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第45話 元魔王の少女

 『はいばら』に『ねずみ』か……。

 まさかな。


 こっちに来て、2、3日だと言っていた。

 さすがにこんな短時間でアニメとかにはハマらないだろ。

 某有名な作品のろりキャラの二大巨頭に名前が似ているのは偶然ということにしておこう。


 ……肯定されても困るし。

 ここは触らぬ神に祟りなしだ。

 いや、魔王か。


 ……どうでもいいな。



 その後、俺たちは細心の注意を払って家へと戻る。

 今まで一番気を使って。


 今回ばかりは本気で通報されかねない。

 なんせ、深夜の1時過ぎに8歳の金髪の子供を連れた怪しい集団だからな。

 しかも、その中にはセーラー服も混じっている。


 こんなの、もう事案にしか見えない。



「もちろん、儂は正博と寝るぞ」

「えー! それって、絵面的にマズくない?」

「ああ。それはあるな」

「でも、お兄さんっぽいと言えば、お兄さんっぽいです」

「あー、確かに」

「どういう意味だよ!」


 無事、家に到着後、禰豆美を風呂に入れて着替えさせ、いざ寝ようとしたときにこの騒動である。

 俺の部屋で、だ。


 まあ、禰豆美が風呂に入るとき、俺と入ると言い出したという非常に危険な騒動があったが。

 もちろん、禰豆美は栞奈と真凛に入れて貰った。

 当然だ。

 これ以上、捕まったときの余罪を増やすわけにはいかない。


 あと、黒武者も一緒に入ると駄々をこねたという騒ぎもあったが、それは無視することで解決した。


 今も風呂上がりの栞奈をネットリとした目線で見て、微笑んでいる。

 怖いことこの上ない。

 どう見ても、俺よりもこいつの方が犯罪者予備軍だろ。


「お前は禰豆美には興味ないんだな。その点だけはホッとしたよ」

「私のストライクゾーンは15から16歳までの女の子なの」

「……ものすごく狭い上に、誰も打てねえクソボールだな」


 打ったら退場不可避の危険球だ。

 栞奈には後1年、是非とも逃げ切っていただきたい。


 そんな中、栞奈、真凛、禰豆美の口論は続いている。


「でもさー、ねずっちがオッケーなら、私もオッケーじゃない?」


 これまた危険な……。

 芸人みたいなあだ名を付けるなよ。


「確かにそうですね。それなら僕は完全にセーフです」


 ……いや、アウトだよ。

 てか、俺は一人で寝たいんだが?


「うーむ。儂はぜひ、川の字というもので寝て見たかったのだがな。儂、正博、黒武者の順で」


 ……なんで俺が真ん中なんだよ。

 それじゃ、川って字になんねーぞ。


「じゃあ、私はおじさんの上で!」

「では、僕はお兄さんの下にします」


 なんだよ、そのカオスな状況は。

 嫌だよ、どう考えても寝づらいだろ。


 このまま放置していると一向に、寝られない気がするな。


「栞奈、真凛、禰豆美の3人で寝ろ。黒武者は俺の部屋、俺はリビングで寝る。これでいいだろ」


 と言ったところで俺は、ハッと気づく。


 俺、一番被害被ってねーか?

 なんで、俺の部屋なのに、俺が寝ることできないんだろう?

 不可解過ぎる。


 とはいえ、これでみんな納得してくれるだろう。


「ダメじゃ!」


 あっさりと禰豆美に却下された。


 なんで?

 俺、かなり譲歩したぞ?


「儂は正博と寝たい!」

「我がまま言うな! 子供かっ!?」

「子供じゃ」

「……そうでした」


 うーん。

 一向に話が進まない。

 俺、もう寝たいんだけど。


「簡単な話じゃろ。みんなで寝ればよい」

「いや、部屋の広さ的に無理だろ、5人は」

「狭いなら広げればよいじゃろ」


 スクっと立ち上がった禰豆美は壁に右手を当てる。


 そして――。


「はっ!」


 一瞬、壁が光ったと思ったら、壁が消失した。

 まるで最初から壁なんかなかったように。


「ざっとこんなもんじゃ」


 腕を組んで得意げに笑っている。


 いやいやいや。

 なんてことしてくれてんだよ!


 って、ちょっと待て。


 隣と言えば、母親の部屋だ。

 真夜中にいきなり、部屋を繋げられたらかなりビビるだろう。


 とりあえず、なんとか誤魔化せねば。


 と思っていたのだが……。


「あれ?」


 母親の部屋だったはずの隣の部屋は、もぬけのカラになっていた。


「なんで? どこ行ったんだ?」


 一切の家具も物も無い。

 契約前の賃貸みたいに、綺麗さっぱり人のいた痕跡がなくなっている。


 いや、正確に言うと部屋の中央に一枚の紙だけが残されていた。


「なんだろ?」


 栞奈が紙を拾い上げる。

 そして、紙を見た後、こっちに歩いてきて、紙を渡してきた。


「おじさんへ、だって」

「母親からか?」


 紙を受け取り、視線を落とす。


『引っ越します。母より』


 そう書かれていた。


 引っ越す? なんでだ?

 確かに、最近はあれよあれよという間に、他人が住み着き始めた。

 母親からしたら、鬱陶しいこの上ないだろう。

 だから、引っ越したいと思う気持ちはわかる。

 それに、思い出してみると、この数日間は全く母親の影を感じなかった。

 同じ家にいたのにだ。


 がしかし、実際に引っ越すとは思わなかった。

 そんなお金、どこに……。


 あっ!


 そういえば、母親は女神から3億円を受け取っている。

 そんだけあれば、いいマンションに引っ越せるだろう。


 ……言えよ。


 まあ、言われたところで「ふーん」としか返せなかったけどさ。

 それでも言えよ。

 一応は息子だぞ。


 ……そんな息子の俺だが、実の母親に1度殺されてるからな。

 こんな距離感なのはしかたないか。


「うむ! 準備万端じゃ!」


 俺が呆然としている間に、禰豆美と栞奈、真凛がせっせと自分たちの部屋から布団を持って来て、敷き詰めていた。


「よし! 寝るぞ!」

「おー!」


 禰豆美の掛け声に栞奈が右手を上げる。


 この後、少しだけ並び順で揉めたが、結局は以下のように決まった。


 部屋の左から。

 真凛、栞奈、禰豆美、俺、黒武者。


 妥当と言えば妥当な配置か。


 とにかく今日は疲れた。

 俺は布団に入って1分もしないうちに眠りに落ちていったのだった。

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