朝ごはんを食べた後、俺たちは一旦、部屋に戻った。
で、まだチェックアウトには時間があるから、風呂に入っておこうということになる。
朝風呂なんて、いつ以来だろうか?
下手をすると、人生初という可能性がある。
朝は夜と違って、人が少ない。
なんとなく貸し切りのような気分になって、心地いい。
……今回は旅館に泊まって正解だったな。
5人分の旅館代となれば、結構、出費的には痛かったが、それを上回るほどの満足感がある。
……また、みんなで来たいな。
そう考えている自分に、俺自身が驚く。
1ヶ月前までは1人でいることが何より楽で楽しいと思っていた。
朝に寝て、深夜に起きる。
母親に命を狙われながらも、こそこそと飯を食い、アニメとゲームで時間を潰す日々。
確かにあれはあれで楽しかったと思う。
でも、今は今で前とは違った楽しさがある。
あのとき、母親に殺されて……いや、自爆か。
事故で死んで、女神に会って、無理やり転生させられた。
最初は嫌だったが、今ではそんなことを思うことはなくなった。
下手をすれば、女神に感謝さえしてしまいそうになる。
本当に、あいつらに会えてよかった。
「ふう。いい湯だった」
いい気分で部屋のドアを開ける。
「……」
そこには変身した4人がいて、こっちを見ていた。
前言撤回。
俺はこいつらと出会ったことに深く絶望した。
「結果はっぴょ~!」
栞奈が右手を振り上げた。
俺は変身した4人の輪に入らされ、座らされている。
4人は変身したままだ。
もちろん、俺は自分の意志で変身できないから、浴衣姿のままである。
自分の意志で変身できないことをよかったと思ったのは初めてだ。
栞奈以外が座っていて、栞奈がリーダーのように立っているという構図になっている。
「……で? 結果って、なんの結果だ?」
「ふっふっふ! 昨日の夜、夜通し話し合った結果だよ」
「まさか、新しいポーズでも考え出したとかか?」
「あ、それもある」
「……あるのか」
やだなぁ。
栞奈たちが考えるポーズって独特過ぎて、体勢を維持するのがキツイんだよな。
「そ、れ、よ、り、も! 大事なことがあるでしょ?」
「大事なこと?」
「ほら、私たちは以前の私たちじゃないんだよ?」
「ん? んー。変態度が増した、とかか?」
「それはおじさんだけでしょ!」
……いや、なんでだよ。
俺はこの中では一番マシだと自負してるんだが?
「もう! ダメだなぁ。正解は、メンバーがそろったってこと!」
「……ああ。禰豆美が加わったってことか」
「そうそう。それそれ。戦隊といえば5人でしょ? 色も揃ったし」
「……普通はグレーなんて色の戦隊はいないけどな」
「で、5人揃ったってことは、今まで先延ばししていたことを決められるってことだよ!」
拳をぶるぶると震わせている栞奈。
何やら、悔しそうだ。
「もう、まるまる戦隊なんて格好悪い名前を使わなくて済むんだから!」
「言わなきゃいいだけだったんじゃないか?」
「……」
黙ってしまう栞奈。
「お主はわかっておらんのう」
はー、やれやれといった感じで、ため息交じりに禰豆美が言う。
「よいか? 名乗りというのはロマンじゃ! たとえ、名前が決まってなかったとしても、出動するときに名乗るのは必須! それが男のロマンというものじゃ!」
「そうだよ! 男のロマン! ねずっち、いいこと言った!」
「お前らは女だけどな……」
こほんと真凛が咳払いをする。
「話が逸れてます。戻しましょう」
「そうだった。もう、おじさんは~! そういうとこだぞ!」
なんか、俺が悪いことになった。
実に理不尽。
「じゃあ、もう一回最初からやるね」
栞奈は拳を握って身をかがめる。
そして、大きく拳を突き上げた。
「結果はっぴょ~!」
「……そこからやらんでもいいだろ」
「真凛ちゃんとねずっちと私で、一晩中考えて、すっごい名前を思いついたんだよ」
「……ほう」
全然、期待はしてない。
してはないが、ここは話を進めるために相槌を打っておく。
「それは……」
やけにもったいぶる栞奈。
余程、自信があるのだろうか。
「色レンジャーだよ!」
……思った以上にダサかった。
「いや、待て待て。そこはカタカナで統一させろよ。色を英語にするとかさー」
「それだと、某漫画のキャラクターに被ってしまいます」
的確な突っ込みを入れてくる真凛。
あー、そっか。
ありましたね。その名前。
「けど、なんで色なんだ?」
「え? だって、私たち、みんな、色ついてるでしょ?」
「戦隊ヒーローなら、全員ついてるだろ!」
「っ!?」
絶句してしまった。
栞奈だけではなく、真凛も禰豆美も。
いや、一晩時間あって、誰も気づかなかったのかよ!?
「さっきから聞いてるけど……」
今まで黙ったままの黒武者が口を開く。
「あんた文句しか言ってないじゃない」
「うっ!」
「あんたが寝てる間、栞奈ちゃんたちは必死で考えてたのよ?」
「お、おう……」
確かにそうだ。
俺はすぐに呑気に寝てしまっていた。
その間に、栞奈たちは必死に考えてくれていたのに。
「栞奈、真凛、禰豆美。俺が悪かった。ごめん」
「ううん。いいよ」
「気にしてません」
「ぶん殴らせてくれ」
……1人だけ許してくれなかった。
まあ、最初に酷いことを言ったのは俺だからな。
甘んじて受けよう。
変身したときに。
「じゃあ、私たちは今日から、色レンジャーとして活動していくよー!」
「はい!」
「うむ!」
「そうね」
「……あ、名前はそのまま行くんだ?」
こうして、俺たちはようやく5人集まり、色レンジャーという名の、戦隊ヒーローを結成したのだった。