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第78話 対策会議

 頭を禰豆美に地平線の彼方へ蹴り飛ばされたデュラハン。

 体の方が、四つん這いになって落ち込んでいるところを女の子に慰められる。


 だが、ユラリと立ち上がると馬に乗り、頭の方とは違う方向へ去っていく。


「……探しに行くのを諦めたのかもしれんな」


 ちょっと悪いことしたなかなといった風に、トーンを下げて言う禰豆美。


「あのまま放っておいたら、俺たちを殺そうとしてたんだ。あれくらいはいいだろ」

「……そうかのう」

「ま、どうしても見つからなさそうなら、探すの手伝ってやろうぜ」

「そうじゃな」


 そして、デュラハンが去った今、この場に残った四天王はダークエルフ1人だけだ。

 そのダークエルフも、何が起きたのかわからないといった感じで呆然としている。


「今なら、サクッと倒せそうじゃぞ?」

「いや、それはさすがに可哀そうだからやめておこうぜ」

「お主は相変わらず、優しいのう」


 しばらくすると呆然としていたダークエルフがハッと、こちらに意識が戻ってくる。

 引きつった笑顔を浮かべるダークエルフ。


「ふっ、ふふふふふ。なかなかやるじゃない。でも、あまり調子に乗らない方がいいわ。デュラハンは四天王のうちでも最弱なのよ」


 いやいやいやいや。

 さっき、最弱はサキュバスだって言ったじゃん。

 数分でランキングが入れ替わるほど、強さが拮抗してるのか?


「で、でも、デュラハンごときを倒すのに、ボロボロなんて先が思いやられるんじゃない? そんな状態で、私に勝てるかしら?」


 うーん。

 ボロボロどころか、一撃も攻撃を食らってないっていうか、攻撃すらされてない。


「でも、まあ、デュラハンとの健闘に免じて、今日のところは退いてあげる。だけど、次は、私の優しさを期待しないことね。完膚なきまでに叩きのめしてあげるわ」


 そう言い残すと、ダークエルフは全速力で走り去っていった。


「あいつ。また来るかなぁ?」

「さあのう」


 逃げるダークエルフの背中を見ながら、俺と禰豆美はつぶやくように言ったのだった。




「幼女のエルフを捕まえれば、100年くらいは楽しめるってことよね?」


 家に戻り、ことの顛末を話すと、開口一番に黒武者が言ったセリフがこれである。

 正義のヒーローにあるまじきセリフだ。

 どこのエロ漫画の悪役のセリフだよ。


「あ、別に栞奈ちゃんから乗り換えるとか、そう言うんじゃなくて、あくまで3人で楽しもうってことだから」


 焦りながら、さらにどうでもいい釈明を始める黒武者。


「それで、お兄さん、これからどうしましょうか?」

「ん? そうだなぁ……」


 その場のノリと雰囲気で、なんとなく逃がしてしまったが、よくよく考えると禰豆美の言うようにあの場で倒す、もしくは捕獲した方がよかったのかもしれない。

 あちらがどう出るかわからないから、こっちは念のためとはいえ警戒しておかなければならないのだ。


「あの様子なら、もう来ないとは思うんだけどな」

「そうじゃな」

「でも、警戒は解かない方がいいと思いますけど」

「そう。そうなんだよなぁ」


 真凛の言う通りだ。

 腐っても、相手は魔族。

 禰豆美がいないときに襲われたら万事休すだ。


「となると、これからは、なにか外に用事がある場合は俺が行く。禰豆美は悪いが留守番してくれ」

「なぜじゃ?」

「そうだよ。それじゃ、おじさんが危ないじゃない!?」

「待て、話を聞いてくれ」


 俺は思いついた秘策、というよりはこれしか手はないということを説明する。


「まず、この件が解決するまで家に閉じこもるというのは現実じゃない。そこまではいいな?」


 禰豆美、栞奈、真凛がコクリと頷く。


「で、毎度毎度、5人で動くというのも得策じゃない。守る人数が多いと、禰豆美に負担がかかり過ぎる」

「……儂は別に構わんけどな」

「万が一のことを考えてだ。で、俺だけがある条件付きで、あいつと戦えるだろ?」

「あ、変身!」


 栞奈が手を挙げて答える。

 ビッと親指を立ててやると、にっこりと笑った。


「そう。変身だ。変身できさえすれば、少なくとも殺されることはないはず」

「でも、お兄さんは任意で変身できないのでは……?」

「外にはたくさん人がいる。……でしょ?」


 俺の代わりに黒武者が答えた。


「そうだ。常に人の近くにいれば、俺が襲われたとしても、近くにいる人が『困る』はずだ」


 そうすれば、変身ができ、相手を倒すまで変身が解けない。


「とはいえ、相応のリスクを負うことになるぞ?」

「まあ、な」


 周りに人がいないときに襲われる可能性もあるし、周りに人がいれば、その人たちに配慮して戦わないとならない。


 ……考えてみると、結構ハードだな。


「けど、これが今のところ、最良の手だと思う」

「むう……」


 禰豆美は、俺の言うことを理解した半面、それでもやや納得がいってないようだ。

 俺のことを心配してくれるのは、純粋に嬉しい。


「でも、悔しいなぁ……」


 栞奈が口を尖らせてつぶやく。


「何がだ?」

「私、いっつも守ってもらってばっかり。戦えないのが嫌だなぁ」

「何言ってるんだよ。今日だって、デュラハンの頭を取っただろ。ナイスプレーだったぞ」

「うむ。そうじゃそうじゃ。気に病む必要はないぞ」

「……でも」


 うーん。

 人間、適材適所だと思うんだけどな。

 戦いは、戦える奴に任せる。

 当然のことだ。


「そうですね。僕もなんだか歯痒いです」


 今度は真凛まで落ち込む始末。


「僕ができることなんて、せいぜい、人を脅すくらいです」

「うん。お願いだから、止めてね」


 確かに真凛の人を追い込む才能は凄いけど、使わないで欲しい。

 うちに、人を脅すなんて適所は無いんだ。


 その雰囲気にあてられてか、今度は黒武者まで気落ちした声を出す。


「そうね。私も、できることと言えば、栞奈ちゃんを犯すくらい……」

「マジでふざけんな。絶対阻止するからな」


 なんで家の中に敵がいるんだよ。

 疲れるわ!


 とはいえ。

 なんとなく、2人の気持ちもわからないでもないと思うのだった。

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