真凛を連れて戻ると、栞奈と禰豆美と真凛の3人で遊び始めた。
「ねえ、おじさんも一緒に遊ぼうよ」
栞奈に声をかけられるが、俺は苦笑いを浮かべつつ「後でな」と濁す。
正直言って、この数時間で色々あり過ぎてもうヘトヘトだった。
まだ昼を少し過ぎたくらいなのに、だ。
俺は横になりながら、栞奈たちが遊んでいるのをボーっと見ている。
たぶん、他の人間から見たら変態が女の子を凝視していると思われるだろう。
だが、ここは人がほとんどいない、岩陰に囲まれた砂浜だ。
雰囲気的にはプライベートビーチと言ったところだろうか。
それにしても、無尽蔵な体力だな。
1時間以上、ぶっ通しで遊んでいるのに、休もうとしない。
若いねぇ。
おっさんのようなことを考えていると、俺はいつの間にか寝てしまっていた。
目を開けると空は赤色に染まっている。
どうやら、随分と長い時間、眠ってしまったらしい。
栞奈たちは?
そう思って起き上がろうとするが体が重くて動かない。
何事かと思い、視線を落とす。
すると腹の上に禰豆美が乗っかって寝ていた。
どうりで暑いわけだ。
普通なら、浜辺で海パン一丁で寝ていれば体が冷えて寒くなるだろう。
しかも、もう夕方だ。
だが、若干の寝汗をかくくらい暑いのは禰豆美が布団がわりになっていたからだろう。
そして、さらに俺の右腕には栞奈が、左腕には真凛が抱き着いて寝ている。
そのせいで身動きが取れない。
まるで拘束されている気分だ。
……なんの拷問だよ。
「……む? 起きたか?」
俺がもぞもぞと動いたせいか、腹の上の禰豆美が目を覚ましたようだ。
「すまん、逆に起こしちまったか?」
「気にするな。儂は寝ても寝なくても、さほど体には影響はないからのう」
「へー。さすが元魔王だな。やっぱり、有り余る魔力のおかげってやつか?」
「いや、ヨガの神髄というやつじゃな」
「……お前、いつ、そういうの習得してるんだ? てか、そこは魔力でいいだろ」
ホント、魔王のくせに魔力を使わない奴だな。
「まあ、いいや。とりあえずどいてくれるか?」
「残念じゃのう。お主の腹の上は心地がよかったんじゃが」
そう言いながらも、スッと俺の腹から降りてくれる。
そして、俺は栞奈と真凛を起こさないように腕を抜いた。
波の穏やかな音があたりに響く。
遠くでカモメの鳴く声が聞こえる。
うーん。
実に平和な雰囲気だ。
「……ふむ。きれいじゃな」
禰豆美は腰に手を当て、夕日に照らされている海を見ながらニヤリとほほ笑む。
「夕日が綺麗など、前の世界では思ったことはなかったんじゃがな」
「ふーん」
俺も立ち上がり、禰豆美の横に立って夕日を見る。
確かに綺麗だ。
言われてみれば、俺もこうやって夕日が綺麗だなんてあまり考えたことはなかった。
というより、ほとんど部屋から出てなかったし、カーテンを閉め切った生活をしていたから、そもそも夕日を見るなんてこと自体が全くと言っていいほどなかったように思う。
「夕日のことだけじゃないぞ。こっちの世界に来てからは初めて経験することが多いな」
「……そうなのか?」
「そもそも、こうやって人間と肩を並べて立つなんてことはなかったからのう」
「並んではないけどな」
禰豆美は小さい。
俺の腰くらいまでしか身長がないのだ。
「ふふ。そういう軽口を言われることもなかったな」
「へー……」
「そりゃ、当然って話なんだがな。人間は魔族にとっては戦うべき相手じゃ」
ましてや禰豆美は魔王だ。
人間なんかと会うことも滅多にないだろうし、会ったとしてもすぐに戦う羽目になっていたんだろう。
「下らん常識だったんじゃのう」
「なにがだ?」
「争う必要など、なかったんじゃよ。人間と魔族は」
「……」
「人間と魔族は敵同士。そんな常識など取っ払ってしまえば、こうして、1日中一緒に遊んで、食べて、寝ることができるんじゃ」
「……そうだな」
チラリと禰豆美を見下ろすと、禰豆美は満面の笑みを浮かべている。
そして、禰豆美は俺の方を見てきた。
「お主には感謝しておる」
「俺に? なんでだ?」
「あのとき、儂に肉を食うかと誘ってくれことじゃ」
「……ああ。そんな出会いだったな」
「儂が魚と肉の物々交換を持ちかけたんじゃ」
「で、俺は腹がいっぱいだって拒否したんだよな」
「あれにはハッとさせられたわ。そんな答えは想定しておらんかったからのう」
禰豆美と出会った頃のことを思い出す。
とはいえ、考えてみればそれほど前のことじゃない。
なのに、それは随分と前のように感じる。
「毎日、楽しく過ごさせてもらっている。そんな場所をくれた、お主に感謝じゃ」
「俺だけじゃないだろ。栞奈や真凛、黒武者にも感謝してやってくれ」
「お、そうじゃな。儂にとって、4人は掛け替えのない存在じゃ」
「そりゃどうも」
なし崩し的に集まった4人。
最初はどうやって追い返そうかと考えていたほどだ。
それが今では、俺の中で家族のような存在になっている。
まったく不思議な話だ。
この俺が人と一緒にいることを苦にしてないんだからな。
「そうじゃ。正博よ。感謝ついでに、もう一つやってみたいことがあるんじゃが」
「なんだ? 俺にできることか?」
「逆に言うとお主にしかできないことじゃな」
「へー。なんなんだ、それは?」
「子供を産んでみたいんじゃ」
「……」
「儂に種付けプレスをしてくれんかのう?」
「……どこで覚えてくるんだよ、そんな言葉」
「ダメか?」
「ダメに決まってるだろが!」
「なぜじゃ?」
「犯罪だよ! 絵面的にスゲーやべーよ! どこの同人誌だよ!」
「む? 儂は1000歳以上じゃぞ? この世界で言う未成年とやらではないんじゃがのう」
「見た目でアウトだ、見た目で!」
「むう……。そうなのか。失敗したのう。こんなことなら、魔王時代のボンキュボンにしてもらえばよかったわい」
いや、変わらねーよ。
だって、俺、3次元に興味ないし。