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第54話 異変の気配

「な、なんだと!?」


 俺は膝に乗っていた禰豆美を降ろし、壁のポスターまで走り寄る。


「ま、まさか。そんな……。こんなことって……」


 呆然とする俺の周りに4人がやってくる。


「なになに? どうしたの?」

「このポスターがどうかしたんですか?」

「……水着コンテスト? なんじゃ、これは?」

「水着のコンテストだよ」


 ……栞奈。

 それじゃ、まったく説明になっていないぞ。


「えっと、水着を着た女の子の中で、誰が一番、水着が似合っているかを決めるってものです」

「ほう?」

「……あんた、まさか、出たいの?」

「んなわけあるか! これだよ、これ!」


 ビシッとある部分を指差す。


「あー、モナ子だー」


 そう。

そこにはなんとモナ子のイラストが描かれていて『優勝者にはモ十子の抱き枕プレゼント!』という文字がデカデカと書かれていた。


「モナ子? 誰じゃ、それは?」

「おじさんが好きなアニメのキャラだよ」

「好き、じゃない! 愛してる、だ!」


 間違えないでほしい!

 ライクではない!

 ラブだ!

 というか、俺の推しであり、嫁だ!


「どこかで見たことあると思ったら、正博の家にたくさん置いてたわね」

「あー、触ったら首がもげた人形のやつか」

「おじさん、グッズもすごい持ってるもんね」

「確か、物置にもたくさんありましたよね」


 ……あれ?

 1人、衝撃的なことをサラッと言ってなかったか?


「で? なに? それが欲しいわけ?」

「無論だ! これが欲しくないファンはいないだろう。というか、こんなグッズが出てたなんて知らなかった」


 くそ。

 最近は色々あり過ぎて、『イチハチ』の情報を追えてなかった。

 不覚だ。

 嫁であるモナ子に申し訳が立たない。


「……まあ、頑張ればいいんじゃない? あんたなら優勝できるわよ」


 ポンと肩を叩いてくる黒武者。


「いや、さすがに自分で出ようとは思ってない。てか、俺はそこまで変人じゃない」

「「「「変人じゃないのっ!?」」」」

「4人全員に、凄い驚かれただと!」


 なんだよ、お前ら。

 普段、どんな目で俺を見てるんだよ……。


「が、それはさておき……」


 本当はさておきたくはないが、話が進まないので諦める。


 そして、チラリと黒武者を見る。


 普段は着やせするタイプだが、水着になることで実はすごいプロポーションがいいことがわかる。

 性格は極悪だが、顔は美人と言っていい。

 出てさえくれれば優勝は間違いなさそうだが……。


「出ないわよ」

「ですよねぇ」


 次に真凛。

 引き締まった体に、ボーイッシュな顔立ち。

 マニアには突き刺さりそうだが、水着コンテストとなると心もとない。


 次に禰豆美。

 真凛以上にマニアを一網打尽にできそうだ。

 金髪、ロリ、スク水の3連コンボだからな。

 が、同時に犯罪臭が強すぎる。


 となると、最後に残された砦は……。

 栞奈だ。


 ひいき目なしでも、かなり可愛い部類に入るだろう。

 クラスの中でも、栞奈のことを好きだというやつは多いはずだ。


 だが、しかし。


 プロポーションが心もとない。

 健康的な細さで、一定の好感度は得られるだろうが、いかんせん、肉付きが足りない。

 もう少し、胸、尻、太ももに欲しいところだ。


 ……俺の腹の肉を分けてあげたい。


 とはいえ、現時点のメンバーで戦える人材は栞奈しかいない。


「頼む、栞奈。お前しかいないんだ!」

「……うん。わかった。初めてをおじさんにあげるよ」

「誰もそんなことは頼んでない」

「じゃあ、私がもらうわ!」

「お前は黙ってろ!」


 くそ。

 黒武者、お前が出てくれればなんてことないのに。


「栞奈。お前なら、きっと優勝をつかみ取ってきてくれると信じてるぞ」

「うん。よくわからないけど、おじさんのために頑張る!」




「うおおおおおお!」


 浜辺を駆け抜ける栞奈。

 今は3日後の水着コンテストに向けて、特訓している最中だ。


 ……いや、特訓もなにもないんだがな。

 3日後だし。

 3日じゃ体型なんか変わらないだろ。


「おじさんのために、やれることをやっておきたいんだ!」


 そう、熱く言われてしまったら、止めるなんて野暮なことはできない。


「揉むとおっぱいが大きくなるらしいわよ」

「止めろ!」


 両手をにぎにぎとする黒武者を止める。


「はー! 色レンジャー、参上―!」


 禰豆美は禰豆美で、1人でポーズの特訓を頑張っている。

 もしかしたら、頑張っている栞奈に感化されたのかもしれない。


 そして、真凛はというと。


「僕には僕の戦い方がありますから」


 そう言って、どこかに行ってしまった。 

 まあ、迷子になるようなやつでもないし、放っておいても大丈夫だろう。


「……ねえ、正博」

「なんだ?」

「栞奈ちゃんの水着だけど、本番に備えて、もう少し布面積が少ない奴にした方がいいと思うんだけど」

「……お前が見たいだけだろ」

「私が見たいのは栞奈ちゃんの裸だけよ」

「お巡りさん、こっちですー!」


 とはいえ、本音を言えば、それも頭をよぎった。

 そして、栞奈ならそれを受け入れてくれるだろうことも。


 ただ、ここはエロに振るのは悪手だと思う。

 それでなくても栞奈は童顔だ。

 俺は最初、栞奈を中学生だと思ったくらいだ。


 そんな栞奈に対して、エロの方向に振ろうもんなら、優勝どころか失格になって、俺が逮捕されるなんて未来が見える。


 なので、ここは逆に、エロではなく、元気な明るい健康的な部分で勝負をしかけるのがいいだろう。

 なんなら、もう少し大人しめの水着にしてもいいかもしれない。


「スク水も捨てがたいわよね」

「……頼むから、お前はもうしゃべらないでくれ」


 黒武者とそんな会話をしていると、栞奈がポテッと砂の上に倒れこむ。


「うう……。もう限界」


 俺たちは栞奈に駆け寄る。


「あまり無理はするな。当日、筋肉痛になって動けなくなったら意味ないだろ?」

「そっか。そうだよね」

「はあ、はあ、はあ……。それじゃ、栞奈ちゃん、あっちで、お姉さんがマッサージしてあげる」


 もう変質者のようなセリフになっている黒武者。


「少し早いが、旅館に戻るか」


 俺がそう言った瞬間だった。

 突然、俺の体が光り始め、そして変身した。


 ……ああ、そういえば、すっかり忘れてたな。

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