骨だけの魔物、スケルトン。
西洋ファンタジーの作品では、割とよく出てくるモンスターだ。
呼び出されたスケルトンの身長は大体180センチくらい。
思ったよりは高くない。
骨格も大きいわけではなく、一般的な成人男性くらいのものだろう。
ただ、モンスターということで、強いということも十分考えられる。
現にスケルトンの手には、巨大な骨が握られていた。
「……」
スケルトンを呼び出した女の子の表情がワクワクとした興奮のものから、がっかりとした絶望のものに変わっていく。
「なんで? ……なんでよりによって、スケルトンなのよー!」
悔しそうに浜辺を叩いている。
……何を悔しがってるんだ、あいつは?
「スケルトンだと……肉棒がついてないじゃない!」
「肉棒言うな!」
俺が突っ込みを入れている間、スケルトンは動かず、じっと四つん這いになっている女の子を見下ろしている。
今回も、いきなり召喚されたことに戸惑っているんだろうか?
だが、その予想はすぐに覆される。
スケルトンは握っている骨を振り上げた。
明らかに女の子を狙っている。
ヤバい!
俺はとっさにスケルトンに体当たりをする。
不意のことだったのか、スケルトンは仰向けに倒れた。
「おい、立て!」
俺は強引に女の子の腕をつかんで、立たせる。
「……ああ、もう、なんなのよ。私はただ、人外に無茶苦茶にされたいだけなのに……」
虚ろな目でブツブツと呪文のように呟いている。
今はそんなことをしてる場合じゃないだろ。
そんなことを考えているうちに、スケルトンはむくりと立ち上がり、明らかに俺たちの方へと歩いてくる。
たぶん、スケルトンは意外と強い。
さっき、タックルしたときの感触として、かなり力が強い感じがした。
筋肉はないくせに、力があるとか、これいかに?
なんて冗談を考えている場合じゃない。
「黒武者! この子を連れて逃げ……」
既にその場に、黒武者はいなかった。
おいおいおい。
あいつ、さっさと逃げたのか?
まあ、いいけど。
となると、ここは俺が何とかするしかない。
昨日は禰豆美に任せたが、俺だって一撃で粉砕できる破壊力を持っている。
「おりゃあああああ!」
俺は拳を振り上げ、スケルトンの胸骨当たりに拳を叩きこむ。
すると、スケルトンは一瞬にして砕け散……らなかった。
「いってぇ!」
逆に俺の拳の方が痛い。
あ、皮剥けた。
けど、なんで?
俺が混乱している間に、スケルトンは俺の頭めがけて、骨を振り下ろしてくる。
「あぶねっ!」
転がるようにして、なんとか躱す。
……それにしても、チートスーツをもってしてでも倒せないなんて。
スケルトンって雑魚のイメージがあったんだが……。
ん? んん?
そこで俺はようやく気付いた。
そう。
俺は『変身していない』ことに。
この場にいるのは、俺、スケルトン、イジケている女の子の3人だ。
俺を抜くと、スケルトンと女の子の2人。
じゃあ、どっちかが困っているのか?
女の子の方はイジケている方に意識が向いているのか、『困っていない』。
そして、スケルトンの方と言えば……。
きっと『何も考えていない』んだろう。
動きを見る限り、あまり高度な知能を持っているようには見えない。
つまり『異世界に召喚されたからって困っていない』ということなのだろう。
というか、おそらく、自分の境遇にすら気づいていない。
結論として、この場には困っているやつがいない。
なので、俺は変身していないというわけだ。
「ちょっと、やばくないか、これ?」
変身していない俺なんて、成人した男性の平均の強さよりもだいぶ下だ。
そして、まがりなりにも、相手はモンスター。
果たして勝てるのか?
本当は逃げの一手……戦略的撤退を図りたいところだが、女の子があの状態では無理だ。
となると、俺が戦うしかない。
「まずは、これだ!」
俺は砂浜の砂をつかんで、スケルトンに投げつける。
目つぶし。
いくらモンスターと言えども、視界を奪えば、隙が生じるはずだ。
しかし。
バシャ!
サラサラサラ……。
何事もなかったように、スケルトンに投げつけた砂は砂浜に落ちていく。
ダメージは0だったようだ。
作戦失敗。
そりゃそうだよね。
だって、スケルトンに目はないんだもん。
じゃあ、次。
投石作戦。
俺は足元の適当な石を拾い上げ、思い切りスケルトンに向かって投げつける。
「くらえ! 火の玉ストレート!」
あ、もちろん、火なんてついてない。
雰囲気だよ、雰囲気。
そして、カンっていう甲高い音が響いたかと思うと……。
「痛いっ!」
スケルトンの骨に反射して、石は俺に返ってきた。
ダメージ10ってところか。
やるじゃねーか、スケルトン。
よし、次なる一手は……一手は……。
キョロキョロとあたりを見渡して、使えそうなものがないかを探す。
だが、そんなことをしている間に、スケルトンの接近を許してしまう。
「しまっ!」
ゴンという音と共に、俺は横に倒れる。
ジワリとこめかみに、生暖かいものが流れてきた。
血……。
どうやら、スケルトンの持っていた骨を頭にくらったらしい。
そして、スケルトンは俺に向かって追撃しようとさらに骨を振り上げる。
くそ!
逃げようと思っても、視界がグルグルとして思ったように、動けない。
万事休す。
そう思った瞬間だった。
「正博、無事!?」
突如、黒武者が現れる。
おお!
禰豆美を連れてきたんだな。
ナイスだ、黒武者。
と、そう思ったのだが……。
「えー。こんなところに誘ってぇ~、何する気なんだよー」
黒武者が連れてきたのは、見たこともない、チャラそうな男だった。
いや、誰だよ!
「はー!」
黒武者がいきなり、連れてきた男をスケルトンの方へ押した。
「うわわわ! なになに!? 強引に襲う気? ……って、えええ! なんだ、この化け物は!?」
男がスケルトンに気づき、悲鳴を上げる。
その声に反応してか、スケルトンは狙いを男の方へ変え、男に向かって歩き出す。
「えええええ! なになに!? ちょっと、マジで! やめて!」
男が慌て始める。
同時に、俺の体が光り始め、変身した。
……なるほど。
そういうことか。
「はああああ!」
俺は立ち上がって、スケルトンの背骨に向かって拳を叩きつける。
すると今度は木っ端みじんにスケルトンが砕け散ったのだった。