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第51話 四人目

 灰色の全身スーツのフルフェイスメットの子供が、そこにいた。


 なんか、シュールを通り過ぎて怖い。

 このスーツのフォルムって見慣れてたと思ったんだけど、色って大事なんだなぁ。

 赤、黄、青は、そんなに違和感はなくなってたんだけどね。


 ……グレーか。


 地味な色んだんだけどな。

 逆にその地味な色が、異様さを引き立ててるのか?


 それは、鏡でピンク色のスーツ姿の俺を見たとき以来の衝撃的映像だった。


「おおっ! 変身じゃ変身じゃ!」


 ピョンピョンと嬉しそうに跳ね回っている禰豆美。

 それは新しいおもちゃを与えられた子供のようなはしゃぎようだ。


 ……そのままだな。

 新しいおもちゃをもらった子供だ。


「って、ちょっと待て、女神!」

「なんですか~?」

「なんでグレーなんだよ? もう少し、ほら、あるだろ!? 緑とか黒とかさ!」

「でも~、『灰』薔薇『禰豆美』ですよね~? これはもうネズミ色しかないですよ~」


 いや、お前、今まで名前とかで色決めてなかったじゃん。

 じゃあ、なんで黒武者は黒じゃなくて赤なんだよ?

 あれか? 狂暴的な印象から赤にしたのか?


「今ならまだ間に合う。緑に変えて……ぎゃああああああ!」


 いきなり腹のベルトが締まる。


「面倒くさいです~」


 ブツッという音がした後、ピタリと女神の声が途切れた。

 そして、ベルトの締めも収まり、緩くなる。


「はあ……。なんか、もういいや」


 ドッと疲れた。

 まあ、そのうち見慣れるだろ。

 俺のピンクみたいに。


「ねずっち、可愛い!」

「禰豆美さん、格好いいです!」

「うむ! そうじゃろ、そうじゃろ!」


 いつの間にか、栞奈と真凛も変身して禰豆美と遊び始めた。


 元気な奴らだな。

 まあ、楽しいようでなによりだ。


「はあああ! ラ〇ダーキックじゃ!」


 3人はテンションが上がったせいか、ごっこ遊びを始める。

禰豆美が栞奈にローキックを放った。


 色々と間違ってるぞ、禰豆美。

 てか、そんなのどこで覚えてくるだよ?


「やるなぁ! こっちはウル〇ラビームだー! ビビビビビ!」

「ぎゃああああ! やられたのじゃ~!」


 体を震わせて、倒れる禰豆美。


「禰豆美さんの仇です! こっちはゴ〇ラです! がああああ!」

「うわわ! 火を吐くなんて卑怯だよー!」


 ……せめて戦隊ヒーローごっこにしろよ。

 その恰好、意味ね―じゃねーか。


 まあ、いい。寝るか。


 俺は布団の中に潜り込もうとする。

 すると、妙に神妙な顔をした黒武者が、なにやら考え事をするように顎に手を当てていた。


「どうした、黒武者? 悩み事か?」

「触手で襲うなら、バトルスーツと水着、どっちの時がいいのかしら?」

「知らねえよ!」


 てか、お前、触手出せねーだろ。


 俺は壁際の布団に入って、目を瞑った。


 栞奈たちがちょっとうるさかったが、疲れていたせいか俺はすぐに眠りに落ちていったのだった。




「もっとこうだよ!」

「こうかっ!?」

「足をピーンとするんです!」

「ふむ、こうじゃな!」


 朝。

 スズメの鳴き声ではなく、栞奈たちの声で目を覚ます。

 起き上がると、栞奈、真凛、禰豆美は変身した状態でポーズを決めていた。

 黒武者は俺とは逆方向の壁際ですやすやと眠っている。


「お前ら、早起きだな……」


 欠伸をしながら言うと、栞奈は首を傾げた。


「早起き? 起きてないよ?」

「……何言ってんだ?」

「僕たち、寝てないんです」

「夜通し、話し合ってたのじゃ」

「……あ、そう」


 徹夜か。

 ある意味スゲーな。

 若さってやつか。


 羨ましいとは全然思わんが。


 時計を見ると朝の8時。

 実に健康的な生活サイクルだ。


「そろそろ、朝飯食べに行くか」

「うん! 私、お腹ペコペコ」

「僕もです」

「儂もじゃ!」


 せっかく旅館に泊まっていて、朝食が出るんだ。

 食べておかないと勿体ない。

 久しぶりにカップ麺以外のものも食べたいしな。


「よし、栞奈。黒武者を起こしてやれ」

「はーい!」


 トタトタと黒武者のところまで走っていく栞奈。


「クロちゃん、起きて―! 朝ごはんだよー!」

「え? いいの!? いただきます!」


 カッと目を見開いた黒武者が栞奈を押し倒し、布団の中に引きずり込む。


「きゃあああー!」


 栞奈の悲鳴が響く。


「朝から、なにやってんだー!」


 俺は慌てて栞奈を救出するため、走った。




「いただきます!」


 テーブルにつき、5人で手を合わせる。


 朝食はバイキングスタイルだった。

 各々が好きなものを取っている。


 栞奈はパンにミートボールやウィンナーなどの肉系が中心。

 真凛はパンとスクランブルエッグ、サラダなど、あっさり系。

 黒武者はごはんに鮭、みそ汁など、オーソドックスな和食。

 俺はごはんにミートボール、ウィンナーなのどの和食と肉系。


 そして、禰豆美というと……。


「うむ! これは美味じゃ! 美味すぎるぞ!」


 パンに納豆を乗せて、ジャムをかけてかじっている。

 無我夢中で食べているさまは……なんていうか、引く。


 ……食欲失せるなぁ。


「このスープも美味いな!」


 みそ汁をゴクゴクと飲む。


 まあ、好みは人それぞれ。

 本人が美味しいというのなら、それでいいだろう。

 他人が口を出すことじゃない。

 自分の嗜好を他人に押し付けることほど、迷惑なものはないからな。


「正博、食べるか?」


 禰豆美がパンに納豆とジャムが乗ったものを差し出してくる。


「……いや、いい」

「食え」

「命令っ!?」

「美味いぞ!」


 にっこりと笑う。


 そんな無邪気な笑顔をされると、ワンチャン、実は美味いのか? と思ってしまう。


 俺は試しに食べてみる。



 ……まずかった。

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