを誰かに話した記憶もない。
それなら、どうして、ピンポイントでこの辺りを探し出せたんだろうか?
「これよ」
茶子はポケットからスマホを取り出し、操作している。
そして、その画面をこっちに向けてきた。
そこに写っていたのは、SNSの画面だ。
「……これがどうした?」
この手のSNSは俺はやっていない。
たぶん、栞奈もだ。
となると黒武者か真凛あたりかがやっていて、そっから身バレしたのか?
帰ったら、注意しとかんとな。
安易に身バレするようなことをしないようにって。
「この投稿を見てちょうだい」
茶子はある投稿をタップして、画面いっぱいに表示させる。
その投稿はある写真付きのものだった。
そして、その投稿には、サハギンがデカデカと載っていた。
さらにデュラハンとダークエルフも。
……あ、そっちか。
あれだ。
偶然、居合わせた女の子たちだな。
めちゃめちゃ写メ撮ってたもんな。
「け、けど、それと俺たちが関係あるってなんでわかったんだ?」
「異世界の生物を召喚するなんて、パパたち以外にそうそういると思う?」
「うっ!」
言われてみればその通りだ。
あのとき、女の子たちには作り物だの、コスプレだのと言って誤魔化してした。
だが、茶子がみれば、それは召喚されたものだとピンと来るだろう。
なにより、茶子はオークとスケルトンを実際にその目で見ているのだから。
「けど、まあ、そんなのは後付けだけどね」
「……どういうことだ?」
俺がそう尋ねると、再び茶子がスマホの画面を操作し、違う写真を表示させた。
「……あっ」
写っていた。
ばっちりと。
俺が。
普通に身バレしたのは、俺のせいでした。
疑ってすまんかった、真凛、黒武者。
今の時代、自分が映り込んでいる可能性も心配しないといけないのか。
いやな時代だぜ。
「ここまでくれば、特定は簡単だったわ。この子たち、普段から結構、写メあげてるしね」
「くっ……」
女の子たちの居場所から特定して、この町を探し当てたということだろう。
あの場所も写真にあったから、探し当てるのも不可能じゃない。
きっと、そこに俺がノコノコと現れてというところか。
「……じゃあ、そろそろ、本題に入ろうかしら」
茶子の眼鏡が怪しく光る。
「私は色々話したんだから、今度はパパに質問に答えてもらうわよ」
「な、なにが聞きたいんだ?」
「新しい、魔方陣を持ってたりするかしら?」
茶子の話では、召喚の知識があるようで、魔力がこめられている魔方陣があれば召喚することは可能ということらしい。
つまりは新しく魔方陣を持っていれば、奪い取って異世界の生物を召喚しようということだろう。
だが、俺は首を横に振る。
一応、数枚は魔方陣が書かれた紙を持っている。
持ってはいるが、既に召喚済みで魔力は残っていないもののはずだ。
「……そう。まあ、それは期待してなかったわ」
意外と簡単に引き下がる茶子。
「それなら、パパ自身に責任を取ってもらうしかないわね」
「責任ってなんだよ?」
「私を放置した責任。そういうプレイだと考えたら、ちょっと興奮するけど、私を無視して帰った罪は重いわ」
完全に言いがかりレベルだ。
そんなので責任とか言われるなんて冗談じゃない。
「勝手に言ってろ。俺はそんな責任、取るつもりはない」
「……自分の立場がわかってないようね」
再び茶子の眼鏡が怪しく光り、俺の方に歩み寄ってくる。
そして、ガッと俺の両肩を手でつかんだと思った瞬間だった。
いきなり茶子がキスしてきた。
しかも舌を入れるディープなやつだ。
俺が抵抗をすると、茶子がすっと顔を離す。
茶子はペロリと上唇を舐めた後、目を見開いてジッと俺を見下ろしてくる。
「犯すわよ?」
一気に背筋が寒くなる。
ヤバい、本気だ。
俺は今、ロープで縛られている状態。
抵抗なんてできるはずもない。
「わ、わかった。言う通りにする」
「ふふふ。それでいいのよ」
すると茶子は床に仰向けになった。
「さあ、私を犯すのよ!」
「……」
「ちょっと! どうしたのよ! 早くしなさい! 犯されたいの!?」
「あー、いや、縛られてるからできない」
「あ、そっか。ごめんなさい」
起き上がった茶子は俺のロープを外した後、ニヤリと笑った。
「さあ、今度こそ、私を犯すのよ」
「するか、アホ―!」
自由になった俺は、茶子の頭に思い切りチョップを繰り出したのだった。