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第44話 とりあえずお持ち帰り

 魔王。

 ゲームとかアニメやラノベのような創作物でしか聞かない言葉。

 まさか、現実で聞くことになるとは思わなかった。


 ただ、女神がいるのだから、悪魔や魔王がいてもおかしくないだろう。


「……この子が魔王、だと?」

「はい。そうみたいです~」

「そうは見えないんだがな……」


 チラリと女の子を、改めて見てみる。

 8歳ほどの華奢な女の子。

 普通の人間にしか見えない。


 まあ、人間と言っても、ハリウッドに出てくるような綺麗な顔をしているが。

 目は引くが、人外とは思えない。


「そんなんで、よく魔王なんてやれてたな。カリスマ性ゼロだろ」

「元の儂はもっと威厳のある姿だったぞ。ボンキュッボンのムチムチじゃ」

「……それだと魔王って言うより、悪の女幹部って感じだな」

「負けた時に、服とか破れてお色気サービスポジションだよね」


 いつの間にか、近くに来ていた栞奈と真凛。

 どうやら、さっきまで後片付けをやってくれていたようだ。


「なんで、幼女の姿になったんですか?」

「うむ。この姿の方が動きやすいからのう」

「へー。考えた上だったってことか」

「あとはロリが好きなのじゃ」

「……絶対、そっちの理由が強いだろ」

「だって、好きな姿にしてもらえるんじゃぞ? 飛びつくに決まっておろうが」


 思ったより、魔王って軽いんだな。

 そんなもんなのか?


「……って、ちょっと待て! 姿って希望できたのか?」

「む? 結構、細かく聞かれたぞ」


 ……どういうことだ?


「おい、女神! 俺の時はそんなこと聞かれなかったぞ!?」

「面倒だったので~」


 ああ。そういえば、そういうやつだったな。

 こいつ、本当は女神じゃなくて悪魔なんじゃないのか?


「それはそうと、転生したってことは、その……あっちの世界で死んだってことでいいのか?」

「そうじゃ」

「やっぱり、勇者に倒されたとかなのか?」

「食当たりじゃ」

「……」


 おっと。

 魔王とは思えない死因だな。

 まあ、死因に関して言えば、俺も人のことは言えんが。


「凄い、美味な魚がおったのじゃがな。肝に毒があるんじゃ。当然、食べるときは肝を取り除くんじゃが、ごく稀に体に毒が残ってる場合があったんじゃよ」

「……それに当たったわけか」

「うむ。100万匹に1匹くらいの確率らしいのじゃが……カッカッカ。ぶち当たってしまったというわけじゃな」


 なんとも運が悪い魔王だな。

 そんなんで王が死んだなんて、残された魔族たちが可哀そうになってくる。


「ねえねえ、その体になったってことは力とかもなくなっちゃったの?」


 栞奈が興味津々に女の子を見ながら言う。

 確かに気になるところだ。

 仮に能力がなくなるなら、幼女に転生したことは完全に悪手だったことになる。


 だだ、元魔王の女の子はフルフルと首を横に振った。


「いや、魔力は健在じゃぞ」


 そう言って、右手の手のひらを上に上げると、突然、巨大な炎の玉が出現した。

 直径、3メートルくらいはあるだろうか。


「ふん!」


 そして、そのまま上空へと火の玉を飛ばす。

 数秒後。


 ドーンと上空で爆発して、火花が飛び散った。


「たーまーやー! じゃったかのう?」


 まさしく花火といったところだった。

 それを一瞬で作り出すなんて、かなり凄い。

 さすがは魔王といった感じだろうか。


「わー! すごいー!」


 栞奈が女の子に抱き着く。


 ……よくそんなことができるな。

 あれを上空に撃ったからよかったものの、こっち側に飛ばされていたら全滅していたところだ。


 そんなことを考えていたら、いつの間にか隣に黒武者がいて、囁くように言ってくる。


「……どうするの? 倒さないといけないとか、そういう流れじゃないの?」


 考えてみると、あり得る話だ。

 相手は悪魔側の転生者。

 女神のことだから、気軽に「倒してください~」とか言いそうだ」


「……女神。どうなんだ?」

「いえ、別にそんなことしなくていいですよ~」

「そうなのか?」

「だって、悪いことしてないですよね~?」


 確かに女の子は何一つ悪事を行っていない。

 さっきの炎の玉もちゃんと上空に撃ったし、肉だって、最初は物々交換を持ちかけてきた。

 魔王という存在とは思えないほど、紳士的というか、常識的な行動だ。


「あれ? っていうか、お前、さっき魚を手づかみしてなかったか?」

「うむ? それがどうしたんじゃ?」

「魔法使えばよかったんじゃないのか?」

「……」


 沈黙する女の子。

 ごめん。聞いちゃダメだったか。


「わ、わざとじゃ。大体、魔法を使ったら、魚は跡形もなく吹き飛ぶじゃろ?」

「例えば、雷の魔法とかで痺れさせるとかはできなかったのか?」

「……」


 黙っちゃった。

 しかも、ちょっと涙ぐんでる。

 ホント、ごめん。

 俺が悪かった。


「お兄さん、どうしましょうか?」

「ん? なにがだ?」


 真凛が俺の服の裾をクイクイと引っ張てくる。


「魔力が残ってるってことは、危険な存在ということです。そのまま放置するのはマズい気がするんですが……」

「言われてみると、そうだな」


 女神の言い方だと、今はまだ悪いことをしてないから、倒さなくていいという話だ。

 だが、もし、元魔王が悪事を働けば、倒せという可能性が高い。

 そうなった際、いくらチートスーツがあったとしても勝てるとは限らない。

 というか、そもそも戦いたくはない。


「なあ。お前、これからどうするつもりなんだ?」

「む? ……そうじゃのう。城を建てたいとは思うんじゃが、どうしていいかわからん」


 今は常識的な行動をとっているようだが、いつ魔王の本能に目覚めるかわらかない。

 城を建てるために、世界を征服するとか考え出したら終わりだ。


 ……となれば、やれることは一つか。


「なあ、俺たちと一緒に来ないか?」

「……良いのか? 儂としてはとても助かる。なにしろ、この世界のことを何も知らないからのう」

「よし、決まりだな。じゃあ……って、そうだ。名前をまだ聞いてなかったな。教えてくれるか?」

「うむ。灰薔薇、禰豆美じゃ」

「……」


 ……何とも、色々な方面で危険な名前だった。

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