「見~つ~け~た~わ! おらぁ!」
「おふっ!」
背骨が折れるんじゃないというくらいの衝撃。
突然、後ろからタックルされ、前のめりに倒れる。
そして、背後から何者かが覆いかぶさってきた。
「なんだ? だれだ?」
すると耳元で、何者かが囁く。
女の声だ。
「こっちを見ろ」
「見れねーよ。この状態で見るには、首を180度回さないとならない。だから、どいてくれ」
「逃げないって約束する?」
「わ、わかった」
この状態では脅されていると同義だ。
俺には頷くしかなかった。
「よし……と」
不意に体が軽くなる。
どうやらどいてくれたようだ。
よし、今がチャンスだ。
俺は倒れた、四つん這いの状態でカサカサと移動し始める。
「あ、逃げないって約束、速攻で破りやがった!」
……馬鹿が。甘いんだよ。
「逃げるなって言われて、逃げない馬鹿がいるかよ!」
「ふんっ!」
「あうっ!」
いきなり背中を踏みつけられた。
声の距離からして、女ではない。
誰だ?
チラリと見上げると、踏みつけたのは黒武者だった。
「おい! なんのつもりだ、黒武者! お前、どっちの味方だよ!?」
「女の子の味方よ」
……ああ。
そういえば、そんな奴だったな。
「てめー! こらー! ふざけやがってー!」
女がダッシュしてきて、倒れた俺を踏みつけてくる。
「ぎゃーーー!」
俺は2人に体をしこたま踏みつけられる。
……2人?
覚えてろよ、黒武者。
「……で? なんで俺を探してたんだ?」
真摯に土下座をすることで、その場を穏便に済ませることに成功した俺。
立ち上げって見て見ると、いきなり襲い掛かってきたのは、昨日の女の子だった。
「リベンジマッチに決まってるじゃない。さあ、勝負よ」
「なんの勝負かは知らんが、断る」
「うるさい! さっさと私を犯せ! そして、アヘ顔ダブルピースをさせるのよ!」
「嫌に決まってるだろ!」
すると女の子は、わざとらしく大きくため息をついて、やれやれと肩をすくめた。
「私は18歳よ」
突然、関係のないことを言い出す女の子。
視界の端では、黒武者が「ね? 言ったとおりでしょ?」と言った具合に不適な笑みを浮かべている。
得意げな顔をしているが、お前の変態さが証明されただけだぞ?
「……それがどうした?」
「18歳と言えば成人! つまり! 合法的にJKを襲えるのよ!」
「襲った時点で犯罪だ!」
栞奈もそうだが、なぜ、こいつらはJKにそこまで需要があると決めつける?
世の中の男すべてが、JKが好きだなどと思い上がるな。
2次元になって出直してこい。
「ふっ! 甘いわね」
「なにがだ?」
「お互いの合意があれば、犯罪じゃないわ」
「甘いのはお前だ。俺が合意してねえ」
「くっ!」
女の子は下唇を噛んで、悔しそうな顔をする。
また勝ってしまった。
敗北を知りたい。
「正博。周りに人が大勢いるの、知っててしゃべってるの?」
「……え?」
黒武者に言われて、周りを見渡すと、数人がこっちを見て怪訝な表情をしている。
中にはスマホを取り出して、電話をかけ始めた人もいる。
「おい、ちょっと岩陰に行くぞ」
「私を犯す気ね!?」
不意に嬉しそうな表情をする女の子。
「お願いだから、黙っててくれ……」
俺は涙目になりながら、女の子の腕をつかんで、人気のない岩場へと移動した。
岩陰に行くと、女の子はまだ納得はしていないが、妥協したかのように少しだけ口を尖らせる。
「まあ、いいわ。私を犯すのは気が向いたらでいいとして……」
「……一生、向かないからマジで諦めてくれ」
「昨日の女の子はどこ?」
「女の子? ……ああ、禰豆美か? あいつに何の用だよ?」
「あの子が、私のオークを元の世界に還したんでしょ?」
「あのオークくんはお前のじゃないけどな」
彼は単なる被害者だ。
「まあ、禰豆美が元の世界に戻したってことは間違いないけど、それがどうした?」
「還したってことは、また呼び出せるんじゃない?」
……なかなか機転の利くやつだ。
おそらく、できるだろう。
なんせ、元魔王だからな。
だが、ここでできると言ってしまえば、また付きまとわられることになる。
となれば、取れる手は1つ。
「いや、できない」
「なんで?」
「あいつの能力は元の世界へ還すっていう限定なんだ。逆に呼び出すことはできなんだよ」
「そ、そうなの……?」
よし、ナイス俺。
「じゃあ、私をオークがいる元の世界に還すっていうのはどう?」
「お前の元の世界はここだろうが」
「それなら、やっぱりあんたに無茶苦茶にされるしかないじゃない!」
「諦めればいいだけだろ!」
「夢を諦めろだなんて、随分と残酷なことを言うのね」
「黒武者。お前はもう口を開くな」
なに、良いこと言ったみたいな顔してるんだよ。
余計なことを言って、この場をかき乱すな。
とはいえ、随分と話が脱線しているが、実は俺もこの女の子に会えたら聞きたいことがあった。
「お前が昨日、オークを召喚したっていう魔方陣はどうやって手に入れたんだ?」
「え? 魔方陣? ああ、あれは落ちてきたのよ」
「……落ちてきた?」
「そ。青姦してるカップルいないかなーって思って散歩してたらね」
「……お前は一回、黒武者と一緒に捕まった方がいいと思う」
「ヒラヒラって上から紙が落ちてきたのよ。あんなふうに」
そう言って、女の子が指差した方向を見ると、確かに左右にゆらゆらと揺れながら1枚の紙が落ちてきた。
俺たちは紙のところへ駆けつける。
そして、紙を見ると、確かに魔方陣のようなものが書かれていた。
「これが魔方陣か?」
「ええ。昨日のとは種類が違うけど……」
「なるほど。で、これを使って召喚したと?」
「ええ」
「これって、誰でも使えるものなのか? 例えば、俺とかでも」
「無理ね。ある程度、知識がないと術式が発動するわけないでしょ」
「……ってことは、お前は知識があるってことか?」
「伊達に、10年中二病やってないわよ」
おお……。
随分とベテランさんだな。
ま、俺は15年、ずっと中二病だけどな。
「えーっと、この魔方陣の場合は……」
女の子がなにやら呪文のようなものを唱え始めた。
「……え? ちょっと待て! それって発動するんじゃ!?」
俺が止める間もなく、魔方陣が光り始めた。
そして、またまた西洋ファンタジーの魔物が出現してしまったのだった。