目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第46話 5人でお昼ご飯

 栞奈や真凛もさすがに疲れていたのか、昼を過ぎても俺を起こしてくることもなく、寝続けていた。

 なので、俺も起きる気はなかった。


 今日はダラダラ寝られそうだな。


 そう期待していたが、その考えはあっさりと裏切られた。


「正博。腹が減ったぞ」


 ゆさゆさと体を揺らされる。

 目を開けると、目の前には金髪の幼女である禰豆美がこっちを覗き込んでいた。


「あー。キッチンにカップ麺があるから、適当に食っていいぞ」

「かっぷめん?」


 禰豆美が首を傾げる。


 ……ああ、そうか。

 禰豆美は元々魔王だ。

 というより、この世界の者じゃなかったから、カップ麺なんて言われてもわかるわけがない。


 起きるか。


 上半身を起こして左右を見る。

 思った通り、栞奈、真凛、黒武者はまだ寝ている。


 俺は禰豆美の手を取り、3人を起こさないようにそっと部屋を出た。


 余談だが、この部屋は昨日、禰豆美が無理やり2つの部屋を繋げたため、ドアが2つあるという不思議な構造になってしまった。



「この中から好きな物を選んでいいぞ」


 カップ麺が入った段ボールを禰豆美の前に置く。


「ふーむ。よくわからん。正博が選んでくれ」

「まあ、そりゃそうか」


 俺はカップ麺初心者の禰豆美にはオーソドックスなものが良いと思い、ドリアン味のものを選んでやった。


 ……誰が買ったのか知らないが、こんなん、誰も食わんだろ。

 この際だから禰豆美に消費していただこう。


 お湯を沸かしてカップ麺に注ぐ。

 ドリアンの何とも言えない、微妙な臭いがキッチンの中に充満する。


 ……よくこれを商品化しようと思ったよな。


 禰豆美は右手にスプーン、左手にフォークを握った状態でジッとカップ麺を見ている。


 そして3分が過ぎ、蓋を開けてやった。


「ほら、できたぞ」

「うむ! 美味そうじゃ! ……熱いっ!」


 禰豆美は手を突っ込んで麺を掴もうとした。


「いや、なんでだよ。さっきまで、フォークとスプーン持ってたじゃねーか」

「使い方がわからん」

「……あー、なるほど」


 そういえば、昨日は餌付けされる雛鳥のごとく、栞奈に食べさせてもらっていたな。

 しょうがない。


 俺は箸を出して禰豆美に渡す。


「ほう? これは昨日、栞奈が使っていたものじゃな?」


 禰豆美は箸を受け取ると、完璧な握り方で麺を掴み、啜り始めた。


 ……フォークを使えないくせに、なぜ箸を使える?

 ちなみに栞奈は少し変な握り方をしていた。


「おお! 美味じゃ! 美味じゃ! こんな美味い物は初めてじゃぞ!」


 上機嫌でズルズルと食べている禰豆美。


 ……マジで?

 合うの? ラーメンとドリアンって。


 そこまで美味しそうに食べられると、ちょっとだけ興味が出てくる。


「禰豆美。一口もらってもいいか?」

「む? よいぞ」


 スッとカップを渡してくる。

 受け取って、一口食べてみた。


「おえっ!」

「な? 美味いじゃろ?」


 ……今、俺、えずいたよな?

 どこをどう見たら美味しいことに同意したと思えたんだ?


 それにしてもビックリするくらいのマズさだ。

 魔王の舌は人間のものとは構造が違うらしい。


 俺がカップを禰豆美に返すと再び、物凄い勢いで食べ始める。

 本当は俺も1個、カップ麺を食べようと思っていたのだが、完全に食欲が失せてしまった。


「ぷはー! 美味かったぞ!」

「よかったな」

「作ったシェフを呼べ!」

「……お前、そういうの、どこで覚えたんだ?」


 知識に偏りがあり過ぎる。

 シェフを呼べ、なんて俺は一度も言ったことがないんだが。


 そのとき、遠くからトントントンと階段を降りてくる音がした。

 ガチャリとドアが開き、栞奈が入ってくる。


「あー! 私のドリアンラーメンが!」

「……お前が買ったのか」

「うわーん! 楽しみにしてたのにぃ!」

「そ、そうじゃったか。それはすまんことをしたな」

「いや、逆に感謝してもらっていいぞ」

「む? どういうことじゃ?」


 そんなやり取りをしていると、真凛と黒武者もやってきた。

 とりあえず、全員、昼食はカップ麺で済ませることになった。



 そして、食べ終わったあと、黒武者が口を開いた。


「で、これからどうするつもり?」

「どうするって、とりあえずは昼寝かな」

「えー! 起きたばっかりなのにぃ?」


 口を尖らせる栞奈。


 どうせ、遊びたいとか言うんだろ?

 さすがにこの連日は体力を使いまくってるから、今日くらいはゆっくり休みたい。


 だが、隣にいる真凛が首を横に振った。


「萌乃さんが言っているのは、これからの生活をどうするか、ということですよね?」

「ええ、そうよ」

「これからの生活?」


 なぜ、いきなり壮大な話をし始めるのか?

 と思った瞬間、その意図を理解する。


「……生活費、か」

「母親から送ってくるの?」

「……」


 黒武者の突っ込みに沈黙せざるを得ない。


 おそらく、それはないだろう。

 そもそも息子に何も言わず、引っ越すとだけ書かれた紙一枚しか残さなかった母親だ。

 毎月、生活費を送って来るとは思えない。


 ……というより、金を持ち逃げしやがったな。

 だから、引っ越しの場所を書かなかったのか。


「家賃はかからないにしても、食費や光熱費はどうするの?」

「そ、そんなこと言われてもな……」

「そんなの、川から魚を獲ってくればいいじゃろ」

「そんな原始人みたいな生活に耐えられるのはお前くらいだ」


 俺が寝豆美の頭を撫でてやると気持ちよさそうに目を細める。

 それを見て、栞奈が頬をぷくうと膨らませた。


「おじさん! 私も! 私も!」


 頭を付き出してくる栞奈。


「面倒くさい」

「ひどい!」


 それにしても、どうする?

 確かに黒武者や真凛の言う通り、金はすぐに尽きてしまうだろう。

 畑でも耕して、自給自足でもするか?

 魚は禰豆美に取って来てもらうとして、肉をどうするか、だな。


「お兄さん、心配することはありません」

「どういうことだ?」

「ないなら、稼げばいいんです」


 ニコリと真凛が笑みを浮かべたのだった。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?