今考えてみると、たぶんスタートから失敗してたんだと思う。
昼に起きた時点でダメだし、思いついたからやろうとした時点で詰んでいた。
なんていうか、こういうのは前もって計画を立ててやるべきことだ。
遊園地に遊びに行くのだって、前日に決めた。
前日でも遅いくらいだろう。
普通はせめて1週間前とかに決めるもんじゃないだろうか?
……知らんけど。
まあ、なんにしても俺たちは陽キャではなく陰キャ側だろう。
つまりは、なんだかんだいって、『こういうこと』に慣れていないのだ。
いや、慣れていないどころか未経験であり、今回が初体験だった。
バーベキューなんて、材料と道具を揃えればいいだけ。
あとは現地で肉を焼いて、美味しく食べればいい。
うーん。
なんとも浅はかで愚かな考えだ。
実に未経験者らしい。
大体、世の中、一見、簡単そうに見えるのは熟練者がやっているからだ。
手馴れている人間がやっているからこそ簡単に見えてしまう。
そして、自分にも出来てしまうと錯覚する。
まあ、クドクドと後悔を垂れ流ししていても仕方がない。
今、俺たちが置かれている状況を、順を追って整理してみる。
まず、バーベキューをしようと決めて、家を出たのが15時近く。
そこから道具をそろえるためにホームセンターへ行った。
七輪や火を起こす道具、テーブルや椅子、皿、箸、トングなどなど細かい物を購入。
もちろん、すぐに買い揃えれたわけではない。
普段、こういうところに行き慣れていない場合は、もちろん、テンションが上がる。
そして、俺たちは無駄に金を持っているのだ。
「見て見て! これすごーい! このでっかいのにしようよ!」
「……アメリカのホームパーティーじゃねーんだぞ。そんなに大きな七輪買ってどうするんだよ?」
「ほら、大は小に勝てるっていうでしょ?」
「大は小を兼ねる、な。それに持ち運びするんだぞ。できるだけ、コンパクトにした方が良いって」
「あー、おじさん、見てよ、テントだ! これ欲しい!」
「なんでだよ! バーベキューだぞ!」
と、まあ、こんな感じで色々買い揃えるだけで3時間が経過した。
この時点で18時。
ちなみになんだかんだいって、かなり色々買ったせいで持てないと気づき、リヤカーまで買った。
これも初心者あるあるだ。
よくわからないから、何でも便利そうだといって買い込んでしまう。
そして、結局は使わないというやつだ。
次に、肉などの食材の購入。
スーパーに行って適当に肉をかごの中に放り込んでいく。
シーズンなので、バーベキュー用の肉なんかは結構売っていた。
ただ、これが完全に逆効果。
「あ、これも! これも! こっちもいいねー!」
「……お前はフードファイターかなにかか? 4人でこんなに食えるわけねーだろ」
「お兄さん、マシュマロは4袋でいいですか?」
「……焼き肉だぞ? たぶん、お前は焚火とゴッチャになってる」
「シーザーサラダとコブサラダ、どっちがいいかしら?」
「だから、焼き肉だっつってんだろ! 焼く気ねーじゃねーか!」
肉、野菜、海鮮、おにぎりと、絶対に食いきれないだろう量の食材を購入。
これにも2時間を要した。
つまり時間は20時。
「なんか暗くなってきちゃったねー」
「急ぎましょう」
真夏だと20時くらいはギリギリ明るいというか薄暗い状態だ。
まだ、なんとか明かりが無くても微妙になんとかなる明るさ。
たぶん、それがダメな方向へ拍車をかけた。
なぜ、ここで誰も「明日にしよう」と言わなかったのか。
きっと俺自身、なんだかんだ言ってテンションが上がってたんだと思う。
俺が何としてでも止めるべきだったんだ。
川の近くにあるバーベキュー場。
着いたときには21時過ぎ。
辺りはさすがに真っ暗だ。
「わー! 私たちの貸し切りだー!」
そりゃそうだろう。
キャンプじゃないんだから、他に人がいるわけがない。
電灯など、照明器具もないところだ。
だから、考えるべきだったんだ。
なんで、人がいないのかを。
人がいないってことは、誰もこの時間にバーベキューをやろうとしている人間がいないってことだ。
「暗いわ。もっと私を照らしなさい」
「……手元じゃないのか? っていうより、俺は火を起こさないとならないんだが?」
「要領が悪いわね。足でやりなさいよ」
「できるか!」
「おじさん、どの肉から焼く?」
「だから、まだ火を起こしてねーっての! 肉を開けるな!」
「お兄さん、甘口のタレと辛口のタレ、どっちがいいですか?」
「お前ら、順番おかしいって!」
火を起こすというのも、簡単そうで意外と難しい。
今は色々と便利な道具があるみたいだが、それも上手く使えなければ意味がない。
結局、なんとか火を起こすことに成功したのは23時過ぎ。
真夜中といっていい時間だ。
下手をすると通報しかねない。
てか、俺たち、通報されそうなことばっかりしてんな。
真夜中の暗闇の中、肉がジュウジュウと焼ける音が響く。
なんともシュールな光景だ。
「正博、ボーっとしてないで、ちゃんと照らしなさい!」
「あ、ああ……」
で、俺は今、電灯役をやらされている。
七輪を照らす役目だ。
本来、バーベキューにこんな役はいないはずなんだけどな。
「はい、おじさん、お肉焼けたよ。あーん」
「お、サンキュー! ……熱いっ!」
「あ、ごめん。フーフーするね。フー! フ―!」
「口じゃなくて、肉にやれ!」
「お兄さん、デザートのマシュマロです」
「デザート、早くね!? てか、俺、買うの止めなかったっけ?」
暗闇の中のバーベキューはなんていうか色々カオスだった。
闇鍋をやってるような感じ。
まあ、闇鍋なんてやったことねーけど。
そんなこんなで、バタバタしながらもそこそこ、みんなの腹が満たされた。
そして、ここで終わればまだ笑い話で済んだかもしれない。
真夜中にバーベキューなんて馬鹿なことしたよねー、と。
だが、当然、無事に終わるわけがなかった。
俺たちは既に……いや、随分と前から、事件に巻き込まれていたのだった。