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第77話 四天王の一人陥落

 四天王。


 なんていうか、色んなところでこすられ過ぎて、今ではもう逆に弱いんじゃないかって思ってしまうくらいだ。


 そういえば最近、あんまり見ないな。

 四天王。


 とはいえ、サキュバスのときは結構、ヒヤヒヤした場面があった。

 そのサキュバスが一番弱いというテンプレートの流れだが、そもそも俺たちにとって、あまり相手の強さは関係ない。


 というのも、魔族っていう時点で、栞奈、真凛、黒武者は戦力外になる。

 そして、俺はというと変身さえできれば戦えるが、変身できるかどうかは状況による。

 つまり、安定した戦力かと問われると、首を横に振るしかない。


 で、俺たちの唯一、安定した戦力が禰豆美だ。

 禰豆美は元魔王ということもあり、かなり強い。

 サキュバスの時も、秒殺できたくらいだ。


 四天王と言っても、しょせんは魔王の手下ポジション。

 魔王より強いことはないだろう。


 となれば、禰豆美に「やってしまいなさい」と言えば、済む話だ。


 ……てか、ほぼ禰豆美頼みだな、俺たち。

 戦隊ヒーローものとしてどうなんだ?

 灰色が一番強いシリーズなんてあるんだろうか。


 いや、そもそも灰色がいるシリーズ自体が存在しねーよな。


「ふふふ。どうする? ここで、殺っちゃう?」


 ダークエルフがニヤリと笑って、こちらを見る。

 と、同時にゾクリと背筋が寒くなった。

 威圧というか殺気というか、とにかくヤバいものを感じる。


 ファンタジー世界で、選ばれた勇者しか戦えないというのもわかる。


 こんなの一般人が戦えるレベルじゃない。

 そう、肌で感じる。


「なんとも味気がないが、いいだろう。せっかく赴いたのだから、楽しませてもらうか」


 デュラハン……腕に抱えられた頭の方が低い声で言う。

 頭は兜に覆われていて、目の部分だけが赤く怪しく光っている。

 実にオーソドックスなタイプのデュラハンだ。


「あら? 楽しめるかしら? 速攻で終わっちゃうんじゃない?」


 完全に俺たちを見下しているダークエルフ。

 俺たち人間のことはただの獲物にしか見えていないんだろう。


「少なくとも、お前が召喚したサハギンを倒すだけの実力はあったみたいだぞ」


 いや、サハギンは自爆しただけ。

 乾いて倒れて動かなくなったんだぞ。

 こんなところに呼ぶからだよ、可愛そうに。


「……確かに、死体さえも残さないなんて。すこしは警戒したほうがいいのかしら」

「お前はいつも、油断が過ぎる」

「……うるさいわね」


 デュラハンとダークエルフの殺気が増していくのがわかる。

 さっきから汗が止まらない。


 ……まあ、暑いからっていうのもあるかもしれないけど。

 真夏だし、お昼だしね。


「うわー! やだー! エモーい!」


 女の子たちがスマホを構えて、デュラハンとダークエルフを撮っている。

 カシャカシャとシャッター音が当たりに響く。


 ……そういえばいたね、君たち。


「この鎧ホンモノ? 馬さんは重くないのかな?」

「失敬なやつらだ。鎧は本物だし、馬に関しては俺の一部のようなものだ。重くなんぞない」

「へー。偉いんだねぇ」


 女の子の一人が馬を撫でる。


「なななななにをしている! 人間ごときが触るな!」


 焦る様子のデュラハン。

 触るなといいながらも、振り払おうとしていない。

 なんていうか、まんざらでもなさそうだ。


「お姉さんは美人だし、エローい! エロ可愛い!」


 もう一人の女の子が色々な角度からダークエルフを激写している。


「髪もサラサラー。ねえねえ、どんなシャンプー使ってるの? トリートメントは?」

「なっ! べ、別に特別なことなんてしてないわよ」

「ええ! 何もしてないのに、これ? 凄すぎでしょ!」

「……」

「ねえ、触ってもいい?」

「す、好きにしたら」


 両手を組んでプイっと横を向くダークエルフ。

 顔が物凄い真っ赤で、照れていることがわかる。


「すごいなー、すごいなー。肌もスベスベ。どうやったらお姉さんみたくなれるんだろ?」


 女の子が紙を触ったり、露出した腕に頬ずりしたりしている。


「言っておくけど、美を他者と比べるのはナンセンスよ」

「え?」

「美的感覚なんて、個体それぞれよ。そんな他者の評価に振り回される必要はないわ。あなたが意識するべきは、自分に対しての美よ」

「私の、美?」

「そうよ。あなたにはあなたにしかない、いいところがある。それをしっかり磨いていけばいいの」

「う、うん! わかったよ、ありがとう!」


 ……おいおい、なんかいいこと言い出したぞ。


 女の子たちの介入により、収拾がつかなくなった、この空気感。

 だが、そんな硬直状態を破ったのは、なんと栞奈だった。


「隙ありー!」


 女の子たちに交じって、いつの間にかデュラハンに接近していた栞奈。

 背後から、デュラハンが抱えていた頭を叩き落とす。


「なっ!?」


 完全に油断していたのか、デュラハンは頭に向かってただ、手を伸ばすだけしかできない。


「速攻!」


 栞奈が地面に落ちたデュラハンの頭を拾い、ドリブルしながら俺たちの方へ走ってくる。


「うお! ぶっ! やめろ! がはっ! ちょ、やめて! おえっ!」


 ドリブルされながら、デュラハンの頭が悲鳴のような声を上げている。

栞奈の勢いはさらに増していくかと思いきや、なんとここで――。


「ねずっち、パス!」


 栞奈がデュラハンの頭を禰豆美に向かって放り投げた。


「よし! オーバーヘッドキック、じゃ!」


 空中で禰豆美がデュラハンの頭を蹴る。


「のあああああああーーーーー…………」


 ものすごい勢いで明後日の方向に飛んでいくデュラハンの頭。

 キランという光る音を立てて、地平線の彼方へと飛んで行った。


 と、同時にガシャンという音がする。


 見ると、デュラハンの体の方が馬から落ちていた。

 そして、四つん這いになって項垂れ始める。


「大丈夫? 元気出して?」


 女の子に肩を叩かれ、慰められているデュラハン。


 これで四天王は残り2人になったのだった。

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