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第48話 海にいる脅威

 必死に監視員が拡声器で声を張り上げるが、誰一人聞いている様子はない。


 座っていた黒武者が立ち上がり、海で遊んでいた栞奈、真凛、禰豆美も俺のところへ集まってくる。


「お兄さん、何があったんですか?」

「わからん!」

「なにやら、海で異変が起こったようじゃな」

「この騒ぎ様からして、何か出たな」

「海で出るものっていったら……」


 栞奈が恐怖におびえるような表情をして、俺にぴったりとくっ付いてくる。


 そう。

 夏の海で出るもの。

 そして、ここまで観光客たちが恐怖し、この場を混乱に陥れるものと言えば……。


「……メだ! 海か……メが出……ぞぉー!」


 男が叫びながら浜を走っている。

 だが、周りの騒音でその声も掻き消えていく。


 それでも、そこまでのキーワードが聞ければ問題ない。


 海に現れる〇メと言えば一つしかないだろう。


「確かに危険だと思うけど、浜辺まで上がってくれば、安全よね?」


 黒武者が眉をひそめながら言う。

 確かに、誰かが襲われたというのであれば、救助隊は海へと入っていくだろうし、野次馬たちは浜辺に残って、状況を見守るはずだ。

 だが、今はその浜辺からも逃げ出していっている。


 どういうことだ?


 俺がそう思っていると横にいる栞奈が力説してくる。


「今どきのは、宇宙にだっていけるから!」

「……それは映画だけの話だ」


 とはいえ、原因がはっきりしているならかえってやりやすい。

 さっさと海に入って、ぶっ飛ばせばいい。

 どうせ、俺が変身した原因となったものは、海の中にいるはずだ。


 俺が海に向かって歩き出すと、後ろの2人に腕をつかまれる。


 きっと心配して止めたのだろう。


「大丈夫だ。今の俺なら5秒で沈められる」


 そう言って振り向くと、栞奈、真凛、黒武者が変身していた。


「おじさん、出撃のポーズを忘れてるよ!」

「……別にいらなくね?」

「ダメです! 僕たちのことをアピールするチャンスなんですよ!」

「いやあ、アピールするのは逆に危険っていうか……」

「じゃあ、いくよ、おじさん!」


 俺は大きくため息を吐く。

 きっとポーズを決めないと手を放してくれないだろう。

 仕方がないから付き合ってやることにする。


「まるまるレンジャー! 見参!」


 栞奈、真凛、黒武者がポーズを決める。

 もちろん、俺も。

 しかし、すぐに真凛がポーズを解いて、首を傾げた。


「……出動だったと思うんですが」

「あれぇ? そうだっけ?」

「あと、腕の角度が違いますよ。あと5度上です」

「でも、こっちの方が可愛くない?」

「求めるべきところは可愛さではなく、派手さです」


 なぜかこの場におよんで揉め始める栞奈と真凛。


 ……グダグダじゃねーか。


「……早く行って来たら」


 黒武者が顔を背け、腕で体を隠すような仕草をしている。

 恥ずかしいなら、変身しなければいいのに。


「じゃあ、行ってくる」


 俺は海へと向かって歩き出す。

 そして、俺は歩きながら考える。


 海にいるやつは秒殺できる。

 5秒もあればお釣りがくるだろう。


 だが、問題はその後だ。


 ……俺は泳げない。


 もし流されて沖の方へ行ってしまったらヤバい。

 溺れ死んでしまう。

 できれば、浜の近くで戦いたい。


 ……おびき寄せられるかが勝負だな。


 そう思いながら波打ち際に立つ。


 すると海の中から巨大な影が現れた。


 5メートルを超える大きな体躯。


 そう。

やつの正体は――。


――カメだ。



「いや、サメだろ、ここはっ! なんだよ、カメって!」


 ……思わず突っ込んでしまった。

 いや、突っ込まずにはいられなかった。

 カメに。


 だが、そんな油断した俺を、カメが頭……ヘッドバットして来る。


 それが、もろに腹にヒットし、俺は後ろへと吹っ飛ぶ。


「おわあああ!」


 3メートルくらい後ろに吹っ飛ばされ、大の字に倒れる。

 ちょうど、栞奈たちがいたところまで飛ばされてしまった。

 まったく痛くはないが、少しびっくりした。


「……亀が頭で攻撃してきたね」

「亀頭ですね」

「人がせっかく濁したのに、みなまで言うんじゃねえっ!」


 俺はすぐさま起き上がり、カメを見た。

 もう色々と危険なので、亀ではなくカメで統一することにする。


「大丈夫! おじさんのカメも負けてないよ!」

「止めんかっ!」


 なんでこいつらは俺の戦闘意欲を削ぐんだ。

 邪魔するなよ。


「すぐ終わらせる。お前らは下がってろ」


 俺は再び、カメの元へ行き、対峙する。


 今度は、油断はしない。

 一撃で決めてやる。


 俺はジリと間合いを詰め、奴の頭……顔面に向かって拳を振るう。


 が、しかし。


 シュッと音を立てて、奴は顔を引っ込める。


 そう思った瞬間だった。


 今度は手足を引っ込めた状態でこっちに向かって滑ってくる。


「ノコ〇コの甲羅かよ! って、しまった!」


 突っ込んだせいで、動きが鈍ってしまう。


 やべえ、避けれん。


「ほげぇー!」


 俺はカメの甲羅の直撃を受け、再び、3メートルほど吹き飛ばされる。


「お帰り、おじさん」

「……ただいま」


 俺はすぐにスクッと立ち上がる。


 カメのくせになかなか動きが速い。

 これは手ごわいな。

 ……どうする?


「いいなぁ。おじさん、無限できるじゃん」


 栞奈が口を尖らせて悔しそうな顔をする。


「……頼むから、これ以上、危険な発言をしないでくれ」


 俺もさっき言っちゃったけどさ。

 今流行ってるからって、見逃してもらえないかもしれないんだぞ。


 とはいえ、遊んでる場合じゃない。

 いくらチートの攻撃力を持っていても、当たらなければ意味がない。


 俺の脳裏に赤い人が過ぎる。

 カメとは思えない動き。

 通常のカメの3倍は早い。


 ……通常のカメの動きはあんま知らんけど。


 とにかく、攻撃あるのみか。


 俺が拳を握ったときだった。


「あれは危険じゃぞ」


 そう言って隣に来たのは、ずっと神妙な顔をしてシリアスモードを貫いていた禰豆美だった。

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