四天王。
なんていうか、色んなところでこすられ過ぎて、今ではもう逆に弱いんじゃないかって思ってしまうくらいだ。
そういえば最近、あんまり見ないな。
四天王。
とはいえ、サキュバスのときは結構、ヒヤヒヤした場面があった。
そのサキュバスが一番弱いというテンプレートの流れだが、そもそも俺たちにとって、あまり相手の強さは関係ない。
というのも、魔族っていう時点で、栞奈、真凛、黒武者は戦力外になる。
そして、俺はというと変身さえできれば戦えるが、変身できるかどうかは状況による。
つまり、安定した戦力かと問われると、首を横に振るしかない。
で、俺たちの唯一、安定した戦力が禰豆美だ。
禰豆美は元魔王ということもあり、かなり強い。
サキュバスの時も、秒殺できたくらいだ。
四天王と言っても、しょせんは魔王の手下ポジション。
魔王より強いことはないだろう。
となれば、禰豆美に「やってしまいなさい」と言えば、済む話だ。
……てか、ほぼ禰豆美頼みだな、俺たち。
戦隊ヒーローものとしてどうなんだ?
灰色が一番強いシリーズなんてあるんだろうか。
いや、そもそも灰色がいるシリーズ自体が存在しねーよな。
「ふふふ。どうする? ここで、殺っちゃう?」
ダークエルフがニヤリと笑って、こちらを見る。
と、同時にゾクリと背筋が寒くなった。
威圧というか殺気というか、とにかくヤバいものを感じる。
ファンタジー世界で、選ばれた勇者しか戦えないというのもわかる。
こんなの一般人が戦えるレベルじゃない。
そう、肌で感じる。
「なんとも味気がないが、いいだろう。せっかく赴いたのだから、楽しませてもらうか」
デュラハン……腕に抱えられた頭の方が低い声で言う。
頭は兜に覆われていて、目の部分だけが赤く怪しく光っている。
実にオーソドックスなタイプのデュラハンだ。
「あら? 楽しめるかしら? 速攻で終わっちゃうんじゃない?」
完全に俺たちを見下しているダークエルフ。
俺たち人間のことはただの獲物にしか見えていないんだろう。
「少なくとも、お前が召喚したサハギンを倒すだけの実力はあったみたいだぞ」
いや、サハギンは自爆しただけ。
乾いて倒れて動かなくなったんだぞ。
こんなところに呼ぶからだよ、可愛そうに。
「……確かに、死体さえも残さないなんて。すこしは警戒したほうがいいのかしら」
「お前はいつも、油断が過ぎる」
「……うるさいわね」
デュラハンとダークエルフの殺気が増していくのがわかる。
さっきから汗が止まらない。
……まあ、暑いからっていうのもあるかもしれないけど。
真夏だし、お昼だしね。
「うわー! やだー! エモーい!」
女の子たちがスマホを構えて、デュラハンとダークエルフを撮っている。
カシャカシャとシャッター音が当たりに響く。
……そういえばいたね、君たち。
「この鎧ホンモノ? 馬さんは重くないのかな?」
「失敬なやつらだ。鎧は本物だし、馬に関しては俺の一部のようなものだ。重くなんぞない」
「へー。偉いんだねぇ」
女の子の一人が馬を撫でる。
「なななななにをしている! 人間ごときが触るな!」
焦る様子のデュラハン。
触るなといいながらも、振り払おうとしていない。
なんていうか、まんざらでもなさそうだ。
「お姉さんは美人だし、エローい! エロ可愛い!」
もう一人の女の子が色々な角度からダークエルフを激写している。
「髪もサラサラー。ねえねえ、どんなシャンプー使ってるの? トリートメントは?」
「なっ! べ、別に特別なことなんてしてないわよ」
「ええ! 何もしてないのに、これ? 凄すぎでしょ!」
「……」
「ねえ、触ってもいい?」
「す、好きにしたら」
両手を組んでプイっと横を向くダークエルフ。
顔が物凄い真っ赤で、照れていることがわかる。
「すごいなー、すごいなー。肌もスベスベ。どうやったらお姉さんみたくなれるんだろ?」
女の子が紙を触ったり、露出した腕に頬ずりしたりしている。
「言っておくけど、美を他者と比べるのはナンセンスよ」
「え?」
「美的感覚なんて、個体それぞれよ。そんな他者の評価に振り回される必要はないわ。あなたが意識するべきは、自分に対しての美よ」
「私の、美?」
「そうよ。あなたにはあなたにしかない、いいところがある。それをしっかり磨いていけばいいの」
「う、うん! わかったよ、ありがとう!」
……おいおい、なんかいいこと言い出したぞ。
女の子たちの介入により、収拾がつかなくなった、この空気感。
だが、そんな硬直状態を破ったのは、なんと栞奈だった。
「隙ありー!」
女の子たちに交じって、いつの間にかデュラハンに接近していた栞奈。
背後から、デュラハンが抱えていた頭を叩き落とす。
「なっ!?」
完全に油断していたのか、デュラハンは頭に向かってただ、手を伸ばすだけしかできない。
「速攻!」
栞奈が地面に落ちたデュラハンの頭を拾い、ドリブルしながら俺たちの方へ走ってくる。
「うお! ぶっ! やめろ! がはっ! ちょ、やめて! おえっ!」
ドリブルされながら、デュラハンの頭が悲鳴のような声を上げている。
栞奈の勢いはさらに増していくかと思いきや、なんとここで――。
「ねずっち、パス!」
栞奈がデュラハンの頭を禰豆美に向かって放り投げた。
「よし! オーバーヘッドキック、じゃ!」
空中で禰豆美がデュラハンの頭を蹴る。
「のあああああああーーーーー…………」
ものすごい勢いで明後日の方向に飛んでいくデュラハンの頭。
キランという光る音を立てて、地平線の彼方へと飛んで行った。
と、同時にガシャンという音がする。
見ると、デュラハンの体の方が馬から落ちていた。
そして、四つん這いになって項垂れ始める。
「大丈夫? 元気出して?」
女の子に肩を叩かれ、慰められているデュラハン。
これで四天王は残り2人になったのだった。