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第52話 結成!色レンジャー

 朝ごはんを食べた後、俺たちは一旦、部屋に戻った。


 で、まだチェックアウトには時間があるから、風呂に入っておこうということになる。


 朝風呂なんて、いつ以来だろうか?

 下手をすると、人生初という可能性がある。


 朝は夜と違って、人が少ない。

 なんとなく貸し切りのような気分になって、心地いい。


 ……今回は旅館に泊まって正解だったな。


 5人分の旅館代となれば、結構、出費的には痛かったが、それを上回るほどの満足感がある。


 ……また、みんなで来たいな。


 そう考えている自分に、俺自身が驚く。


 1ヶ月前までは1人でいることが何より楽で楽しいと思っていた。

 朝に寝て、深夜に起きる。

 母親に命を狙われながらも、こそこそと飯を食い、アニメとゲームで時間を潰す日々。


 確かにあれはあれで楽しかったと思う。

 でも、今は今で前とは違った楽しさがある。


 あのとき、母親に殺されて……いや、自爆か。

 事故で死んで、女神に会って、無理やり転生させられた。


 最初は嫌だったが、今ではそんなことを思うことはなくなった。


 下手をすれば、女神に感謝さえしてしまいそうになる。


 本当に、あいつらに会えてよかった。




「ふう。いい湯だった」


 いい気分で部屋のドアを開ける。


「……」


 そこには変身した4人がいて、こっちを見ていた。


 前言撤回。


 俺はこいつらと出会ったことに深く絶望した。




「結果はっぴょ~!」


 栞奈が右手を振り上げた。


 俺は変身した4人の輪に入らされ、座らされている。

 4人は変身したままだ。


 もちろん、俺は自分の意志で変身できないから、浴衣姿のままである。


 自分の意志で変身できないことをよかったと思ったのは初めてだ。


 栞奈以外が座っていて、栞奈がリーダーのように立っているという構図になっている。


「……で? 結果って、なんの結果だ?」

「ふっふっふ! 昨日の夜、夜通し話し合った結果だよ」

「まさか、新しいポーズでも考え出したとかか?」

「あ、それもある」

「……あるのか」


 やだなぁ。

 栞奈たちが考えるポーズって独特過ぎて、体勢を維持するのがキツイんだよな。


「そ、れ、よ、り、も! 大事なことがあるでしょ?」

「大事なこと?」

「ほら、私たちは以前の私たちじゃないんだよ?」

「ん? んー。変態度が増した、とかか?」

「それはおじさんだけでしょ!」


 ……いや、なんでだよ。

 俺はこの中では一番マシだと自負してるんだが?


「もう! ダメだなぁ。正解は、メンバーがそろったってこと!」

「……ああ。禰豆美が加わったってことか」

「そうそう。それそれ。戦隊といえば5人でしょ? 色も揃ったし」

「……普通はグレーなんて色の戦隊はいないけどな」

「で、5人揃ったってことは、今まで先延ばししていたことを決められるってことだよ!」


 拳をぶるぶると震わせている栞奈。

 何やら、悔しそうだ。


「もう、まるまる戦隊なんて格好悪い名前を使わなくて済むんだから!」

「言わなきゃいいだけだったんじゃないか?」

「……」


 黙ってしまう栞奈。


「お主はわかっておらんのう」


 はー、やれやれといった感じで、ため息交じりに禰豆美が言う。


「よいか? 名乗りというのはロマンじゃ! たとえ、名前が決まってなかったとしても、出動するときに名乗るのは必須! それが男のロマンというものじゃ!」

「そうだよ! 男のロマン! ねずっち、いいこと言った!」

「お前らは女だけどな……」


 こほんと真凛が咳払いをする。


「話が逸れてます。戻しましょう」

「そうだった。もう、おじさんは~! そういうとこだぞ!」


 なんか、俺が悪いことになった。

 実に理不尽。


「じゃあ、もう一回最初からやるね」


 栞奈は拳を握って身をかがめる。

 そして、大きく拳を突き上げた。


「結果はっぴょ~!」

「……そこからやらんでもいいだろ」

「真凛ちゃんとねずっちと私で、一晩中考えて、すっごい名前を思いついたんだよ」

「……ほう」


 全然、期待はしてない。

 してはないが、ここは話を進めるために相槌を打っておく。


「それは……」


 やけにもったいぶる栞奈。

 余程、自信があるのだろうか。


「色レンジャーだよ!」


 ……思った以上にダサかった。


「いや、待て待て。そこはカタカナで統一させろよ。色を英語にするとかさー」

「それだと、某漫画のキャラクターに被ってしまいます」


 的確な突っ込みを入れてくる真凛。


 あー、そっか。

 ありましたね。その名前。


「けど、なんで色なんだ?」

「え? だって、私たち、みんな、色ついてるでしょ?」

「戦隊ヒーローなら、全員ついてるだろ!」

「っ!?」


 絶句してしまった。

 栞奈だけではなく、真凛も禰豆美も。


 いや、一晩時間あって、誰も気づかなかったのかよ!?


「さっきから聞いてるけど……」


 今まで黙ったままの黒武者が口を開く。


「あんた文句しか言ってないじゃない」

「うっ!」

「あんたが寝てる間、栞奈ちゃんたちは必死で考えてたのよ?」

「お、おう……」


 確かにそうだ。

 俺はすぐに呑気に寝てしまっていた。


 その間に、栞奈たちは必死に考えてくれていたのに。


「栞奈、真凛、禰豆美。俺が悪かった。ごめん」

「ううん。いいよ」

「気にしてません」

「ぶん殴らせてくれ」


 ……1人だけ許してくれなかった。


 まあ、最初に酷いことを言ったのは俺だからな。

甘んじて受けよう。

 変身したときに。


「じゃあ、私たちは今日から、色レンジャーとして活動していくよー!」

「はい!」

「うむ!」

「そうね」

「……あ、名前はそのまま行くんだ?」


 こうして、俺たちはようやく5人集まり、色レンジャーという名の、戦隊ヒーローを結成したのだった。

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