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第49話 旅館に泊まろう

 危険。


 禰豆美が腕を組みながら、巨大カメを見上げている。

 その姿はロリながら、貫禄があった。


 さすがは元魔王といったところだろうか。


「ところで、あのカメが危険ってどういうことだ?」

「カメという生物は本来、あれくらいデカいのか?」

「え?」


 禰豆美に言われて、俺はようやくその異常事態に気づく。


 確か、カメの大きいものでも2メートルもないくらいだったはず。

 それが倍以上の大きさ、というか俺よりもはるかにデカいのは明らかにおかしい。


 ……なんで気づかなかったんだ?


 まあ、これに対しては言い訳させてほしい。

 最初はてっきりサメだと思ってたというのがある。

 サメならデカいのは、本当にデカいだろ?


 正直、ジョ〇ズのサメを思い浮かべてたからさ。


 それと比べれば、5メートルのカメなんて小さいだろ?


「……禰豆美の言う通り、あれは異常にデカい。デカすぎると言っていい」

「ふむ。じゃろうな」

「……原因、わかるのか?」


 カメを睨みつけて、けん制している禰豆美に問いかけると、その答えは後ろから聞こえてくる。


「きっと、興奮してるんだよ! 興奮したらカメはおっきくなるって聞いたことあるよ! ね? 真凛ちゃん?」

「平均で言うと長さは約1、45倍で、太さは……」

「お前らはマジで黙ってろ!」


 ホント、やめて。

 もっと後ろで子供とかも見てるからさ。


「話を戻して、2倍以上の大きさに育つのは、突然変異だったとしてもおかしい気がするんだよな」

「……魔力を感じるな」

「魔力? あのカメからか?」

「うむ。おそらく、変異の魔法を使ってるんだと思うぞ」

「そんな便利な魔法があるのか?」

「儂は使えんがな」

「そうなんだ?」

「使えてたら、かっぷめんをデカくしておったわ」

「あー、なるほどな」


 というやり取りをしていて、俺はまたまたハッとする。


 いや、待て。

 違うだろ。大事なところを流すところだった。


「いやいや、お前が魔法を使ってないなら、誰が使ってるんだよ?」

「儂に言われてもな。近くに魔族がおるんじゃろ」

「……え? ちょっと、待て。何言ってるんだよ?」

「む? 何かおかしいこと、言ったかのう?」


 首を傾げる禰豆美。


 ……そうか。

 考えてみれば、禰豆美も他の世界からの転生者だ。

 禰豆美の他にも転生者がいてもおかしくない。


「……お前の他にもいるんだな? 転生者が」

「この世界で魔法が一般的でないのなら、そうなるじゃろうな」

「くそ。おい、女神!」

「待つんじゃ、正博。まずはあのカメを何とかするぞ」

「え? あ、そうだな」


 長々と会話しているのに、カメが襲い掛かって来なかったのは、カメが空気を読んでいたわけではないだろう。

 おそらく、禰豆美がにらみを利かせていたから、動けなかったんだと思う。


「儂が魔法でけん制するから、お主が止めを刺せ」

「あー、すまん、禰豆美」

「なんじゃ?」

「えっと、魔法は禁止でお願いできないか?」

「なぜじゃ?」

「ほら、その……後ろで、いろんな人が見てるからさ」

「……ふむ。面倒くさいが、まあいいじゃろ」


 そう言うと同時に、禰豆美がカメに向かって走り出す。


 カメは再び、頭と手足を引っ込めてしまう。

 そして、今度はその場で回転を始めた。


 ちっ!

 器用なカメだ。


 禰豆美はそのままカメに向かって走り、直前でカメの下に潜り込んだ。


 ドンという鈍い音が響く。


 するとカメが上に向かって弾かれるようにして飛ぶ。

 禰豆美が下からアッパーカットをするように、殴りつけたのだ。


 そして、カメは仰向け状態で落ちる。

 カメは慌てて頭や手足を出して、もがき始めた。


「正博!」

「おう!」


 止まってさえいれば、俺の敵ではない。

 俺は甲羅に向かって全力でパンチを繰り出す。


 すると甲羅にヒビが入っていき、そして、パリンと割れてしまった。


 中から出てきたのは手のひらサイズの小さなカメだった。


「これが本体か?」

「そうじゃろうな」

「こんな小さいカメが、あんなに大きくなったのか……」


 と、そのとき、後ろからワーッと歓声が上がった。

 化け物のようなカメが退治され、観光客が喜んでいる。


 その光景を見て、俺は慌てて海へと飛び込む。


 案の定、俺の変身が解けた。


 ……あぶねえ。

 危うく招待というか顔が割れるところだったぜ。


 俺はそのままこそこそと泳いで、岩陰へと向かったのだった。




「30万をゲットしました」


 俺と禰豆美が巨大カメを倒した後、真凛は見ていた観光客と自治体からお金を集めてきていた。


「いや、ホント、こういうところはすごいな、真凛は」


 そう言って、頭を撫でてやると真凛が嬉しそうにほほ笑む。


「にしても、なんか疲れたな」

「せっかく、軍資金もできたことだし、泊まっていかない?」


 黒武者が旅館を指差す。


「そうだな」

「わーい! 旅館だー!」


 こうして、俺たちは打ち上げを兼ねて、海の近くの旅館に一泊することにしたのだった。




 その後は何というか、平穏無事な時間が過ぎていく。

 旅館の料理を食べ、風呂に入って、部屋のテレビを見ながらみんなでゴロゴロする。


 なんというか、修学旅行みたいな雰囲気だ。


 まあ、俺の修学旅行の思い出はトラウマ級に嫌なことしかなかったが。


 なんにしても、みんながくつろいでいるようでよかった。


「じゃあ、そろそろ枕投げでもする?」


 栞奈がウキウキしたような目をして、枕を握りしめている。


「お前はいつの時代の人間だよ。んな、面倒なこと、するわけないだろ」

「えー! 面白くなーい!」


 ブーブー文句を言っているが、旅館内で暴れるわけにもいかない。

 隣の部屋から苦情が来てしまう。


「とにかく、今日は疲れた。もう寝るぞ」


 俺はそう言って、就寝に流れを持っていこうとした。


 ――が。


「正博、ちょっと待つのじゃ。女神とやらに話があるんじゃが」


 禰豆美が真剣な顔をして、俺の提案に待ったをかけたのだった。

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