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第57話 事件を解決したその後に

 ……まさか、オークの方が被害者だったとはな。

 俺としたことが、つい見た目で判断してしまった。

 すまん、オークくん。

 無駄に禰豆美に腹パンされるハメになってしまって。


 考えてみれば、とんだもらい事故だったな。


 とはいえ、これで事件は解決……とはいかないだろう。

 この女の子にはまだ聞きたいことがある。


「あの魔方陣は一回限りのものなのに。もうオークを召喚することはできないわ」


 ブツブツとつぶやく女の子に、俺は質問しようと声をかけた。


「ちょっといいか……?」


 その瞬間、ゆらりと揺れながら女の子が立ち上がった。

 そして、ズンと俺の目の前に迫ってくる。


「うおっ……」


 思わずのけぞってしまう俺。


 べべべべ別にびビビってねーし!


 さらに女の子は眼鏡の奥の瞳から殺気を発しながら俺を見てくる。


 この感覚は久しぶりだな。

 黒武者との初対面以来か?


 いや、違うな。

 黒武者にはわりと頻繁に殺気を向けられている。


「な、なんでせう……?」


 おっと、ここは勘違いしてくれるなよ。

 俺はビビって噛んだわけでも、女の子に恐怖を覚えて敬語になったわけでもない。


 初対面の人に敬語を使っただけだ。

 大人の対応ってやつだね。


「あんた、初対面どころか誰に対しても敬語なんて使ったことないじゃない」

「思考を読むなっ!」


 なんだよ、禰豆美といい、黒武者といい。

 人の頭の中を読むのが流行ってんのか?


「……って」

「え?」


 女の子がブツブツと虚ろな目で何かを訴えてくる。


「……責任とって」

「な、なんのだ?」

「私の長年の夢を壊した責任よ! せっかくオークに無茶苦茶にしてもらえるはずだったのに! おかげで何もなく、無事で終わったじゃない!」

「ひ、人はそれを『助けた』と言わないか?」

「私自身がアヘ顔堕ちを望んでたんだから、言うわけないでしょ!」

「いでででで!」


 女の子が俺の両頬を指でつまみ引っ張ってくる。


 くそ! なんなんだよ!

この世界には変態しかいないのか!?


「責任とって、あんたが私を犯しなさいよ!」

「なんでそうなる!?」

「あなたなら、私が眼鏡を外せば、ギリギリ、オークに見えなくもないわ」

「サラッと罵倒するな!」

「つべこべ言ってないで、何も考えず脳死で襲えばいいのよ!」

「何も考えずに人生を棒に振れるか!」


 そもそも俺は3次元に興味はない。

 そんなことをして捕まるなんてまっぴらごめんだ。


「ちょ、ちょっと待て! 人外に襲われたいなら、禰豆美はどうだ? ああ見えて、元は魔族で魔王だったんだ」


俺が禰豆美を指差す。

 すると、女の子はちらりと禰豆美の方を見た。


すまん、禰豆美。

俺のために犠牲になってくれ。


「ふたなりでもない彼女が、どうやって私を犯せるのよ?」

「うっ!」


 痛いところをついてくる。

 意外と冷静なやつだ。


 ちっ、禰豆美に擦り付けるのはダメか。

 なら、ここは勢いで押し切るまでだ!


「黒武者さん、襲ってやりなさい」


 俺は、印籠を持ったご老公のごとく威厳を持ってそう言ってやった。


 さあ、いけ、黒武者!

 お前の唯一の見せ場だぞ!


「無理ね」

「な、なんでだよ?」


 俺の問いかけに黒武者は大きくため息をついた。


「言ったでしょ。私のストライクゾーンは15から16歳。ギリギリ妥協して17歳までよ。彼女は18歳。残念だけど、対象外だわ」

「……なんで、18歳だとわかる?」

「匂いよ」

「……」


 変態ここに極まれり。


 ……ということは、苗代は17歳だったってことか。

 高校3年と言っていたが、まだ誕生日を迎えてなかったということなんだろう。


 それにしても黒武者は意外と貞操観念が固い奴だな。

 面倒くさいこと、この上ない。


「この場で竿付きなのは、あなただけなのよ」


 ギロリと俺を睨んでくる女の子。


「さ、竿って言うな……」


 凄味に押されて、ギリギリそう返すのが精いっぱいだった。


「じゃあ、汁男優ってところかしら?」

「お前はもう黙ってろ!」


 黒武者はまったく俺を助けようとする気配がない。

 本当に役に立たないやつだ。


「はーーーー!」

「うおっ!」


 不意に女の子に押され、俺は尻もちをついてしまう。

 そこを女の子に覆いかぶさられる。


「ちょちょちょ! ちょっと待て!」

「事故に遭ったのだと思って、諦めなさい」


 ヤバい!

 完全に目が座っている。


 くっ、無念だ。

俺はモナ子のものなのに!


 ……ん?

 あれ? ちょっと待てよ。


「覚悟―!」

「これだと、お前は襲われる側じゃなくて、襲う側になってるぞ!?」

「…………はっ!?」


 目を見開き、ヨロヨロと後ろに下がる。

 そして、今度は女の子の方がペタンと尻もちをついた。


「そ、そんな……私としたことが……」

「ふう。……危なかった」


 俺はササッと立ち上がり、距離を置く。


「そんなー! 私は一体、どうしたらいいのよぉおおおお!」


 頭を抱えてむせび泣く女の子。


「ふっ! 俺の勝ちだな」


 俺はそう捨て台詞を吐いて、黒武者と禰豆美を連れてその場をそそくさと後にした。




「おかえりー!」


 浜辺に戻ると、そこには栞奈と真凛が、俺たちの帰りを待っていた。


「……先に旅館に戻ってろって言ったのに」

「だって、おじさんのこと心配だったから」

「すみません。僕がいない間に……」

「気にするな、真凛。こんなときもあるさ」

「で、どんな事件だったの?」


 栞奈がそう聞いてきた。

 俺は説明しようと口を開いたが、言葉が出てこない。


 ……そうえば、なんだったんだろうな。

 今回の事件は。


「いくら、お金をもらったんですか?」


 今度は真凛が聞いてくる。


「あー、いや……」


 オークくん、あっちからお金送ってくれるかな?

 念のため、あとで禰豆美に聞いてみよう。


「とにかく、旅館に戻ろう。一息つきたい」


 ホントにもう、何もしてないのにスゲー疲れた。

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