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第41話 真夜中のバーベキュー

 今考えてみると、たぶんスタートから失敗してたんだと思う。

 昼に起きた時点でダメだし、思いついたからやろうとした時点で詰んでいた。


 なんていうか、こういうのは前もって計画を立ててやるべきことだ。

 遊園地に遊びに行くのだって、前日に決めた。

 前日でも遅いくらいだろう。

 普通はせめて1週間前とかに決めるもんじゃないだろうか?


 ……知らんけど。


 まあ、なんにしても俺たちは陽キャではなく陰キャ側だろう。

 つまりは、なんだかんだいって、『こういうこと』に慣れていないのだ。

 いや、慣れていないどころか未経験であり、今回が初体験だった。


 バーベキューなんて、材料と道具を揃えればいいだけ。

 あとは現地で肉を焼いて、美味しく食べればいい。


 うーん。

 なんとも浅はかで愚かな考えだ。

 実に未経験者らしい。


 大体、世の中、一見、簡単そうに見えるのは熟練者がやっているからだ。

 手馴れている人間がやっているからこそ簡単に見えてしまう。

 そして、自分にも出来てしまうと錯覚する。


 まあ、クドクドと後悔を垂れ流ししていても仕方がない。

 今、俺たちが置かれている状況を、順を追って整理してみる。


 まず、バーベキューをしようと決めて、家を出たのが15時近く。

 そこから道具をそろえるためにホームセンターへ行った。

 七輪や火を起こす道具、テーブルや椅子、皿、箸、トングなどなど細かい物を購入。

 もちろん、すぐに買い揃えれたわけではない。

 普段、こういうところに行き慣れていない場合は、もちろん、テンションが上がる。

 そして、俺たちは無駄に金を持っているのだ。


「見て見て! これすごーい! このでっかいのにしようよ!」

「……アメリカのホームパーティーじゃねーんだぞ。そんなに大きな七輪買ってどうするんだよ?」

「ほら、大は小に勝てるっていうでしょ?」

「大は小を兼ねる、な。それに持ち運びするんだぞ。できるだけ、コンパクトにした方が良いって」

「あー、おじさん、見てよ、テントだ! これ欲しい!」

「なんでだよ! バーベキューだぞ!」


 と、まあ、こんな感じで色々買い揃えるだけで3時間が経過した。

 この時点で18時。


 ちなみになんだかんだいって、かなり色々買ったせいで持てないと気づき、リヤカーまで買った。

 これも初心者あるあるだ。

 よくわからないから、何でも便利そうだといって買い込んでしまう。

 そして、結局は使わないというやつだ。


 次に、肉などの食材の購入。

 スーパーに行って適当に肉をかごの中に放り込んでいく。

 シーズンなので、バーベキュー用の肉なんかは結構売っていた。

 ただ、これが完全に逆効果。


「あ、これも! これも! こっちもいいねー!」

「……お前はフードファイターかなにかか? 4人でこんなに食えるわけねーだろ」

「お兄さん、マシュマロは4袋でいいですか?」

「……焼き肉だぞ? たぶん、お前は焚火とゴッチャになってる」

「シーザーサラダとコブサラダ、どっちがいいかしら?」

「だから、焼き肉だっつってんだろ! 焼く気ねーじゃねーか!」


 肉、野菜、海鮮、おにぎりと、絶対に食いきれないだろう量の食材を購入。

 これにも2時間を要した。

 つまり時間は20時。


「なんか暗くなってきちゃったねー」

「急ぎましょう」


 真夏だと20時くらいはギリギリ明るいというか薄暗い状態だ。

 まだ、なんとか明かりが無くても微妙になんとかなる明るさ。


 たぶん、それがダメな方向へ拍車をかけた。

 なぜ、ここで誰も「明日にしよう」と言わなかったのか。


 きっと俺自身、なんだかんだ言ってテンションが上がってたんだと思う。

 俺が何としてでも止めるべきだったんだ。


 川の近くにあるバーベキュー場。

 着いたときには21時過ぎ。

 辺りはさすがに真っ暗だ。


「わー! 私たちの貸し切りだー!」


 そりゃそうだろう。

 キャンプじゃないんだから、他に人がいるわけがない。

 電灯など、照明器具もないところだ。


 だから、考えるべきだったんだ。

 なんで、人がいないのかを。

 人がいないってことは、誰もこの時間にバーベキューをやろうとしている人間がいないってことだ。


「暗いわ。もっと私を照らしなさい」

「……手元じゃないのか? っていうより、俺は火を起こさないとならないんだが?」

「要領が悪いわね。足でやりなさいよ」

「できるか!」

「おじさん、どの肉から焼く?」

「だから、まだ火を起こしてねーっての! 肉を開けるな!」

「お兄さん、甘口のタレと辛口のタレ、どっちがいいですか?」

「お前ら、順番おかしいって!」


 火を起こすというのも、簡単そうで意外と難しい。

 今は色々と便利な道具があるみたいだが、それも上手く使えなければ意味がない。


 結局、なんとか火を起こすことに成功したのは23時過ぎ。

 真夜中といっていい時間だ。

 下手をすると通報しかねない。


 てか、俺たち、通報されそうなことばっかりしてんな。


 真夜中の暗闇の中、肉がジュウジュウと焼ける音が響く。

 なんともシュールな光景だ。


「正博、ボーっとしてないで、ちゃんと照らしなさい!」

「あ、ああ……」


 で、俺は今、電灯役をやらされている。

 七輪を照らす役目だ。


 本来、バーベキューにこんな役はいないはずなんだけどな。


「はい、おじさん、お肉焼けたよ。あーん」

「お、サンキュー! ……熱いっ!」

「あ、ごめん。フーフーするね。フー! フ―!」

「口じゃなくて、肉にやれ!」

「お兄さん、デザートのマシュマロです」

「デザート、早くね!? てか、俺、買うの止めなかったっけ?」


 暗闇の中のバーベキューはなんていうか色々カオスだった。

 闇鍋をやってるような感じ。


 まあ、闇鍋なんてやったことねーけど。


 そんなこんなで、バタバタしながらもそこそこ、みんなの腹が満たされた。


 そして、ここで終わればまだ笑い話で済んだかもしれない。

 真夜中にバーベキューなんて馬鹿なことしたよねー、と。


 だが、当然、無事に終わるわけがなかった。

 俺たちは既に……いや、随分と前から、事件に巻き込まれていたのだった。

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