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第62話 勝負は水着コンテストで

 追ってくる警察の魔の手を振り切るため、俺は結局、スケルトンと戦った場所へと戻ってきた。

 さすがに、腰を抜かしていた男の姿はなく、その場所には誰もいない。


 よし、ここなら一目にもつかないし、見つかることもないだろう。


 ふう、と胸を撫で下ろす。

 今までで一番危なかったかもしれん。


「じゃあ、改めて。どっちがパパのメス豚にふさわしいか、勝負よ!」

「受けて立つ!」


 グッと拳を握りしめて茶子を正面から見据える栞奈。


「ほう。勝負か。面白そうじゃな。儂も参加するぞ」

「余計、ややこしくなるから、やめてくれ」


 いつの間にか背中にへばりついていた禰豆美が身を乗り出したので、慌てて止める。

 てか、お前、メス豚とかの意味わかってねーだろ。

 よくわからんことに首を突っ込まないでほしい。


「じゃあ、正博を倒せば、栞奈ちゃんを私のメス豚にできるのかしら?」


 期待した目で、チラチラと俺を見てくる黒武者。


 ……なんで、俺の方を見る?


「いくよ! はあああああああ!」

「うおおおおおおおおおお!」


 栞奈と茶子がいきなり叫び始めた。

 両拳を握って、力というか気というかオーラというか、とにかく何かを溜めているような雰囲気だ。


 楽しそうだな。


 そんなこと考えながら、2人を見ていると、禰豆美がボソッとつぶやいた。


「ここで何かあったんじゃな?」

「わかるのか?」

「ふむ。魔力の残滓を感じるからのう」

「昨日みたく、魔物が召喚されたんだ。今度はスケルトン」

「なるほど。ということは、偶然、というわけじゃなさそうじゃのう」

「どういうことだ?」

「魔方陣に魔力を込めた者はこの辺りに潜んでおるということじゃ。もしかすると、儂らを狙ってるかもしれん」


 禰豆美が俺の背中から飛び降り、あたりをキョロキョロと見渡す。


「今のところ、見られている気配はせんが……。中には気配を消すのが上手いやつもおるからのう」

「魔王のお前でも、わからないものなのか?」

「得手不得手じゃな。探索はあまり得意じゃない」

「あー、なるほど」


 とはいえ、まだこっちを狙っているという方が、救いがあるか。

 オークくんのときも、スケルトンのときも単に運がよかっただけで、一歩間違えれば怪我人がでてもおかしくはなかった。


 それこそ、無差別に召喚なんてされたら、海にいる観光客は大混乱だろう。


「お、おじさん、おじさん……」

「ちょっと、パパ、なにやってるの?」

「ん? どうした?」


 なんか疲れてふらふらしている栞奈と茶子。

 さっきまで叫んでいた元気は完全になくなっている。


「私の勝ちだよね?」

「いや、私の勝ちだ」

「……どんな勝負をしてたんだ?」

「え?」

「えっと……」


 俺の問いに目を泳がせる栞奈と茶子。


「なんていうか、雰囲気?」

「どっちが強そう的な、あれよ」

「……どれだよ」


 雰囲気て。

 どんな勝負で決着をつけるか、ノープランでやってたのかよ。

 遊んでるのかと思ったぞ。


「あー、じゃあ、どっちも負けで」

「どっちも負け!?」


 栞奈が目を丸くする。


「そう。負けなら、罰ゲームを受けないとならないわ。さっそく、私を犯……」

「あ、やっぱ、引き分けで」


 茶子が悔しそうに下唇を噛む。


「ああ、そうだ!」


 栞奈がハッとして、ポンと手を叩く。


「あれで勝負だよ!」

「……なに? あれって」

「えっと……。水着コンテスト!」




 とりあえず、2日後に開催される水着コンテストで雌雄を決するということで話が着地した。

 俺も、もう面倒くさくなって、それでいいんじゃないかと頷いたことで、確定する。


「ふふふ。じゃあ、2日後に首を洗って待ってるがいいわ!」


 そう高笑いして、茶子が去っていった。


「よーし! 私、絶対勝ってみせるからね!」


 栞奈の後ろに炎が見えるくらい燃えている。


「おじさん! 水着コンテストで優勝して、モナ子ちゃんの抱き枕と私をプレゼントするからね!」

「ああ。期待してる」


まあ、栞奈は返品するけどな。


「うおおおお! やるぞーーー!」


 さらに栞奈の後ろの炎が勢いを増した、感じがする。

 だが、そんな栞奈に、文字通り、禰豆美が水を差す。

 どこから持ってきたのか、水鉄砲を栞奈に向かって撃つ。


「おい、栞奈。さっきの続きをするぞ」

「あ、うん。まずはねずっちと決着をつけなくっちゃね」

「ふむ。返り討ちにしてくれる」


 そう言って、栞奈と禰豆美が水鉄砲で撃ち合いを始める。


「ちょっと、私はやることができたから」


 今度は黒武者がそう言って、どこかに行ってしまう。


 黒武者もか。

 そういえば、真凛も同じようなことを言ってたな。


 一体、何をやってるんだろうな。

 少しだけ、気になってきた。


 そう思ったときだった。

 不意に、視界の端に真凛の姿が映った。


「え?」


 俺は思わず二度見した。

 あり得ない光景。

 ……いや、正確に言えば真凛がそんなことをするとは思ってもみなかった、というところだろう。


 なんと、サングラスに、Tシャツ短パンというラフな格好をした60歳くらいの男と腕を組んで歩いていたのだ。


 真凛は媚びたような笑顔を浮かべ、男の方と言えばスケベそうな顔でチラチラと真凛を見ている。


 よく見ると男は腕やら首やらに、やたらと高そうな貴金属をつけていた。


 ……金持ちだな。

 そして、雰囲気からしてなにか役職についているような、偉そうな感じだ。


 背筋にゾクッと寒気のようなものが走った。


 別に真凛は俺の彼女でもなければ、子供でもない。

 いわば、仲間なだけだ。


 だから、真凛の好みに文句を言う筋合いもないし、行動に対してケチをつける権利もない。

 それはわかりきっていることだし、俺自身も気にするところではないと思っていた。

 だから、真凛が「やることがある」と言って自由に行動するのを止めなかったのだ。


 ……なんだ、この感覚は?


 怒り?


 違う。


 悲しみ?


 違う。


 嫉妬?


 違う。


 これは……。

 ――嫌な予感だ。


「お前らはそこにいろよ」


 俺は栞奈と禰豆美に、そう言い残して、真凛の後を追ったのだった。

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