とりあえず、ガーゴイルには魔よけになってもらうということで話がまとまる。
念のため、禰豆美と使役関係を結んでもらうと、ガーゴイルは欠伸をした。
「ほな、楽にさせてもらいますわ」
そう言うとゴロンと家の前で寝転がる。
うーん。
君、ホントに魔を除ける気ある?
とはいえ、いざってときの手が増えるのは助かる。
いくら元魔王だからと言って、禰豆美1人で3人を守るのはきついだろう。
あんまり、禰豆美に頼って負担をかけたくもないし。
そう考えると、俺のチートスーツの仕様がどうしようもなく残念なのが腹立たしい。
自動発動ってなんだよ。
まあ、百歩譲って自動発動なのはいい。
だけど、任意で変身できるようにしてほしかった。
ピンチになったとき、下手をすれば足手まといになる可能性が高いのは、なんていうか歯痒い。
前に栞奈が「自分が戦えないのが悔しい」と言った気持ちが痛いほどわかる。
「じゃあ、今度こそ行ってくる」
考えてみれば、俺は昼のパトロールという名の、営業に行く途中だったのだ。
そろそろ、稼いでおきたいところである。
「1人で大丈夫か?」
「はは。子供じゃないんだし、平気だって」
子供のような見た目の禰豆美に心配されるというのも、なんともチグハグ感がする。
まあ、実年齢を考えれば、禰豆美から見れば、俺なんて赤子以下なんだろうけど。
「気を付けるんじゃぞ」
「ああ」
まるで初めてのお使いに行く子供を見送る母親のような構図だ。
なんか気恥ずかしくなって、俺は足早に家から離れるように歩く。
もうすぐ9月だが、まだまだ日差しは強い。
今日、変身するとしたら、脱水症状とか熱中症とかそんなところだろうか。
とはいえ、ここ2,3日は変なことばかり起きている。
昨日までは四天王とやらが、ちょっかいをかけてきたのだろうが、今日もそれが続いているのだ。
……あれ?
ちょっと待てよ?
俺は頭の中で整理をする。
海にいたときから、ちょいちょいファンタジックなモンスターに遭遇していた。
それは魔方陣による召喚で、しかもその犯人だと思っていたサキュバスの仕業ではなかった。
そのことは、海から帰ってきてからも続いていることでわかる。
サキュバスは俺と使役関係を結んでいるので、害を及ぼすことはできないのだ。
まず、こっちに戻ってきてからサハギンに遭遇した。
遭遇したというより、勝手に死体になっていた。
その後、自称四天王が現れて、その中の1人であるデュラハンを撃退した。
その際、もう1人の四天王のダークエルフは禰豆美の強さを目の当たりにして逃げていった。
だから、俺は、ダークエルフはもう来ないものだと思っていた。
だが、家に戻ればコカトリスがいて、家の前にはガーゴイルがいる。
……考えてみれば、昨日のゼリーみたいなやつ、スライムだったんじゃないのか?
ということは、だ。
……俺、まだ狙われてるんじゃないのか?
そんな疑惑が頭を過ぎる。
いや、疑惑というか完全に狙われている。
しかも、立て続けに間髪入れずに召喚でモンスターを呼ばれて、消しかけられている。
まあ、どれもけしかけられたというよりは、雑に放たれたと言った方がいいかもしれないが。
ということは、だ。
今も狙われる可能性が高いんじゃないのか?
禰豆美が気を付けろと言って、心配していたのはこういうことだったのか。
さっきまでクソ暑いと思っていたのが嘘のように血の気が引いていく。
俺は「たぶん襲ってこないだろう」と思っていたのだが、「たぶん襲ってくるだろう」となると話は変わってくる。
そんなの怖すぎる。
散歩気分で営業なんてやってる場合じゃない。
格好悪いが、ここは速攻、家に帰らせてもらおう。
俺がピタリと立ち止まった瞬間のことだった。
不意に何者かが俺の背後に迫ってきていて、いきなり俺の口をハンカチで塞いだ。
くそ!
まさか、もう襲ってきたのか!?
俺はなんとか背後から迫った何者かを振りほどこうと暴れようとする。
が。
「無駄よ。ハンカチにクロロホルムをしみこませているの。ゆっくり眠りなさい」
「……」
ハンカチからは変な臭いがするが、特に眠気がくるとか、そういうのはない。
「あ、あれ? なんで?」
何者かが焦ったような声を出す。
「あー、えっと、ドラマとかでやってる、クロロホルムで眠らせるやつ、あれ、実際は寝ないみたいだぞ」
「……そうなの?」
「ああ。なんか、眠らせるには量が足りないとかなんとからしい」
「えー、そうなんだ? ガッカリね」
俺の背後にいる何者かは、ため息をついて俺の口元からハンカチを外した。
よし、解放された。
俺は背後にいる何者かから離れようと走り出そうとしたときだった。
バチッ!
突然、全身に電気が走る。
「うおっ……」
あまりの強烈な衝撃に、俺の意識は薄れていく。
「やっぱり、スタンガンは優秀ね」
何者かがつぶやくのを聞きながら、俺の意識は完全に途絶えたのだった。
「……ん?」
あれからどのくらいが立ったのだろうか。
目を覚ますと、俺は椅子に座らされ、腕のところをロープで縛られていた。
場所は使われていない小さな倉庫のような場所。
窓もなく、天井からの電気の明るさだけしか情報がないので、今、何時なのかもわからない。
一応、抜け出せないかもがいてみるが、結構、ガチガチに縛られている。
……俺を捕まえてどうする気なんだ?
あれか?
俺を拷問して、仲間の能力とか吐かせる気か?
ふふ。
舐められたものだな。
俺が持ってる情報なんて、禰豆美が元魔王ってことと、栞奈、真凛、黒武者は戦力として役に立たないってくらいだ。
捕まえて、拷問するまでもなく、街中でちょっと脅されれば話してやるのに。
「というわけで、ロープを解いてくれ! 解放してくれ!」
そんな俺の叫び声に反応してか、俺の後ろから何者かがやってきた。
「なにが、というわけなのよ」
呆れたようにため息をつきながら、何者かは俺の前に振り返る。
そう。
俺を捕まえて拘束したのは――。
茶子だった。