スケルトンが木っ端みじんになり、黒武者が連れてきた男が腰を抜かしつつも、俺の変身が解ける。
雑魚そうに見えるモンスターでも、そこはやはりモンスター。
生身の人間が勝てるものじゃない。
いやあ、異世界の勇者の方々には感服する。
あんなのをチート能力なしで倒すなんてどんだけだよ。
にしても、今回は黒武者の機転で助かった。
まさか、『困っている人を作り出す』という、今までの逆の発想で俺を変身させるとは。
考えてみれば、禰豆美がいるところまで、結構な距離がある。
禰豆美を連れて、ここまで戻ってきていたら、間に合わなかっただろう。
今頃、スイカ割のスイカのごとく、割れた俺の頭が転がっていたはずだ。
俺が黒武者にグッと親指を立てると、黒武者もグッと親指を立てて、そのまま回転させて親指を下に向けた。
いや、なんでだよ。
とはいえ、黒武者の頬が若干赤い。
おそらく、照れ隠しかなにかだろう。
現実世界でツンデレなんて、ただの痛い奴だと思っていたが、なかなかどうして。
ちょっとだけ可愛らしく見える。
まあ、モナ子の可愛さとは、文字通り次元が違うが。
「私が悪かったわ!」
まさしくズサーっと音を鳴らしながら、女の子が物凄い勢いで土下座をしてくる。
その女の子がまき散らした砂が俺の全身にぶっかかった。
そのせいで全身、砂だらけになる。
なんだ?
遠回しかつ、斬新な嫌がらせか?
しかも、相手はいきなり謝っているからこっちは怒ることがない。
なかなかやるじゃないか。
「まさか、こんなことになるなんて思わなかったのよ」
「……ああ。召喚のことか。気にするな。何とかなったし」
「今度はスライムを引き当ててみせるわ」
うん。
全然、反省してないね、君。
「わかってる。謝って許されることじゃないもんね。いいわ。罰として私を犯しなさい!」
「お前のご褒美になってるじゃねーか」
それになんで、命令なんだよ。
「さっき、言っただろ。気にするなって。目の前に魔方陣があれば、つい召喚したくなる。なんとなく、その気持ちはわかるよ」
きっと、エロ同人誌が落ちてたら、思わず開いてしまうのと同じ感覚だろう。
痛いほど、その気持ちはわかる。
責められるわけがない。
「そ、こ、は! 罵倒しなさいよ!」
「いでででで!」
ギリギリと頬をつねられる。
ホント、まったくと言っていいほど反省のはの字もない奴だ。
「とはいえ、今度は魔方陣を見つけても勝手に召喚するなよ」
「うっ! ……やっぱり、ダメ?」
「……」
「わかったわよ! 命の恩人に言われたことはちゃんと守るわ! 守ればいいんでしょ、守れば! くそ、死ね!」
あれ?
なんで、今、罵倒されたんだ?
命の恩人だよね、俺?
「おっと、そろそろ戻るぞ、黒武者。これ以上、栞奈と禰豆美たちを放置するのはヤバい気がする」
「そうね。悪い虫がついてたら、駆除しなくちゃならないものね」
どっちかというと、問題を起こされるというより起こす方な気がするんだけどな。
「じゃあな。できれば、昨日のことも含めて忘れてくれると助かる」
俺は女の子にそう言い残して、栞奈たちがいる方へ歩き始めた。
「魚沼茶子よ」
横を歩く女の子が自己紹介をしてくる。
「……あれ? 別れたつもりだったんだけど。俺、じゃあなって言ったよな?」
「年は18歳で、高校3年生よ。趣味は自分が凌辱されているところを想像すること」
……なかなかハードな趣味をお持ちのようだ。
「将来の夢は人外に凌辱されて、アヘ顔に落とされることよ」
「あー、えっと、たぶん、その将来の夢の使い方、間違ってると思う」
「当面の目標は、あなた……パパに犯されること」
「……なんだよ、パパって」
「ふふ。嬉しいでしょ? JKにパパって呼ばれて」
「寒気しかしねえ」
いかがわしさしか、感じないぞ。
それ絶対、職質されるやつ。
「てか、そもそも、なんでついてくるんだよ?」
「え? だって、パパが言ったんでしょ。私に、勝手に召喚するなって」
「……言ったけど、それと俺たちについてくるのとどう関係があるんだ?」
「勝手じゃないならいいんでしょ?」
「……」
それは屁理屈というやつだ。
けど、まあ、俺が許可を出さなければいいだけか?
新たな魔方陣を見つけて、我慢しきれずに召喚……なんてことも可能性は0じゃないし。
「あ、おじさん! どこ行ってたの!?」
俺の姿を見つけてか、栞奈と禰豆美が駆け寄ってくる。
「ああ、ちょっとな」
「って、誰!? その子?」
栞奈が俺の横にいる茶子を指差す。
「パパの肉奴隷よ」
「おいっ!」
「な、なに言ってるのよ! おじさんの肉奴隷は私なんだから!」
「ちょちょちょ! 待て、お前ら!」
「私はパパに犯されてアヘ顔ダブルピースを激写される契約を結んでるの」
「結んでねえっ!」
「わ、私なんて、種付けされて、結婚するところまで決まってるんだよ!」
「あの……せめて……声のトーンだけでも落としてくれ……」
周りの目が半端なくヤバい。
今にも通報されそうな勢いだ。
「ふふ! 面白い。それじゃ、どっちがパパのメス豚にふさわしいか、勝負よ!」
「受けて立つ!」
あっ……。
こっちに歩いてくるの、警察っぽい。
「お前ら、ちょっと来い!」
俺は栞奈と茶子の腕をつかんで、脱兎のごとくその場から逃げ去ったのだった。