今日から色レンジャーとしての、活動の開始である。
栞奈や真凛なんかは、やたらと正式な名前やポーズにこだわっていたということもあってか、テンションが爆上がりだ。
「もうちょっと! もうちょっとだよ!」
「繋がりました! トンネル開通です!」
「おお! やるのう! では、さっそく……」
今も張り切って、砂浜で巨大な砂のトンネルを作っている。
そして、禰豆美がそのトンネルを通過しようと頑張っていた。
……なんでだよ。
色レンジャーの活動はどうした、お前ら。
ほんの1時間前まで正式名称が決まったと言ってはしゃいでただろうが。
俺は当然、今日、帰るのだと思っていたのだが、真凛が「荒稼ぎしていきましょう」と言い出したので、旅館もチェックアウトせずに、外出という形にしている。
荒稼ぎもいいが、昨日みたいなことが起こらないと、5人で旅館に一泊はかなりの出費だ。
当然のように、そう突っ込んだりはした。
が。
「大丈夫! 私、頑張って営業するよ!」
栞奈が両手を握りしめて自信ありげに言うから、俺はそれを信じたというわけだ。
「ぎゃああああ!」
「ああっ! トンネルが崩れた!」
「栞奈さん、禰豆美さんを救出します、手伝ってください!」
で、30分後にこれである。
いや、さすがに1時間くらいは頑張れよ。
とはいえ、俺たちの活動は『困ってる人を助けて恩を着せ、金を巻き上げる』ことなので、そもそも営業ってなんだよ? という話ではある。
結局は医者や弁護士と同じように、困っている人が出るのを待つしかないわけだ。
「カップルを海に突き落として、女の子だけを助けるという方法もあるわよね」
隣に座って、栞奈のことを愛おしそうに見ている黒武者がポツリと言う。
「お前は1回捕まった方がいいと思う」
浜辺は昨日の騒動があったせいか、人が閑散としている……と思いきや、逆に爆増している。
ネットでも巨大カメ事件の映像が流れ、実際に現場を見に来る観光客も多いのだろう。
「正博、一緒に遊ぶぞ!」
全身砂だらけの禰豆美が腕を組んで、俺の目の前で仁王立ちをしている。
その両脇には腕のところが砂だらけの栞奈と真凛がいた。
「いや、遠慮しとく」
それでなくとも上からジリジリと拷問かのように強い日差しを受けて、ダメージを追っているのに、この中で動くだなんて、自殺行為と言っていいだろう。
「えー、なんで? 楽しいよ? あそぼーよ!」
完璧に活動のことを忘れ去っている栞奈が俺の手をグイグイと引っ張ってくる。
なんとかその手を振りほどこうとしているのを見て、真凛がパンと胸の前で手を叩く。
「わかりました。では、ビーチバレーしましょう」
「……なにがわかったんだ? 余計、遊ぼうという気が失せたんだが?」
「あー、でも、ボール、旅館に忘れちゃったよ?」
「む? それはいかんな」
「あ、そうだ! おじさんのブーメランパンツ投げて遊ぼうよ!」
「捕まるわっ! それに、ブーメランは形のことを言ってるのであって、機能的なものは備わってない!」
「とりあえず、脱いでー!」
「話を聞けっ!」
パンツをつかむ栞奈の手を引き剥がす。
「おい! そもそも、困ってる人を探すって目的はどうした!?」
このままでは収集がつかないので、痛いところをついてやった。
「あとで! あとでやるから!」
まるで夏休みの宿題をやったのかと、母親に問いかけられた子供のような返答をする栞奈。
「そう言ってやらないんだから、今、やりなさい!」
「えー!」
すると、今まで黙っていた黒武者がポツリとこんなことを言った。
「あんたがセンサーなんだから、あんたが動かないと意味ないんじゃない?」
「うっ!」
確かに、今回の活動の流れは俺の変身ベルトが困った人を感知し、自動的に変身する。
で、その困った人の困りごとを解決して、金をゲットしようという流れだ。
しまった。藪蛇だったか。
「そうだよ! おじさん! パトロールいこ、パトロール!」
「はあ……」
こういわれてしまっては仕方がない。
俺は不本意ながら立ち上がるのだった。
浜辺で遊んでいる人たちを縫うようにかわしながら、俺たちは進む。
結局、5人で移動しているわけだ。
黒武者あたりは来ないかと思っていたが、ずっと後ろで栞奈のケツを凝視しながら歩いている。
俺はというと、右手は栞奈と手をつながされ、左手は真凛と手をつながされている。
そして、禰豆美を肩車しているという形だ。
うーん。
なんの拷問だ?
暑いこの上ないぞ。
ちなみに、肩車をしている禰豆美はびっくりするくらい軽い。
ほとんど重さを感じないのだ。
こう見えても、禰豆美は元魔王。
おそらく、魔法でも使っているのだろう。
「軽身功という、気功の一種じゃ」
「お前はどんな世界の魔王だったんだよ!? そこは魔法でいいだろ!」
とまあ、結局はただの雑談しながらの散歩になってしまっている。
……なんてことを考えていたら、変身する、なんてこともなく、ひたすら歩くだけになっていた。
「おじさん、喉乾いた」
「僕も少し、疲れちゃいました」
「納豆が食べたいぞ」
「栞奈ちゃんと添い寝したいわ」
若干、2名ほどおかしなことを言ってるが、無視して俺たちは休憩がてら海の家に行くことにした。
海の家は数店あったが、どこも忙しそうだ。
予定外の観光客の多さに、嬉しい悲鳴といったところだろう。
俺たちはかき氷を4つ頼み、シャクシャクと食べているところだ。
こういうところで食べるかき氷って、なんで、こんなに美味いんだろうな。
「……知ってるか? かき氷のシロップって、レモン味、イチゴ味、メロン味ってあるけど、色が違うだけで全部同じ味なんだぞ」
「えー! そうなの?」
「知りませんでした」
「目を瞑って食べてみればわかるらしい」
「ホント? 真凛ちゃん、一口ずつ食べよ」
「そうですね」
そして、栞奈と真凛は目を瞑って、お互いのかき氷を食べ始める。
「あー、ホントだ!」
「すごい、同じ味です」
……まあ、栞奈も真凛も同じイチゴ味だから、同じ味なのは当たり前だけどな。
そして、俺の膝に乗ってかき氷を食べている禰豆美が見上げながら言う。
「納豆味もか?」
「……そんな味のシロップはない」
そんなやり取りをしている中、俺はふと、壁に貼ってあるポスターが目に入った。
「え? えええ!?」
俺は思わず、大声をあげてしまったのだった。