「な、なんだと!?」
俺は膝に乗っていた禰豆美を降ろし、壁のポスターまで走り寄る。
「ま、まさか。そんな……。こんなことって……」
呆然とする俺の周りに4人がやってくる。
「なになに? どうしたの?」
「このポスターがどうかしたんですか?」
「……水着コンテスト? なんじゃ、これは?」
「水着のコンテストだよ」
……栞奈。
それじゃ、まったく説明になっていないぞ。
「えっと、水着を着た女の子の中で、誰が一番、水着が似合っているかを決めるってものです」
「ほう?」
「……あんた、まさか、出たいの?」
「んなわけあるか! これだよ、これ!」
ビシッとある部分を指差す。
「あー、モナ子だー」
そう。
そこにはなんとモナ子のイラストが描かれていて『優勝者にはモ十子の抱き枕プレゼント!』という文字がデカデカと書かれていた。
「モナ子? 誰じゃ、それは?」
「おじさんが好きなアニメのキャラだよ」
「好き、じゃない! 愛してる、だ!」
間違えないでほしい!
ライクではない!
ラブだ!
というか、俺の推しであり、嫁だ!
「どこかで見たことあると思ったら、正博の家にたくさん置いてたわね」
「あー、触ったら首がもげた人形のやつか」
「おじさん、グッズもすごい持ってるもんね」
「確か、物置にもたくさんありましたよね」
……あれ?
1人、衝撃的なことをサラッと言ってなかったか?
「で? なに? それが欲しいわけ?」
「無論だ! これが欲しくないファンはいないだろう。というか、こんなグッズが出てたなんて知らなかった」
くそ。
最近は色々あり過ぎて、『イチハチ』の情報を追えてなかった。
不覚だ。
嫁であるモナ子に申し訳が立たない。
「……まあ、頑張ればいいんじゃない? あんたなら優勝できるわよ」
ポンと肩を叩いてくる黒武者。
「いや、さすがに自分で出ようとは思ってない。てか、俺はそこまで変人じゃない」
「「「「変人じゃないのっ!?」」」」
「4人全員に、凄い驚かれただと!」
なんだよ、お前ら。
普段、どんな目で俺を見てるんだよ……。
「が、それはさておき……」
本当はさておきたくはないが、話が進まないので諦める。
そして、チラリと黒武者を見る。
普段は着やせするタイプだが、水着になることで実はすごいプロポーションがいいことがわかる。
性格は極悪だが、顔は美人と言っていい。
出てさえくれれば優勝は間違いなさそうだが……。
「出ないわよ」
「ですよねぇ」
次に真凛。
引き締まった体に、ボーイッシュな顔立ち。
マニアには突き刺さりそうだが、水着コンテストとなると心もとない。
次に禰豆美。
真凛以上にマニアを一網打尽にできそうだ。
金髪、ロリ、スク水の3連コンボだからな。
が、同時に犯罪臭が強すぎる。
となると、最後に残された砦は……。
栞奈だ。
ひいき目なしでも、かなり可愛い部類に入るだろう。
クラスの中でも、栞奈のことを好きだというやつは多いはずだ。
だが、しかし。
プロポーションが心もとない。
健康的な細さで、一定の好感度は得られるだろうが、いかんせん、肉付きが足りない。
もう少し、胸、尻、太ももに欲しいところだ。
……俺の腹の肉を分けてあげたい。
とはいえ、現時点のメンバーで戦える人材は栞奈しかいない。
「頼む、栞奈。お前しかいないんだ!」
「……うん。わかった。初めてをおじさんにあげるよ」
「誰もそんなことは頼んでない」
「じゃあ、私がもらうわ!」
「お前は黙ってろ!」
くそ。
黒武者、お前が出てくれればなんてことないのに。
「栞奈。お前なら、きっと優勝をつかみ取ってきてくれると信じてるぞ」
「うん。よくわからないけど、おじさんのために頑張る!」
「うおおおおおお!」
浜辺を駆け抜ける栞奈。
今は3日後の水着コンテストに向けて、特訓している最中だ。
……いや、特訓もなにもないんだがな。
3日後だし。
3日じゃ体型なんか変わらないだろ。
「おじさんのために、やれることをやっておきたいんだ!」
そう、熱く言われてしまったら、止めるなんて野暮なことはできない。
「揉むとおっぱいが大きくなるらしいわよ」
「止めろ!」
両手をにぎにぎとする黒武者を止める。
「はー! 色レンジャー、参上―!」
禰豆美は禰豆美で、1人でポーズの特訓を頑張っている。
もしかしたら、頑張っている栞奈に感化されたのかもしれない。
そして、真凛はというと。
「僕には僕の戦い方がありますから」
そう言って、どこかに行ってしまった。
まあ、迷子になるようなやつでもないし、放っておいても大丈夫だろう。
「……ねえ、正博」
「なんだ?」
「栞奈ちゃんの水着だけど、本番に備えて、もう少し布面積が少ない奴にした方がいいと思うんだけど」
「……お前が見たいだけだろ」
「私が見たいのは栞奈ちゃんの裸だけよ」
「お巡りさん、こっちですー!」
とはいえ、本音を言えば、それも頭をよぎった。
そして、栞奈ならそれを受け入れてくれるだろうことも。
ただ、ここはエロに振るのは悪手だと思う。
それでなくても栞奈は童顔だ。
俺は最初、栞奈を中学生だと思ったくらいだ。
そんな栞奈に対して、エロの方向に振ろうもんなら、優勝どころか失格になって、俺が逮捕されるなんて未来が見える。
なので、ここは逆に、エロではなく、元気な明るい健康的な部分で勝負をしかけるのがいいだろう。
なんなら、もう少し大人しめの水着にしてもいいかもしれない。
「スク水も捨てがたいわよね」
「……頼むから、お前はもうしゃべらないでくれ」
黒武者とそんな会話をしていると、栞奈がポテッと砂の上に倒れこむ。
「うう……。もう限界」
俺たちは栞奈に駆け寄る。
「あまり無理はするな。当日、筋肉痛になって動けなくなったら意味ないだろ?」
「そっか。そうだよね」
「はあ、はあ、はあ……。それじゃ、栞奈ちゃん、あっちで、お姉さんがマッサージしてあげる」
もう変質者のようなセリフになっている黒武者。
「少し早いが、旅館に戻るか」
俺がそう言った瞬間だった。
突然、俺の体が光り始め、そして変身した。
……ああ、そういえば、すっかり忘れてたな。